足尾 松木沢 ウメコバ沢左岸尾根から皇海山

2002年2月9日から3日間
深沢、三好、瀧島(記)


クライマーに足尾松木沢と言えば、普通はアイスエリアとして思い浮かべるだろう。

私も初めての松木沢は87年の1月に黒沢でのアイスクライミングだった。

その後も数回、松木沢にはアイスに行ったことがあると思う。

89年の9月に初めてアイスではない松木沢を体験した。

宇都宮白峰会の水口君に案内してもらいウメコバ中央岩峰の凹角ルートを登り、余った時間でスーパーフレークの1P目に触った。

この時に松木沢の魅力はアイスだけではないことを知った。

中央岩峰の岩は堅く豪快なムーブを楽しめてアプローチも短い。

おまけに人が少なくいたって静かだ。

うまい、安い、早いは吉野家。

近い、堅い、静かは松木。

吉野家も好きだけど、松木はもっと好きだ。

東京近郊でこれだけのスケールと内容がありながらこんなに静かなのはなぜだろうか?ガイドブックや雑誌にはあまり載らないのが大きな理由だろう。

それだけではなくアイスクライミングで松木沢を訪れたクライマーは荒涼とした風景と、入り口から見えるジャンダルムのいかにももろそうな岩場のおかげで食指がわかないのかもしれない。

その後もウメコバ沢の両側のルートには数回訪れたが、毎回満ちたりた気持ちで帰ってきた。

凹角ルートはお気に入りで5回くらい登っている。

自分にとっての松木沢はお気に入りの岩場なのだ。

気がついたらすでに40歳を過ぎていて自分が今までやみくもに登っていた山とはなんだったのかなと考えていたのだ。

そこでこれからはしばらくの間なんとなく好きな松木沢周辺を四季折々、さまざまな方面から深めて楽しんでみよう。

幸い松木沢は家からも比較的近く、日帰りでも楽しめて今の自分の生活リズムで十分にやれる山域なのだ。

今回の計画はその第1段階のもので中央岩峰からいつも見上げていた岩尾根を辿って、未だ見たことのない皇海山まで行ってみようと考えた。

 

2月9日

快晴

間藤駅でビバークしてからゲートの少し先まで車で入った。

以前は松木川の林道はすぐに崩れるが復旧も早かった。

ウメコバ沢出合まで車で入れたことも何度もあったがここしばらくはゲートを越えてすぐの川原を車で越えることはできない。

これも公共事業削減の影響なのだろうか?ウメコバ出合まで本流に注ぐ沢と岸壁の写真を撮りながら歩いた。

目標のウメコバ沢左岸尾根はオロ山から北に延びるオロ山尾根の1682m台地から一気に高度を下げている。

松木川の広い川原から700m強の標高差がある。

ウメコバ沢は出合の奥にすぐにF1が見えるがそのすぐ右側の岩場は悪そうだ。

出合から本流を80m位進んだあたりの薄い樹林帯から取り付いた。

本流の広い川原からいきなり急登だ。

この尾根の下部は岩が露出しているが岩を避けてグングン高度を上げる。

樹林がほとんどなく風当たりが強いので雪は飛ばされて余り付いていない。

岩の部分は木があってもほとんどが立ち枯れなので支点を作るには頭を使う。

途中1ヵ所念のためにロープを使った。

弱点をついて登っていく。

慣れ親しんだ中央岩峰を見下ろし、対岸にはウメコバ尾根に突き上げるチャンピオン岩稜あたりがゴジラの背のようだ。

振りかえれば松木川の広い河原に注ぐ小足沢が深く切れ込みゴルジュの壮絶さを想像してしまう。

1682m台地に上がるとこの尾根は豹変する。

まるでどこかの高原の雰囲気だ。

木々の間からはじめて見る皇海山も姿を見せた。

ここでワカンをつけた。

あとは歩いてオロ山へ。

ラッセルも苦にはならない。

オロ山を過ぎて、広い尾根を少し南に回りこんで風を避けて幕場とした。

8:30車発、9:20~40ウメコバ沢出合、12:30~13:00 1682台地直下、16:30オロ山泊

 

