明星山P6南壁

2002年10月12日から3日間
井上、柴田(記)


明星には2年前の2000年11月に来て以来。その時は3日間の日程だったが

初日:小滝川が増水して渡れず(森広さんは危うく流されそうになった)
2日目:クイーンズウェイに取り付くが2P目の核心がヌレヌレで登れず左フェースに転進
最終日:フリースピリッツ4P目でルートをミスり下降

とさえないもので、ヒスイ峡キャンプ場を根城にするドラネコくんにレーションを取られたりテントをかじられたりしてた。

懐かしくもほろ苦い思い出だ。

昨年は訪れたいと思っていたものの機会がなく、2年ぶりに2度目の明星に今回ようやく来る事が出来た。

今回のパートナーは井上さんでお互いに車を持たないので夜行列車とローカル線を乗り継ぎ朝6時前に小滝駅に降り立った。

10月12日

天気はいい。

郵便局の前を通り2年前と同じく犬に吼えられてヒスイ峡への道を分け歩く事約1時間でドーンとP6南壁が姿を現し、ここで突然ヘルメットを夜行列車の中に忘れてきた事に気づく。

とりあえずキャンプ場まで進み居合わせたクライマーに「まさかヘルメットを余分に持っていませんよねー。」と聞くが予想通り持っていないとの返事。

最悪初日を犠牲にしても糸魚川まで買いに行こうと思い、事情を話して車を貸していただけないかとお願いし快諾を得た。

借りた車を一目散に小滝駅方面に車を走らせるが、考えてみるとまだ朝の7時30分であり運良くヘルメットを売っている店があったにしても開いているわけがない。

とりあえず通りがかった民家で「このあたりでヘルメットが手に入るところはありませんか」と間抜けな質問をしたところ対応してくれたおじさんは「ヘルメット?うーん、ちょっと待てよ」といいながらあたりをがさごそ捜し、「ほら」と緑色の工事用ヘルメットを貸してくれた。人の情けが身に沁みる。

平身低頭お礼を述べて3日間お借りする事にした。

ダッシュで車でヒスイ峡に戻ると井上さんはシュラフで寝かけたところであまりに早いカムバックに驚いていた。

約1時間ほど遅れたが予定通り初日の直上ルートに向かう。

<直上ルート(4級/ 5.9 グレードは新版日本の岩場のもの)>

1P  Ⅴ(柴田)
出だしの土斜面で掴んだブッシュが抜けて体勢を崩しシューズの裏が泥まみれに。フェースに走るクラック沿いに登るが小カンテの右を登るところで途中まで左を登ってしまいクライムダウンし登り直し。正規ルートのフェースにはピンが充分打ってある。30mで安定したレッジへ。

2P Ⅴ(柴田)
レッジから左のかぶり気味のバンドに上がり左上。15m程度と短い。

3P 5.9 (井上)
ややかぶり気味のフェースを右足のヒールフックを使い次いで右にトラバースする。ハングの出口には真新しいピンが打ってあり安心。これがないと恐いだろうなー。

4P Ⅳ+(柴田)
傾斜が落ち容易なフェース。

5P~8P目Ⅲ~Ⅳ(ツルベ)
上部はブッシュ交じりの容易な凹角やフェースなど。

左岩稜に出たところでコンテに切り替え容易な凹角を登り左にトラバースすると下降路に合流する。1時間足らずで小滝川に出て渡渉することなく飛び石で渡ることが出来た。

展望台の横から翌日のフリースピリッツをじっくり観察してキャンプ場に戻る。

8時前に就寝するもこの夜のキャンプ場は大賑わいで酔っ払いクライマーの雄叫びや車の音に何度か目が覚める。

10月13日

<フリースピリッツ(5級下/5.9)>

朝5時30分ころキャンプ場を出発。

先行する2パーティは共にマニフェストとのことでフリースピリッツには運良く1番で取付く事が出来た。

すぐ後ろにタッチの差で3人パーティが後続。

1P Ⅲ (柴田)
ブッシュ交じりを左にトラバース。ランナーはブッシュで。

2P Ⅳ (井上)
レッジの上のフェースを登り更に左上。割と短い。

3P Ⅵ- (柴田)
フェースからクラックを登る。左右にラインがあり割と細かいが上部に入るとピンも多くなり落ち着いて登れば楽しいピッチ。
ビレーポイントに着くと2年前にミスったルートが目の前にあり懐かしかった。
あの時はここを左の大き目のクラック沿いに登ってしまったのでした。

