谷川岳 一ノ倉沢 滝沢第3スラブ

2002年3月14日
浅野、柴田(記)


今年は滝沢第3スラブが登りたいな、と言うことで浅野さんと意見が一致し3月第2週の週末を予定し、ルートの情報を入手したり(特に3年前に登っている向畑さんのアドバイスは実践的かつ貴重でした)谷川の天気を1週間前くらいから追いかけたりしていた。

期待と不安のうちに迎えた週末ではあったが、急な事情でその週は行けなくなり予定した日曜日は爽やかな青空の下、子供と遊んで過ごした。話を聞くと浅野さんも子守りをしていたようだった。

我々が空振りしたその週に谷川に入ったパーティの報告だと今年は春の訪れが例年より早そうだ。モタモタしていると条例に基づく入山禁止になってしまう可能性もありそれでは悲しすぎる。二人で相談の結果条件の良い平日に仕事を休んで行ってみる事になった。

3月13日(水曜日)

夜東京発。

関越を交代で運転しながら午前1時30分過ぎに駐車場に着。

準備を整え指導センターに計画書を提出の後一ノ倉沢出合に向かう。

駐車場で一緒になったノコ沢に向かうというパーティの話では3スラに単独の人が入っているとの事。

我々を含めて3パーティ、平日でも結構いるもんだと思いながら一ノ倉沢出合から本谷方面を見上げるとはたしてヘッドランプが一つ光っている。

本谷は一ノ倉尾根からのデブリが沢筋を埋めており半月前とはすっかり変わった姿になっている。

東尾根に向かうトレースと一ノ沢で別れ、滝沢下部氷瀑下で先行のソロの人が登っているのに追いつく。

我々もここで登攀準備をしアンザイレン、ヘッデンをつけて柴田リードで発進。

半月前に観察した通り右側は氷瀑が大きく発達し被っているので左側を登る事にする。

雪と氷を混ぜて固めたような壁だがアックスの食い込みは良く登りやすい。

所々で岩が出ておりうっかりアイゼンを蹴り込むと線香花火のような火花が飛ぶ。

右下から左上しその後直上するようなラインを取る。

ほぼ50mいっぱい伸ばして浅野さんにコールをかける頃にはだいぶ明るくなってきた。

次のピッチは浅野さんがリードするが50mでランナー1つ、アンカーポイントも不安定なスタンディングアックスなので「落ちないで登って来てね」とのコールに「了解」の返事をする。

まあ傾斜も緩く、気をつければどうと言う事はない。

見上げるとドームが意外な近さで見える。

以後F4まではロープを引きずりながらの同時登攀。

F4はハングを右に回りこんで2ピッチで抜ける。

F4でビレー中に小規模なチリ雪崩が数度起き、第2スラブとの境界のリッジにスノーシャワーが舞い降りるがしばらくするとおさまった。

前日午後からは好天が続いていると言う事でB~Dルンゼ方面も小規模なのが一発出た以外は静かだ。

F4から上はまたロープを引きずっての同時登攀で進む。

氷を交えた緩い雪壁が続き、容易だが絶対落ちられない。

やがて上部草付帯が近づくが確かにスラブ内よりはこちらの方が傾斜も立っていて危険そうだ。

雪を払い除けて現れた氷にスクリュー3本でアンカーをセットしてセルフを取り浅野さんを迎え、草付帯1P目を浅野さんリード。

正面の大きな露岩を右から回り込んで抜けるが雪は顆粒上で踏み固めてもスタンスが崩れる事が多くなり、結構悪い。

柴田が残りロープの目測を誤りアンカーポイントの選定がやり直しになり迷惑をかける。

2P目は柴田が登るが緩い雪壁でどうと言う事は無い。

それにしてもあれだけ近くに見えたドームがなかなか近づかない。

「無理するな、近くに見えてもドームは遠い、か」と一人ごちるが面白くも何ともない。

ビレーポイントが取れないのでやむなく中指くらいの太さの潅木3本とアックスでセルフを取るがリードの墜落には到底耐えられない事は最初からミエミエ。

3P目浅野さんリード。

傾斜も所々垂直になり多少太めの潅木でランナーは取れるもののアックスも効かずスタンスも崩れるところがありフォローでも緊張した。

ようやくドームが目の前に姿を現す。

4P目はドーム正面までの雪のリッジで傾斜はあるがスタンスがわりと決まるようになり緊張感は少ない。

見下ろすと滝沢リッジが美しいラインでドームまで延びている。

ようやくドームに辿り着きシュルンドの内側で岩壁を背に浅野さんを迎える。

我々はドーム正面の横須賀ルート付近に出たが上部草付帯はあとから人の記録を読むとみんな色々なところを登っていて、また年によって条件も変わるようだ。

ドーム基部で小休止の後Aルンゼへの下降点まで短いトラバース。

確かに余り気持ち良くないがドームに打たれたボルトが使えたので上部草付帯に比べれば精神的には楽。

秋野・中田のレリーフに心の中で合掌し、懸垂下降点からAルンゼを見下ろすと着地点まで結構遠い。

50m一本で足りるか心配になるがまあ最悪はロープをシングルでフィックスすれば帰れるしそもそもダブルでないと届かないと言う記録など読んだ事ないぞ、と浅野さんと話す。

先に降りた浅野さんの「末端が雪面に届いている」の声にほっとするが着地した浅野さんの足下で大きなシュルンドが突然開き浅野さんが落ちかけるのを見て驚く。

表面に積もった雪がシュルンドを隠していたようだ。

幸い懸垂ロープを離す手前だったので大事には至らず。

Aルンゼは北向きである事と新雪が降っていないことで安定していた。

先行した単独の人のトレースが点々と残っている。

向畑さんのアドバイス通り途中から左に折れドームのコルを経由し気持ちの良い雪のリッジを登り国境稜線に抜けた。

浅野さんと握手し、ギアもハーネスもザックに仕舞いこんでオキの耳経由で西黒尾根を下る。

急に重くなったザックと安全地帯に抜けた安心感でヨレるが途中休んでパンを食べ水を飲んだら急に元気が出てきた。実は単なるシャリバテだったのでした。

樹林帯に入り在京の櫻井さん宅の留守電に状況を入れる。

ついでにアイゼンも外すが2年前の片山さんの骨折事故はそういえばこの辺りだったなあと、ふと思い出す。

シリセードで先行する浅野さんに追いつき、腐りかけた雪の上にステップが縦横に踏まれて無茶苦茶になったトレースを一気に下る。ヘッデンになるかと思われたが何とか明るいうちに指導センター着。

【タイム】
指導センター(2:15) → 一ノ倉沢出合(3:05)→ 下部氷瀑取付(4:40) → 上部草付帯(9:30) → ドーム基部(13:15) → オキの耳 (15:15) → 指導センター (17:45)

【主な携行ギア】

・ スクリュー8本(maxでも6本までしか使わず)

・ スノーバー1本(使わず)

・ 50mロープ1本(1本で十分と感じた)

・ エイリアン2本(使わず)

・ シュリンゲ適数(実際に使用したのは上部草付帯で数本程度)