越後 荒沢岳東尾根~花降岳中尾根下降

1999年12月29日~1月1日
畠中、関(記)

雪山はルートを尾根や稜に求めることにより、特別な登攀技術がなくてもオリジナルラインを引くことができる。

そんな山登りをするのに越後の山々は絶好のフィールドであり、今回は越後荒沢岳を目指すことにした。

パートナーは卒論で忙しい中、畠中が参加してくれる事になった。

2人が山に求めるものは一致しているので楽しみであった。

(酒ではありません)

12月28日

仕事納めの納会が予想以上に長引き、予定の電車に乗るのが危うくなってしまう。

水垣に頼んで新横浜まで車で送ってもらい、新幹線を乗り継いで何とか新潟行きの最終に乗ることができた。

浦佐で先に着いている畠中とおちあう。

12月29日

みぞれ

タクシーで銀山平に着くとシルバーラインのトンネル出口は封鎖されており、下界と隔絶されている。

積雪はここ数年のうちでは格段に多くおもわれた。

今日は東尾根の取付きまで奥只見湖岸の国道約6kmのラッセルとなる。

みぞれで緩んだ雪はズブズブともぐり、水分をたっぷり含んだ雪は非常に重い。

アプローチは半日ともくろんでいたが、取付きのグミ沢トンネルに着いたときは3時を回っていた。

今日はトンネル内に泊まることとし、東尾根上までの急斜面に空荷でトレースを着けてトンネルに戻った。

12月30日

晴れ

今回は軽量化にナーバスになる必要もないので各自1Lの酒を用意してある。

昨夜は10時まで飲んでしまい目が覚めると明るくなっていた。

「たいしょー、またやっちゃったみたいですよ」

という畠中に無言で頷くしかない。

天気はピーカンであった。

昨日のトレースを追い東尾根上に這い上がると尾根の全容がみえた。

東ノ城ピークまでは急傾斜にせり上がり、その先は荒沢岳までいくつかのピークを連ねて雪稜がうねうねと続いている。

7キロに及ぶ長大な尾根である。

きれいな稜線を見て登高意欲が沸いてくるのを感じる。

特に悪場もなく、今日もラッセルに喘ぐだけだった。

この好天下に少しでも行程をかせぎたいのと寝坊した罪悪感もあって「ヘッデン行動しようか」なんて言ったが日の落ちた西ノ城ピークに着いた時はヘロヘロで体がいう事を聞いてくれなかった。

この日も9時半頃まで飲んでしまう。

12月31日

晴れ

今日も晴れている。

行動時間が長引いている為天気図をとれていない。

また,ラジオも新潟の局を見つけることが出来ずいまいち天気の概況が分からなかった。

ともかく2日続きの晴天に半信半疑と言ったところだ。

西ノ城から先は木々は完全に雪に埋まっており、真っ白なナイフエッジと雪壁が続く。

今日もラッセルにあえぐだけだったが、素晴らしい景色に高揚せずにいられない。

銀山平へのエスケープに設定してある花降岳に着いたのは11時半だった。

中の岳へ進むか否かの決断は、1日停滞したらアウトだったので諦めることにする。

未練はあったが本気で中の岳へつなげるには長期の日程を痛感した。

先へ進みたいという欲求が強い時に引き返す決断を冷静に下すのは難しくつらい。

こんな時畠中はいいことを言ってくれる。

「いきなり成功しようと思わないで気長にやりましょ。」

そうそう、俺はまだ若いからね!

花降岳に荷を置いて荒沢岳を往復。

快晴の頂上からの展望は申し分なく、眺めているといろいろなラインが浮かんでしまう。

実現性を無視してあれやこれやと話をするのは楽しい一時だ。

アタックを終えて花降岳中尾根の下降に移る。

今回荒沢岳からのエスケープルートの設定には少し悩んだ。

というのも夏の一般道である前クラ尾根の困難さを聞かされていた為である。

しかしこの尾根の下降も楽ではなかった。

右手には雪庇が張りだし左手はヤブが密生して落ち込んでおりヤセ尾根を作り出している。

雪庇を恐れて左手の斜面に入れば、不安定な雪は体を腰まで埋めザックはヤブにからまり発狂寸前だ。

中尾根の1500mピーク付近で狭いリッジを整地してテントを張った。

好天もこれまでなのか、みぞれのような雪が降り出した。

1月1日

風雪

今日は吹雪いており、少なくとも30cmは積もったようだ。

それでも銀山平までなので楽勝と考えていたが、この尾根の1500m~1150m地点までが今山行の核心となった。

何せ雪が不安定なので急なヤセ尾根の下降に神経を使う。

1500mピークの一つ先のコブから20mの懸垂下降で小コルに下りたところから、慎重を機してスタカットで行く事にする。

視界が利かないのと、急傾斜に落ちる尾根をはずさないようにするのが難しい。

何度も地図とコンパスを睨み、ロープのピッチ数により進んだ距離を推定しながらの現在地の確認が続く。

畠中が不安定なリッジを避けて左手の斜面をトラバース気味に下降に移るや「ロープアップ」のコールがかかり急いで引き上げると足元から雪崩の亀裂が走ったとの事。

そんなこんなで計11ピッチのスタカットで尾根の緩傾斜帯に入り込んだ時にようやく安堵感につつまれることができた。

またしても深いラッセルが待っていたが、今山行の様々な思いを胸に日の落ちかけた銀山平目指して2本足を前に出すだけだった。

今回、東尾根に関しては好天のおかげもあるが難しいところは特になかった。

困難性よりもおそらく今までほとんど登られていないという未知の要素と人里離れた冬の奥只見湖というロケーションが素敵だった。

心残りは中の岳までつなげられなかった悔しさで、思うように休みをとれないのがうらめしい。

とはいうものの満足のいく山行であったし、こういった山登りを理解し合える畠中の存在は喜びを倍化してくれた。

〔所要時間〕

12月29日

7:45 銀山平発
15:10 グミ沢トンネル着
15:30 グミ沢トンネル発→空荷で900メートル地点まで
16:30 グミ沢トンネルに戻る

12月30日

9:30グミ沢トンネル発
17:40 西ノ城

12月31日

7:10西ノ城発
11:35花降岳着
12:10花降岳発(アタック)
13:25荒沢岳着
13:45荒沢岳発
14:55花降岳着
15:25花降岳発
17:10花降岳中尾根1500m地点

1月1日

10:05出発
16:00林道(中尾根下降完了)
17:20銀山平下山

〔メモ〕
東京~浦佐   新幹線   7460円
浦佐~銀山平 タクシー 11150円

銀山平に下山した時のタクシーの手配
銀山平は冬季は閉鎖されている。携帯電話は当然使用不可なのでシルバーラインのトンネル内の非常用電話を利用して管理人が連絡をつけてくれる。

シルバーラインについて
例年、1/中~3/中まで通行止となるが、昨年からはトンネル内の工事の為1/5から通行止となっている。向う数年間に渡ってこの状態が続くそうです。