4P Ⅴ (井上)
ビレーポイントから白いフェースを一旦右下にくだり(パイパントラバース)その後ランペを右上する。一段下る所は濡れていると滑りそう。

5P Ⅵ-  (柴田)
ハングの下をハングに沿って左上する。写真などでよく出てくるピッチで「ああ、ここかぁ」と思う。
左上後被ったクラックを腕力で越えて右下へトラバース。ホールドはガバが続くので紹介されているほど難しくはない。
あそこをなんでうめぼし岩と呼ぶのかなぁ。

6P Ⅴ+ (井上)
ビレーポイントの上に続く凹角を直上後カンテを右に越えるが右に移る部分は結構細かい。
左に行くとハングにぶつかるよ。

7P Ⅳ+ (柴田)
やや傾斜が落ち易しくなるがその分もろくなったフェースを登る。上部が開け中央バンドが近くに見える。右手のフェースにあるビレーポイントで切ったがマニフェストを登っているパーティ(昨日車を貸してくれた人)から「フリースピリッツはもっと左だよ」と教えられ、井上さんには左側下で切ってもらう。

8P Ⅴ+ (柴田)
順番が前後してしまったが井上さんのビレーポイントを通過しそのまま柴田が登り続ける。かぶり気味のクラックが2本走るハングの更に左の凹角をクラックを使い登る。

9P Ⅱ (井上)
中央バンドをまたぎ、一段上のレッジまで。登る前に上部岩壁のルートを観察するがいまひとつ良く分からん。

10P Ⅲ (柴田)
ほんとにこれで良いのかなーと思いながらビレーポイントから容易なフェースを右上。ピンがほとんどないのでエイリアンやブッシュで所々取る。
40m以上ロープを出してはっきりとしたビレーポイントに着くが鷹ノ巣ハングの下でかなり右に登ってしまったように思えた。フィックスロープが垂れていた。

11P Ⅴ (井上)
頭上の凹角からクラック。その後左右にあるビレーポイントは下から指示し左側を選ぶ。
アップルジャムクラックがあるはずのピッチだが判然とせず。
このあたり一部オリジナルラインを外していたかもしれない。

12P Ⅳ (柴田)
更に左側にルートを求めカンテを越えるとボルトが2本離れて打ってありバンドが走っている。
一段降りてバンドにハンドホールドを求めると比較的安心。
でも残置ピンはピッチを通して少ない。
15mほどでビレーポイントが現れその上に写真で見覚えのある凹角状フェースが広がり正しくパノラマトラバースを辿っていた事が分かる。
下を見ると後続の3人パーティは中央バンドの手前あたりを登っている。

13P Ⅵ- (井上)
上部岩壁の核心だがピンは多い。2本目のピンにランナーをとった後の数mが細かいがフリーのゲレンデで登ればやはり5.9くらいかなと思う。
その後は右手のクラックに移り直上。

14P Ⅳ (柴田)
傾斜が落ちたフェースを登る。

15P ~18P Ⅲ~Ⅳ+(ツルベ)
ブッシュ混じりのフェース、凹角など。残置支点少なく所々エイリアンを使う。
井上さんには黙っていたが横から簡単にパスできるのにわざわざ難しいクラックを不安定なエイリアンを1つ取っただけで正面から登ったところは実は結構恐い思いをしながら登ったのでした。

最後は判然としない左岩稜の踏み跡らしきに出て終了。二人ともここからの下り道がはじめてでよくわからず苦労する。

P6の頭まで行けば西面に直接降りるトレールがあるかなと思い柴田が登るが結局そんなものはなく、左岩稜からやや右をブッシュに掴まりながら下ったりトラバースしたりするうちにようやく昨日の踏み跡に合流するが途中で井上さんとバラバラになってしまう。

途中コールを掛け合って所在を確認していたのでまあ大丈夫だろうと思い、先に降りて下の水場横で井上さんを待つ。

暗くなりヘッデンを点け大分経ってから下りてきた井上さんは柴田が差し出した0.9Lのペットボトルの水を一気飲み。喉が渇いていたんだねー。

前日通り小滝川を飛び石で越える。

テントに戻り夕食中漆黒の中に佇む南壁に目をやるとヘッデンの灯かりが肩の少し下の所でチラチラしていた。

10月14日

夜中に雨が降り出し、起床時間の4時になっても止まず。

7時前になりようやく止んだが壁は濡れていると思われ石灰岩ということもあり予定のクイーンズウェイを諦めて下山する事にした。

途中ヘルメットを貸してくれた民家に返しに行ったが留守だったので番犬の頭をなでてそっとヘルメットを置いてきた。

今度こそ車で来たいもんだなー、と思いつつ小滝の集落を通り抜けて駅まで約1時間歩く。

北陸線から信越線に乗り継ぎ長野新幹線で帰京。

せっかくの高速バスの予約が無駄になってしまった。

井上さんお疲れ様。

また行きましょう。