上越国境 ススケ沢右稜から武能岳

2002年3月16日から2日間
木下(日本山岳会青年部)、瀧島(記)


サブタイトル:檜又谷春うらら

パンプが家の近くに来てくれたので週1~2回くらい通っている。

2時間もやればお手軽に心地よい筋肉の疲労感を味わうことができて何より楽しい。

でも、たまには山の匂いを嗅がないと、なぜか居心地が悪い。

上越の静かな雪稜をと思っていたが今年は春が早く特にこの1週間は暑いくらいだ。

里山の金城山にしようと思ったが雪が少なそうなので、檜又谷の大滝沢右稜を目指すことにした。

檜又谷は数年前に支流の滝沢を登った。その時、隣の尾根が登れそうかなと考えていたが同じことを考えるやつはいるものだ。

パートナーはマイナーな山が好きな木下君だ。

3月16日

雨のち快晴

土樽駅には先客が大勢で宴会をしていたが、寝たのは俺たちが最後だった。

寝不足のまま目を覚ますと雨の音はかなり強い。

しめしめもう一眠りできるかと思っていたが、天気予報によると天気は急速に回復するようだ。

ゆっくり用意して足首にテーピングして雨が完全にあがった8時半に出発。

除雪された舗装道路は10分程であとは雪の上を歩く。

橋を渡って左岸を進む。

茂倉谷を渡り檜又谷出合のダムまで1時間半くらいか。

谷から離れて左岸の林の中を適当に進む。

目指す大滝沢右稜と思われる尾根が谷からせりあがっている。

しばらく進むと檜又谷の目ぼしいルートがすべて見えてきた。

右岸から落ちるススケ沢右稜とその奥のリッジ2本、大滝沢の左稜も魅力的だ。

目移りしてしまう。

大滝沢の氷もすごい迫力だ。

この頃になると完全に快晴だ。

汗だくになりながらの谷底のラッセルはきつい。

大滝沢右稜よりも変化に富んで魅力的に見えたススキ沢右稜を登ることにした。

太陽ぎらぎら暖かくてこれから取り付くと言うのに緊張感はあまりない。

大休止を取ってから取り付いた。

目指すススケ沢右稜は下部が2本に分かれている。

取り付きやすい左側の稜を登りだした。

この稜には中間部に岩峰が聳えていて、心惹かれる。

谷底から離れるとラッセルは少し楽になった。

しばらく登って早めにハーネスを付ける。

その前にもう一度、大キジをして準備は万全だ。

初めの3ピッチは稜上をブッシュをつかみながら登るが易しい。

4ピッチ目、5ピッチ目は傾斜が強くなり右側を巻き気味に。

木登りやダブルアックスで難しさ、恐ろしさ、楽しさも適度なすばらしいピッチだ。

辿り着いたテラスを均して今夜のねぐらとした。

傾いている上に、狭い。

それに寒い。

セルフビレーを外せない窮屈な一夜だったが、素敵な夜でした。

シチューの素にマカロニをぶち込んだだけのディナーもおいしかったよ。

木下君ごちそうさま。

 

3月17日

快晴

根性がないのか寒さに負けて2時40分に起きてコンロを点けた。

飯と準備にゆっくりと時間を費やして、明るくなった6時10分に出発。

6ピッチ目急傾斜の木登りを木下君がロープを延ばす。

7、8ピッチは傾斜が落ちてロープをぐんぐん伸ばすと最初のギャップへの下降点に着く。

ギャップへは傾斜はないがあまりに狭いカミソリリッジなので馬乗りになりながら懸垂で下った。

降り立ったギャップも入れ替えも難しい。

9ピッチ目、次のピークの頭まで25mロープを延ばす。

出だしが庇気味の懸垂15mで泊まってくださいと山が語りかけてくるほどの見事な快適なコルへ。

ここで大休止。

10、11ピッチは快適にロープを延ばす。

傾斜も緩んでロープを外して焦らず登ると武能岳の頂の100m位北側にの西尾根上に辿り着いた。

10時30分 空荷で武能岳の頂へ。

おだやかな快晴の下、満ち足りた気分で周りの山々を眺める。

名もないマイナーなリッジやスラブ沢筋を見据えて語り合うと、あまりに趣向が似ている事が恐ろしい。

下りは蓬沢の大斜面を尻セードーを交えて下り15時前に土樽駅へ着いた。

春の日差しを浴びながらのすばらしい二日間だった。

おそらく一ノ倉沢や幽ノ沢は盛況だっただろう。

それに引き換え檜又谷はアプローチも便利で安全、谷は貸切だった。

現場で実物を見て気に入ったラインに取り付けたのもうれしい。

春の穏やかな天気の下、ゆったりと流れる時間の中で刺激の少なすぎる山では心は満たされなかっただろう。

今回の山は適度な厳しさ、恐ろしさ、緊張感を保ちながら登ることができて、心は十分に満たされた。

また近いうちにこの谷に来よう。

今度は雪のない時期の大滝沢あたりにしようかな。