北アルプス 赤沢岳西尾根(猫の耳)

1997年5月3日~5月6日
瀧島(記)、森広

山の記録は、家に帰ったら早めに書いた方がよい。一ヶ月もたつと忘れてくる。初めの計画では、ダムから赤沢岳西尾根を登りスバリ岳西尾根または中尾根そして最後に針ノ木岳西尾根で決めるという、ワクワクする計画であった。後立山を三回も登下降するヒマラヤにも通ずる長大な高度差だ。パートナーの森広さんは尋常では考えられない登はん意欲と体力の持ち主だ。

5/3 晴れ時々曇り

7:20 ダム発 12:20西尾根上 14:20 2250M 付近の岩小屋

出発前の心配は雪の少ないこと。その予想は見事に当たりかなり時間を食ってしまった。トロリー乗り場で彼女づれで来ていた山本さん達と会い一緒にバスに乗り込む。室堂まで行き剣沢をスノボーで滑るというおじさんらしからぬ計画だ。いつものトイレの横から出て20分ほど林道をトラバースする。登れそうな雪面を左上しすぐにロープを出すはめになった。亀裂の走った不安定な雪面、リッジの木登り、凹状草付×2の計4ピッチ。雪が例年並ならロープはいらなかったと思う。途中クレバスを越えるところからアイゼンを付けた。ひたすら急登で昼過ぎにやっと西尾根上の緩傾斜にでた。見上げる猫の耳は全く雪を付けていない。しばらく進み2250m付近に岩小屋を見つけて、すこし早いが今日の宿にする。

5/4 雨後晴れ

12:40岩小屋発 18:40本峰とのコル手前

完全な庇の下だったのでテントはほとんど濡れていない。朝、出発しようとして庇の外にでると雨は意外と強かったので、もう一度寝直す。おかげで睡眠不足は完全に解消できた。12時40分テント発。雨は完全に上がったが、猫の耳の登りのコルまで雪が少なくヤブこぎで時間を食う。猫の耳は右から回り込む。みごとな奇峰も裏を回れば簡単にクリアーできるとはずだったが、雪面をしばらく進んだあとのやせたリッジにルートを取るがここもひどいヤブ。途中、トップは空荷でザックを荷上げしたりで、時間かかった。猫の耳の上は痩せた尾根でヤブをこぎながら東峰へ。ここからヤブの中をシングルロープ3回の懸垂でコルへ降り立つ。Ⅲ峰の登りは見た目は悪そうに見えたがロープも使わずにクリアーできた。本峰とのコルの手前の雪庇の上にテントを張る。

5/5 雨後晴れ

9:05B.P.発 11:40赤沢岳 13:00スバリ岳中尾根2ピッチ敗退 16:00B.P.

夜中雨だった。夜が明けてもまだ止まない。ゆっくり飯を食べて、雨が上がってから出発。しばらく稜上を進むが途中から右側の雪面にルートを取る。頂上に着いたときは快晴だった。赤沢岳は後立山主稜線上の目立たないピークだけど、途中に猫の耳を持った急峻な西尾根がある。西尾根から登った赤沢岳は立派なピークだった。この時、当初の計画の針ノ木岳西尾根はすでにあきらめ、稜線から少し下って取り付けるスバリ岳中尾根を今日中にかたずける事にする。ルートを良く観察してからスバリ岳とのコルに荷物を置き取り付きまで下る。易しそうに見えたルートはかなり悪くて2ピッチで敗退する。時間はまだあったけど二人ともやけにあきらめが早かった。重い足取りで稜線まで登り返した。

5/6 曇り後雨

5:00B.P. 7:30扇沢

テント場は稜線上の風の通り道で、風が強く夜中にフライをはずす。天気の回復は望めそうもないので、テント場から直接雪の斜面を針ノ木雪渓目指して下る。途中、ふきのとうを摘みながら歩く。扇沢につくと同時に土砂降りになった。

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関電トンネルができてからはトロリーバスが走る春の連休には赤沢岳西尾根にはアプローチゼロで取り付ける。それなのに何故か人気のない静寂を保っている。見おろせば、まさに真下と言っていいほどの眼下に場違いなダムがあり、その上を歩く人の群が見える。愚かにも大自然に勝ち誇ったが如くダムは存在する。赤沢岳の西尾根は途中に奇峰、猫の耳を擁し一気にダムまで切れ落ちている。西尾根に取り付く登山者はダムからいきなり黒部の大自然のまっただ中に放り出され、ひたすら高見を目指す。

思えば今回は赤沢岳の山頂でカモシカの二人パーティに出会ったのみで春の連休の北アルプスとは思えないほど静かな山登りができた。

猫の耳を西尾根上から観察すると壁は急で脆そうに見える。多数の洞窟状の穴がありそのひとつは反対側まで抜けているように見えた。次の機会に確かめてみたいと思う。

以上

 

北アルプス 赤沢岳西尾根

1996年5月3日~5月5日
櫻井、大滝

5月3日

7:30 扇沢トロリーバス乗車。晴れ。 8:30 黒四ダム出発

9:00 大きく回り込んだ地点の広く浅いルンゼをつめる。途中右方のブッシュが濃い尾根へ右上。ルートに不安を抱いたまま急なブッシュ登りを、ザイルを使用しないで登る。

10:00 1920M地点。展望よく剱岳見える。晴れ。これより尾根らしくなり、問題にはならないがキノコ雪などでてくる。

12:00 2100m地点

13:15 2300m地点。薄曇り。これより三峰西峰のドーム状岩壁のトラバースになる。安定した雪壁をザイルなしでトラバース。支稜についたら雪のない急なブッシュを直上。一ヶ所露岩あり、緊張する。最後は右上気味に行くと雪面に出られた。2400m地点。

14:30 安定しているのでツエルト設営。

5月4日

7:30出発。薄曇り。 露岩帯を行く。巻くときはいつも右側。少し怖い。

8:40 猫の耳 三峰。風少々。9時の交信。  三峰の下降は45mザイル1本で2回半。残置シュリンゲ有り。その後、稜線通しはブッシュがうるさそうなため雪の斜面を右上気味にトラバースしながら高度を稼ぐ。 二峰も巻いたためピークには立たず。

10:38 赤沢岳山頂  空の高いところにどんよりと雲広がる。

13:15スバリ岳

14:40 針ノ木岳

15:45 針ノ木峠 峠からスタートした尻セードで下降。

16:30 大沢小屋付近でツエルトを設営  夜から雪となる。

5月5日

下山。雪の多い年だったので楽が出来たと思う。取り付きの急なブッシュ帯はザイルを使用しなかったが、2p程か。ザイルを使用したのは三峰の下降の時だけ。ハーケンも打たず。  グレードとしては中級だと思う。立山、剱岳、黒部別山、丸山等々展望が素晴らしく登っていて楽しいルートだった。