唐沢岳幕岩大凹角ルート~唐沢岳~餓鬼岳~安曇野

1994年12月29日~1995年1月2日
瀧島(記)、桑原、中嶋

幕岩から頂上を目指したい、頂上は餓鬼岳。そしてどうせなら安曇野まで行こうということで、計画した。餓鬼岳から燕岳への稜線は数年前の冬にトレースしたので、今回は直接安曇野の信濃常盤駅を目指す事とした。岩場から縦走して頂上を踏み下界の駅まで歩き通すこの計画はを自分でも気にいった。人気も少なくラインも素直だと思えたからだ。

12月29日 快晴

七倉 7:00―取付 12:30―洞穴テラス16:50―17:50

七倉で計画書を提出して出発する。ダム下より水に落ちないように気をつけながら唐沢をつめる。風もなく天気も良いので、大町の宿で登はん準備をしてすぐに取りつき、中間バンドを目指す。

1ピッチ目、右稜のコルヘは上がらずルンゼの左のダケカンバから夏の取付である凹角まで雪の斜面を登る。

2ピッチ目、ここからが夏の1ピッチ目だ。凹角を人工で抜けてから直上し50メートルいっぱいで洞穴テラスに這い上がる。夏と違い、すごく難しい。

3ピッチ目、洞穴を左から回り込み人工で直上するがボルトの掘り出しに苦労する。草付からボサテラスに上がる。ここまでトップの中島はロープをフィクスして下降してきた。ボサテラスには3人が楽に寝られるエスパースは張れないので今夜は狭い洞穴の中で膝を抱えて寝ることにする。

12月30日 曇りのち晴れ

洞穴テラス 7:50―中央バンド11:10―終了点15:35―BP17:00

洞穴は乾いていてけっこう快適だった。とはいえ体を延ばせないビバークはきつかった。ボサテラスまでユマールで登り返す。

4ピッチ目、トップは桑原。ボルトにすがりながら左にトラバースしてから凹角に入る。心もとないブッシュにアブミをかけてアイスフックをきめて、草付にはいあがっていった。

5ピッチ目、6ピッチ目は上部の大凹角目指して傾斜の落ちた草付を膝から腿くらいのラッセルで登っていく。ここ中間バンドでトップを瀧島にかわる。

7ピッチ目、右壁を人工でテラスへ上がり、さらに右壁を人工からフリーで右上する。ランペを左上して凹角内のテラスを目指すが、テラス手前の一歩がふんぎりがつかず、ビビった。

8ピッチ目、チムニー右壁を人工で直上し右に出てから、あとはフリーでロープを延ばし倒木をくぐると終了点の右稜の頭にヒョッコリとでた。

大凹角完登の握手を交わし、ガチャ類をしまい、上部西壁ルンゼを1時間程登ったところで、左岸にテントスペースを見つけ、喜びに浸りながら体を延ばして熟睡した。

ルートのポイントは2ピッチ目、夏は易しいが今回はえらく悪かった。3、4、5、7ピッチ目も難しかった。小さいサイズのフレンズとアイスフックには随分お世話になった。

12月31日 風雪時々晴れ

BP 7:30-唐沢岳13:30―BP16:00

外に出ると風も雪もほとんど気にならない。上部西壁ルンゼを膝下位のラッセルでつめ適当に尾根に上がる。頻繁に岩場も出てきて、感をたよりにルートをさがす。少々のヤブコギとちょっとした岩登りと雪壁、雪稜で楽しく高度を稼げる。13時30分、花崗岩塊の唐沢岳山頂についた。山頂付近は花崗岩が露出していて、その間を縫ってルートを探る。一度ロープを出しただけで、樹林帯に入ることができた。樹林帯に入ると急に雪がふえ深い所は腰までのラッセルになる。今回、軽量化のためワカンは持ってこなかったが、この位は覚悟していた。 2.5万図の2483m付近の森の中でテントを張った。

1月1日 風雪のち晴れ

BP7:40 -餓鬼岳12:30―大凪山16:00

夜のうちに30センチ程積もったようだ。もしワカンを持っていても、きっと着脱ばかりしていて、なくても大差ないように思える。一度右の尾根に引き込まれたが、すぐに気が付き、たいしたロスにはならなかった。餓鬼のコブ手前で 樹林帯を抜け出るとすごい風で時々は止まって耐風姿勢をとらねばならない。それでも今日行動できたのはこの山域が北アルプスで第三列目にあたり、立山と後立山の稜線が冬の季節風をさえぎってくれるからだ。

北アルプスで最も気象条件がよい山域だろう。

餓鬼のコブは花崗岩の立派なピークだが、簡単に右から巻くことができた。餓鬼岳の登りで一度は樹林帯に入りホッとしたが稜線直下で吹さらしにでると、前にも増して風は強まりやっとのおもいで頂上にたどり着いた。雲間から雪のない安曇野も見える。下降路の北東に延びる尾根を確認し、すぐに下りだす。百曲がりの急斜面を真東に駆け下り、大凪山に続く緩やかな尾根に着いてホッとして大休止。広く緩やかな尾根を惰性で大凪山まで歩き泊まる。

1月2日 快晴

BP7:40 -信濃常盤駅14:00

気温は低く雪崩はないと思い白沢の登山道を下る。とは言っても夏道はほとんど確認できない。途中、尻制動で飛ばし下部はルートファインディングに気を使う。 車道に出て満ち足りた気分で安曇野を満喫しながら駅を目指す。

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思えば山中では誰にも会わずすべて自力で進んだ。先行パーティーのトレースも皆無、自分達の力を思う存分試す事ができた。10月頃からメンバーでこの山行を想定してトレーニングを重ね、お互いのテンションを高めてきた。100パーセントの成功で満足している。