瑞牆山クライミング

2018年8月18日~19日
河合、玉置(記)

2018年8月18日 (2日目) カサメリ沢
この日は前日の蒼天攀路で疲れたからということでカサメリ沢へ。自分にとっては初めてのゲレンデ。コセロックのあたりは満員だったが、他は比較的スペースに余裕のある感じ。ゆるく登るつもりが、本気のオンサイトトライを連続でやったのでだいぶ疲れてしまった。河合君はギャラクシアン(5.12a)のフラッシュを惜しくも逃してしまい悔しそうだったが、宿題を2つ解決していた。流石。2018年8月19日 (3日目) 大面岩左稜線
この日は早めに帰らなければいけないこともあり、前日に出ていたいくつかの候補の中からアプローチもグレードも程よい大面岩左稜線に行くこととした。アプローチは植樹祭駐車場の手前の駐車場からで、一応大面岩の直下までパノラマコースというハイキングルートになっているらしい。途中登りすぎてカンマンボロンの取り付きに出てしまったり、大面岩への分岐を超えた後で道を間違えたりしたが、どうにか1時間少々でルート脇の取りつきに到着できた。今回は苔が多くわかりづらいというオリジナルの1ピッチ目を割愛して8時ごろに2ピッチ目からスタートした。
2ピッチ目 (5.8, 30m) 玉置リード
取りつきのビレイ点から数mトラバースして、リングボルトが二つある場所からスタート。前半はスラブで後半は太い立木の生えたルンゼ登り。特に難しいところはなく、ルンゼ内の適当な立木でピッチを切った。
3ピッチ目 (III級, 20mくらい?) 河合リード
ルンゼを適当に登り切ってトラバースした後、木立の中のテラスへ。
4ピッチ目 (5.10a, 15m) 玉置リード
出だしはちょっとしたスラブ。スラブの上部に立ち上がるところは少しバランスが悪い上に錆びたRCCボルトしかなく緊張した。その後は数mの小さな凹角をカムをセットしながら登り終了点までトラバース。ムーブは難しくないが、下は切れ落ちており結構怖い。プロテクションは最初のRCCボルト以外は立木またはカム。終了点はピカピカのペツルボルト2つでバッチリ。5ピッチ目 (5.10c, 10m) 河合リード
グレード的にはこの日最難のピッチ。出だしが核心。カンテを掴んでのハイステップは空中に身を投げ出すような高度感たっぷりのムーブ。ただ5.10cにしては易しいように感じた。5.10bくらいかな。プロテクションに関しては2-3mおきにペツルボルトがありルート中で最も充実しているので安心できる。6ピッチ目 (5.10b, 25m) 河合リード
個人的には前のピッチよりこのピッチの方が総合的には難しいように感じられた。前半部のプロテクションはほとんどリングボルトなので、リードは落ちられない。今回は河合君に任せてしまった。
出だしは前のピッチの終了点からボルダーを少し回り込んでからスタート。ボルダー上まで力技で登ってからフェイスへ移る。カンテを使いつつ細かいスタンスに立ち込んで登った。7ピッチ目 (5.10b, 30m) 河合リード
ビレイ点からやや下り気味に数m左へトラバースした後はスラブ登り。最初は大きなホールドがあるが、後半は繊細な足遣いのクライミング。樹林に入る手前でピッチを切った。8ピッチ目 (III級, 25m) 玉置リード
ビレイ点から岩を乗っ越し、右側のルンゼをチムニー下まで歩いて登る。左側にもルンゼがあって紛らわしいかもしれない。途中の立木でピッチを切った。この時点で登攀開始から3時間少々。ここまでは快調だったが。。。
9ピッチ目 (5.10a, 25m) 河合リード
これまでのフェイスあるいはスラブ登りから打って変わってワイドクラック。ワイドクラック慣れしていない我々には今回最大最後の核心となったピッチ。ザックを背負ったままフォローすることはできないので、河合君がリードした後ザックを予備ロープで引き上げ、引っかかったところを自分が登りながら救出するという作戦で進むことにした。
最初はルンゼ内をしばらく歩く。その後チムニー登りからスタートして、中間部以降オフウィズスとなり終了点まで抜ける。リードの河合君は相当手こずりながらもなんとかオンサイト。この時点で1時間弱かかった。今度は自分の番。ザックがすぐに引っかかってしまうのでこまめに救出してやらないといけなかった。最初のチムニー登りは湿っていて滑りやすく大変ではあったがなんとかフォールせずにクリアできた。しかし後半のオフウィズスは散々悪戦苦闘した挙句、ギアラックのルベルソとカラビナを落とす痛恨のミス。登る前にギアを体の前にラッキングし直すべきだった。反省。
やる気がなくなってしまったのでヌンチャクでA0して上まで登った。10ピッチ目 (III級, 40m) 玉置リード
頂上直下まで適当にルンゼをたどったが、どこが正しいルートだったのかよくわからなかった。どこでも登れそうな感じ。適当にピッチを切り、残りはビレイを解除して頂上まで一登りした。13:40分頂上着。下山
頂上からフィックスロープで懸垂下降してパノラマコースまで降りる。特に迷うような場所はなく順調に降りられた。デポした荷物を回収し、途中のボルダーで寄り道しつつ下山した。久しぶりのマルチでしたが色々と反省点もありつつ充実した1日でした。

