西穂高岳 西尾根

2016年12月30日~31日
薄田、川上(記)

薄田さんが昨年の年末休みにも行った西尾根。新雪ラッセルで時間切れ敗退した薄田さんのリベンジに私も乗っけてもらった。
当初計画では29日に夜行をかける予定だったが、29日夜から30日朝にかけて、天気図から降雪が予想されたため、計画をずらし、30日朝に東京を出発、新穂高の駐車場から歩き始めたのは正午くらいからとなった。やはり、雪が降ったと思われ、林道はふかふかの新雪だった。予備日の1月1日を含めて計3日間。「トレースがついていなかったらこの日程では、厳しいかもな」と昨年の経験に裏打ちされた薄田さんの一言に、私も祈るような気持ちで尾根の取りつきに向かった。
穂高平避難小屋を過ぎて、「さあ、どうだ」とトレースを確認するとまさに「バッチリ」。「ありがたい、助かった」と思いながら歩いていると、尾根の急登が始まる辺りで、2人パーティーが下りてくる。どうやら今年末で最初に入ったパーティーらしく、新雪のラッセルに苦しめられ、2348メートルの第一岩峰手前で、時間切れで敗退したとのこと。ほかに4パーティーほど入山しているらしい。丁重にラッセルのお礼を述べ、別れると、薄田さんが「去年の俺と同じだな、かわいそうに」と万感こもった一言、胸にしみる。
尾根の急登が体に堪えるが、トレースのおかげでがんがん高度が稼げた。1900メートルを過ぎたあたりで午後3時半になったため、幕営。実は私、冬山テント泊は初めて。雪からの水の作り方など、教えてもらいながらの一泊だった。ちゃんと自分用の備忘録に書いておかなくちゃ。夜になると急激に冷え込み、冬用シュラフを持ってきたが、体が冷えて熟睡できず、うつらうつらしながら朝を待つ。特に足元から冷えが来るので、薄田さんが持っていたような足用ダウンが必要だと感じた。3シーズン用シュラフを持ってきた薄田さんも熟睡できなかったそう。私も、荷物軽量化のため、3シーズンを持ってくるか最後まで迷った。アルパインでは、ライトアンドファストが大事と言われるし、今後は3シーズン用にしようかな、と思った。
翌日は4時起床、6時頃に出発し、8時頃には第一岩峰の取りつきに到着。先行の4人パーティーが登攀準備をしていた。薄田さんは、この辺りで幕営して翌日早朝にアタックするか、このまま突っ込むか、時間の問題で悩んでいたが、西尾根の経験がある先行パーティーのリーダーから「山頂までおよそ4時間で抜けるつもり」という話を聞き、それなら当日中に少なくとも西穂山荘まで下れると判断し、突っ込むことに決める。我々もハーネスやアイゼンを装着し、彼らのトレースを辿る。どうやら先行パーティーは、岩峰を右側に巻いて、ルンゼの端を登っていくようだ。「どの辺りの岩を登るのかな」と様子を見ながらトレースをたどっていくと、結局岩を登らずに尾根上に出てしまった。「なんだ、この岩峰完全に巻けるのか」と少し拍子抜け。薄田さんは昨年これを直登したらしい。残念に思いながらも「まあ、まだ第二岩峰があるし」と気を取り直す。
北西稜とのJPを過ぎ、再び岩峰が見えてきた。こちらは第一岩峰ほど難しそうではなく、ロープを出さずに登った。ここで先行パーティーに追いつき、団子になる。

第2岩峰を登る

再び雪稜となったあたりで、「どうぞお先に」と先頭を譲られた。この先、トレースは付いておらず、ところどころ足が深く潜るラッセルとなるものの、大半は、風に鍛えられたカリカリ雪になっていた。このままいけば今年末最初の西尾根登頂パーティーとなることを考えると、気持ちよく登れた。稜線上は、冷たい強風が吹きすさび、体力を奪う。そんな時、ふと山を覆っていた雲が晴れ、北アルプスの山並みが一気に目の前に広がった。近くに虹もできていて、後ろを振り向くと、見渡す限りの雲海が広がっている。得も言われぬ素晴らしい景色に思わず「ヒャー」と声が出た。薄田さんも「来た甲斐があったな」と、お互い喜び合った。

雲が晴れて見えた北アの山並み

頂上直下の岩峰で、4人パーティーはロープを出して登る様子だったが、我々は、そのまま登った。特に難しくはないが、下を見ると完全に切り立っていて高度感が半端ない。このドキドキ感がたまらない。ここは私がトップで登ったが、直登しようとしていたところで、薄田さんから「右に巻いた方がいい」との指摘が。確かに、言われてみれば直登だと、岩がせり出して難しそうだが、当初は右に巻いてもさして変わらなそうにみえた。しかし、指摘に従い、右に巻いて先を見ると、何てことはない雪稜が続いていて、薄田さんのルートファインディング力に舌を巻いた。私も、早くこのようなルーファイ力を身につけたいものだ。

頂上直下からJP方面を見る

12時3分に西穂山頂に到着。「いやー、やったー、疲れたー」と薄田さんと笑いあった。稜線上は強風が吹いているため、すぐに山頂を後にし、西穂山荘に向けて下り始めた。

山頂の薄田さん
山頂の川上

西穂独標を過ぎると、急激に登山者が増え、山ガール度も濃厚に。その先の西穂丸山では、3人組の山ガールと男が「せーの、ジャンプ」とか何とか言いながら写真を撮っていて、なんか我々の来たルートとは隔世の感だ。「あの男、羨まし過ぎる」とチラリと邪念が沸いたが、「いや違う、バリエーションの方が絶対100倍楽しいし」と思い直した、危ない、危ない。この時点でまだ2時過ぎだったため、この日のうちに新穂高ロープウエーまで行って、下界に下った。
やっぱりバリエーションは楽しい。今後も日頃からトレーニングを行い、少しずつステップアップしていければ、と思った。今回も色々な事を教えてくれた薄田さんに感謝、またよろしくお願いします。

コースタイム(かなりアバウト)
12月30日: 正午、新穂高口 → 午後3時半、1900メートル地点(泊)
12月31日: 午前6時、1900メートル地点出発 → 午前8時、2348メートル第一岩峰 → 正午、西穂高岳山頂 → 午後2時、西穂山荘 → 午後3時半、新穂高ロープウエーの西穂高口