南アルプス 尾勝谷塩沢右俣、左俣

1997年1月1日~1月4日
大滝、大橋、櫻井 櫻井(記)

*この谷は廣川健太郎さんが「岳人」5月号と12月号に紹介されています。以下、この内容を「記録」と呼びます。

1日

毎年恒例、中央高速の暴走族のお祭り騒ぎのおかげで、昨夜は予定よりずっと遅れて戸台に着いた。爆竹、横一列の徐行、逆走、改造、「パリララ、パリララ」。ああ、思い出しても腹が立つ。みなさん大晦日の中央高速には行かない方がいいですよ。

で、この日はベースを張る予定の塩沢二股まで。記録では水がないとのことだったが、細い流れがあった。テントの跡が3カ所。そのうちの一つに4、5人用を張る。夜半から翌朝まで雨、時々みぞれ、雷も鳴り激しく降り続いた。

2日

昨夜の悪天に剱岳や錫杖に行っている仲間を心配しながら左俣へ出発。天候の回復を待っていたので8:00AMになった。小雪、-2度。積雪3から5cm。

F2は大滝さんがリード。ほとんど80度で50m。遠くからはモコモコで近づくと一つひとつつららの集合体でなっている。ルートは中央から右へトラバースをしながらモコモコをつなげていく。長くて厳しかった。

F3は桜井リード。30m、70から部分的に80度。状態も良く快適。

F5は左から幅の広い氷瀑を合流させている。この辺から「記録」との一致が難しくなる。

本流の上部には大きな垂直に近い滝が見えていて「あれがF10か、どうか」で議論。雪の下に倒木や氷床が見え隠れしている状態だった。2、3の小さな滝を越すとその大きな氷瀑に着く。大滝は40m程度で70から80度程度。上部は2つに分かれて左の安定しているほうをルートにとった。大滝さんのリード。

沢はこの先、左からの支流を合わせた上でT字になる。氷の続く右のルンゼ状に入ったが稜線も近くに見え高度計も2200mを越えていたので、さきの大滝が「記録」の言うF10だろうということで引き返す。時刻14:20。

この沢の下降は立木、倒木が多く懸垂の支点は容易に得られる。懸垂そのものはヤブや空中も多く容易とは言えないが...16:20ベース帰着。

3日

6:30 右俣へ出発。小雪。-5度。

F2は40m、70度部分的に85度。もろもろで薄いところもあり、気持ちよくない。桜井リード。左から右に斜上。

F3、大滝さんリード。45m、80度。やや右の氷柱状から取り付き左へトラバース気味にのばす。垂直に近い氷柱の腹をトラバースするのがつらい。桜井がランナーのスクリューを回収中にピッケルが抜けそのスクリューに片手でぶら下がったため、軽いケガ。ゴアのオーバーミトンの先が破ける(こっちの方が痛い!)。

F5、桜井、気を取り直してリード。下段は右のリッジ状から中段へ。中段は腰まである雪のテラス。これを左にトラバース。一度ピッチを切る。「記録」ではF5で沢は大きく左へ曲がることになっている。実際は右にも支流はあり3:1の二股状になっている。このピッチで大橋さん落ちる。またロープの流れで小さな雪崩を誘発してしまう。F5の中段から上は左のモコモコを行く。合わせて45m、70度から75度程度。

F5の上からF9まではひざから腰のラッセルも出てくるが氷瀑は傾斜が無く歩いて進む。沢はルンゼ状になり気分はアルパイン!

F9は30mほど。桜井と大滝さんがフリーで登り始めるが中段で傾斜を感じ始めたのでアンカーを作り大滝さんが残りの10mをリード(ルーズなやりかた!)。大橋さんだけが完全なフォローをする。さらに続くラッセルにうんざりしたころ、とうとうF10が見える。

左右に翼を広げたように下まで届かないつららを連ねて、中央に2つの氷柱を張り出している。両翼の幅は15m、氷柱の高さ15m、その上の傾斜を落とした部分も含めて50m程度に見えた。氷柱は融合していないつららの集合体で叩けばつららの一本づつが落ちていきそう。アンカーもすきまだらけの氷にどう効かせればいいのか?「記録」には大同心大滝と同程度とあるが、この日我々の印象ではワングレード上!気分は荒川出合のブライダルベールだ!。これは我々の相手では無かった。氷柱にさわれる所まで上がると裏側が2mくらい岩と氷が離れていて空間ができている。直径3mくらいの氷柱2本が壁になりその間から空が見える。床は完全に氷。岩の庇に氷瀑が覆いをしてくれたよう。10人は泊まれるが上を見ればあちこちからするどいつららが垂れている。この氷の小屋をゆっくり見物して、引き返すことにした。14:30。

全般にスケールと傾斜のある氷瀑にめぐまれた沢でした。状態はもろもろでツララ主体の氷。雪の多くなるシーズンには二股から上で雪崩に注意。

大滝(記)

1日

11:00 尾勝谷出合い出発  15:20塩沢左俣・右俣出合着。テント設営

2日

7:40 左俣へ出発

F2取り付き 8:20 50m IV+~V- 右を登った。つららの集合体。ランニング5本。小雪舞い始める。

F3 11:00 15m 左から中央へ。ランニング1本。いい氷。

F4~F9まではっきりしない。支沢凍っている。

F10 40m 右を登る V~V+ ランニング3本。3段になっている。抜け口がとても恐ろしい。15:00下降する。 滝をすべてアプザイレン。木で支点をとれる。 16:20テント場着

3日

6:30 右俣へ出発 小雪

F2 50m IV+~V- 左より登る。ランニング3本

F3 40m V ランニング5本。つららの集合体 難しくて苦労した。

F5 10:50 30m IV 左より登る ランニング3本

F6~F9まで容易

F10 45m はカナダにあるような大きな氷柱。完全に岩から離れている。垂直部15m位。表面に小さなシャンデリア状のつららがびっしりとあり、もし登ったとしたらまずそれを壊してから基盤の氷にピックやアイゼンを効めなければいけないだろう。恐ろしいため登らなかった。

14:30下降開始 木でアップザイレン可能。17:00テント場着。

* 高度がないためラッセルは大した事ない。雪崩の可能性は低い。アイスピトンはランニング5~6本、取り付きに2本で計7~8本。 氷の抜け口には木があるためアイスピトンは不要。テント場の左に少々流水があったが厳冬だと凍る可能性あり。 左・右俣ともに沢に流水あり。 上手な人達が覚悟を決めてスピーディに登らなければいけない。初心者は同行させない方がいい。ロープは50m x 2本。