トップガン記録

記:河合

風邪引いて週末のトレーニングが潰れてしまった。そこでふと思い立って、最近登った1本のルートについて、記憶が風化する前に記録しておくことにした。山行記録でもなし、特に意味のあるものでもないけど、このルートをいつか登ろうと思っている人や、既に登った人の目に留まって、思いを共有できたなら嬉しい。

クライマーなら誰でも、自身にとって特別な1本があると思う。それは原点となったルートかもしれないし、苦労しても登れなかったルート、或いは登れた最高グレードのルートかもしれない。
私にも、そんな特別な1本がある。そのルートは、瑞牆山カサメリ沢の奥にひっそりと聳えている。名前は「トップガン」。グレードは5.13a。

このルートをどこで知ったか、実はよく覚えていない。どこかで「激しいランジのルートがある」と聞いたのかもしれない。ある日、ひょんなことから写真を目にし、心を奪われた。当時、手の届くルートではなかったので登る対象として見られなかったけれど、「いつかは登りたい」ルートとして意識するようになった。
トップガンを登るためには、当時、フリークライミングの力を大幅に向上させる必要があった。目標は遥か彼方だったけれども、時々本チャンに行きつつ、近場のゲレンデで登る日々が続いた。
その後年が経ち(と言ってもそんなに長くは経ってない?)、5.12も少し登り、遠いながらも視野にトップガンがちらついてきた2017年5月のこと。昼夜関係ないブラックな仕事で体が壊れてしまい、2ヶ月以上に渡り療養を余儀なくされた。
その後8月に仕事に復帰、遅れてクライミングも再開した。再開1本目はパートナー達に混ぜてもらいクレイジージャム5.10d。弱り切った体でワイドなんて登れるわけもなくテンションの山、己の無力さに溜息。でも、体力的に「フリーのゲレンデなら何とか登れる」ことがわかっただけでも収穫だった。
思い返せば、倒れてしまったこともあり、「俺はまだ登れる!」という、自分の中で確固たる証拠が欲しかったのかもしれない。クレイジージャムにコテンパンにされた翌週、無謀を承知で、トップガンにトライするためカサメリ沢に向かった。

以下はトライのメモ。ムーブの記載などあるので、オンサイト狙う人は見ないことをお勧め。

1日目(8/26):2便 アプローチは1撃。その後右薄カチはテンション後取れたが、以降ムーブできず、絶望感漂う。
2日目(9/3):3便 右薄カチ→足を棚に上げ→右ポッケ→足をガバに移動→左ポッケ取りはテンション後繋がる。下ランジもテンション後初めて止まるも、上ランジ止まらず。
3日目(9/10):4便 下ランジ発射まで繋がる×1。上ランジ初めて止まり2テン。
4日目(9/24):4便 下ランジ発射まで×2。上ランジの足位置上げたら成功率上昇。
5日目(9/26):3便 下ランジ発射まで×1。
6日目(9/27):3便 下ランジ発射まで×3。
7日目(9/30):3便 上ランジ発射まで繋がり1テン×1。
8日目(10/1):5便 上ランジ発射まで×3。
9日目(10/8):3便 雨後でヌメリ酷く何もできず。
10日目(10/9):3便 上ランジ発射まで×2。上ランジ止まりかけた。角度修正。
11日目(10/11):5便 上ランジ発射まで×3。前々日のヨレが残っていた。
12日目(11/3):2便 下ランジ発射まで×1。気温8℃で寒くて無理。シーズン終了。
13日目(4/21):2便 ガバは水溜りで雑巾絞り後RP。最後のランジはダブルダイノ。