2月10日

高曇り~晴れ

朝なのに誰も起きずに出発が8時になった。

関東平野を横切る利根川が光っているのが見える。

松木沢には何度も通っているが思えば稜線に立ったのは今回が初めてだ。

東南を見れば関東平野が広がっているけれど北西方面には雪雲が沸いている。

今日の前半の庚申山までは広い尾根を濃い樹林帯を避けながら進む。

時折、赤布もある。

庚申山で銀山平からの登山道に出会った。

ここから先は夏道を進む。

いくつか小さなピークを越えると鋸山の岩峰群に差し掛かった。

2.5万図以外の情報は調べずに来た訳だがここから6Pもロープを使う事になるとは。

鋸山という名前からこの山はかなりギザギザしているのかなと思っていたが、2.5万図を見る限り稜線がそんなに痩せているとは思えなかった。

庚申山あたりから見てもそんなに険しそうには見えない。

1P目懸垂25mでコルへ。

2P目雪壁を左にトラバース40m。

3P目雪壁を直上し小ピークへ50m。

4P目細いリッジを進む。

5P目リッジを進んで梯子を下ってから上り返し。

6P目懸垂20m。

難しくはないが落ちたら止まらない。

新人の深沢君を連れているので迷わずロープを着けた。

支点はすべて潅木が使えるから安心だ。

予想に反して岩峰群の登高を楽しめたのがうれしい。

少し進んで狭いコルを均してテントを張った。

オロ山BP8:00鋸山頂上直下のコル16:45

 

2月11日

晴れ時々曇り

コルからほんの一登りで鋸山の頂上に着いた。

ここまで来てテントを張れば良かったけど後の祭りだ。

南に袈裟丸山と関東平野。

北には皇海山がでかい。

今日も冬型で皇海山は雪雲に隠れたり出たりしてしている。

皇海山までの道は夏道があるもののはっきりはしていない。

等間隔で赤テープがある。

鋸山からの下りはロープを出さないで済んだ。

下り切った鞍部が不動沢のコルで、ここまでは西側の栗原川林道の終点から登り出して2時間くらいで辿り着くそうだ。

100名山ハンターも楽チンだ。

コルからは樹林帯にルートを探しながら皇海山を目指した。

途中、振り返ると鋸山の岩峰群カッコよく見えた。

カメラを出して移そうとしたが突然のトラブルでシャッター落ちない。残念だけど諦めよう。

コルから250mを登ると頂上に着いた。

ここで大休止。

後は下るだけだが下山路は西に伸びる尾根を考えていたが見た感じブッシュがすごそうなので北に伸びる縦走路を下ってから松木川の本流に下ろうと考えた。

もし沢に入ってしまったらそれもOK。「ロープも持ってるし懸垂すればいいや」と気軽に考えていた。

急なブッシュの中をどんどん下った。

左に見える縦走路に戻るのもしんどそうだ。

「はまったら、その時に考えればいいや」という雰囲気で沢を下りる事にした。

これがはまりの始まりだった。

初めの懸垂は40m位で氷のない涸棚だった。

その後も次々と懸垂して20mから30mクラスの適度なアイスが4つ位あった。

最後の涸棚を含めて皇海山を目指すアイスルートとしてもいいかもね。アプローチをいとわない立派な岳人にお勧めです。

滝の数だけ懸垂をした。

やっと傾斜が緩くなり滝も無くなると当然のごとく水が出てくる。

広い河原をラッセルと飛び石の渡渉をワカンを着けたまま何度も繰り返す。

もういいかげんにしてくれと思っていた時にウメコバ沢の出合にやっと辿り着いた。

放心状態でワカンを外そうとするが、凍ったワカンのバンドはこれが外れないんだよ。

何度も谷を下っているけれど、今回は谷を下ったおかげで楽しめたけれど、ルートを探しながら尾根を下るのが順当だったのだろう。

今回も失敗はあったけれど会心の山ができたと思う。

BP7時頃、皇海山10時30分ころ、松木沢ゲート19時頃

思えば18歳の深沢君と年の差は倍以上、20代のみっちょんが加わってくれたから年の差は平準化された。

今後も登っていれば自分の孫と一緒のようなパーティーも結成できるかも。

こんな事を考えるのは早すぎるかもしれないが20年後に是非実現したいものだ。

その時まで体力と気力を持ち続けていたいものだ。

マイナーな山域で自分で思い描いたルートをトレースできたことがうれしい。