ほとんどムーブの起こせなかった初日にめげず、可能性の光が見えた9月下旬から10月上旬にかけて、何かに憑かれたように打ち込んだけれども詰め切れず(無理言って付き合ってもらったパートナーにはほんと感謝)、その後は長雨でシーズンが終わってしまった。
その後5ヶ月半に渡り撮影した動画で反復するなど悶々とした日々を過ごした後、4月の季節外れの夏日に、ゲート閉まっているのに居てもたってもいられず出撃。8ヶ月(正味2ヶ月ちょっと)、13日42便(下ランジ54回、上ランジ68回)をかけて完登した。
正直、このトライの日々が楽しかったかと問われると、辛い記憶の方が多い。とにかく必死でトップガン以外ほとんど何も登らなかったし、初めは全くムーブが起こせず、テンションかければ簡単に止まるようになったランジが、繋げると全然止まらない。指皮も毎週のようにベロンチョしてロープは血染め。最後のランジに辿り着いてからも9回フォール。無理かもと、弱気になったこともあった。でも、取り付きから見上げたトップガンのかっこよさは筆舌に尽くしがたく、トライは止められなかった。


第1ランジ。ガバ右端を狙うと飛距離よりもカチを瞬間的に抑える力が問われる。

世の中には私なんかよりずっと、ずっと通い詰めて1つのルートを落とす猛者達がいて、この程度で音を上げるなんて全然甘いと思われるかもしれないが、冬で5ヶ月半空白が挟まったこともあり、私には結構堪えた。暫くこんなクライミングは勘弁願いたいけれども、また燃えるようなルートに出会えたら通う日が来るかもしれない。苦労した分、登れた嬉しさはひとしおだったし、何より、あんなかっこいいラインをフリーで登れる、こんな爽快なことはない。ルートを生み出した瑞牆の自然と、ラインを見出し開拓した内藤氏に感謝。そして、何度となくビレイしてもらい、一緒にトライもしてくれたKさん、(かなり無理やり)付き合ってもらった小渕さん、野澤さん、川上さん、川端さん、現地などでアドバイスや応援頂いた皆様、ありがとうございました。

[ルートの構成]
出だしはNDDと共通で、2ボルト目から右に分かれる。前半はガバの前傾壁を右上トラバースしながら5ボルト分進み、ガバのレストポイントに入る。ここまで5.10c程度のアプローチで易しいけれど傾斜があるので腕は張る。トップガンにトライする場合はアプローチでアップするのがお勧め。(私は近くのトレビの泉5.10aがいつもアップで混んでいるので、いつもトップガンでヌンチャクがけ兼アップしていた。)その後、体幹を酷使する3手(リーチあれば2手)をこなした後、棚ガバの頂点か右端に右手ランジ。頂点はかかり良いけど遠く、右端は近いけどかかり悪くてレストまで一手増える(私は後者)。この4手でボルダー2級程度。その後、棚ガバでレストした後、飛距離165cm、傾斜130°位のドランジで終了点の棚ガバを止める。このランジは左手が残れば3級程度(多分)、左手が残らないと振られて宙に投げ出されるので2/3級程度(私はリーチ足りず後者。なおムーブは後者の方がかっこいい)。その後棚ガバにマントルを返して終了。ランジ部分はボルトが連打されているので、ムーブできなくてもトップアウト可能。ボルトに全部クリップする必要はないかもしれない。(クリップ間引くと破断したらグラウンドフォールするかもしれないので自己責任で。)


第2ランジ。左手がガバに残らないと右手1本またはダブルダイノで振られに耐える。

私のリーチ(170cm)では5.10c+2級+2/3級、最終ランジに辿り着くまでで易し目の5.12b、トータル5.12dと体感。私が瞬発系なことを勘案すれば、他に5.13a登ってないので比べようがないけれども、5.13aで妥当なのかもしれないと感じた。(非常に癖のあるムーブ系のルートなので、人によって感じ方にかなり差があると思う。リーチも瞬発力もある人なら5.12c位に感じるかもしれないし、使えるホールドが限定されているので身長160cm未満の人には5.13aでは収まらないと思う。)
スカイラインに向かって走る1本のライン、最後に待ち受ける激しいランジ2連発、こんな見た目もムーブもかっこいいルート、中々ないのではと思います。コロッセオの前傾壁が倒壊する日はまだ来なそうなので、カサメリの緑の中、空を舞いたい人は是非トライしてみて下さい!