甲斐駒ケ岳 黄蓮谷右俣

2002年12月7日から2日間
浅野、柴田(記)


今年は結構雪が早そうだが、12月上旬ならまだ埋まってはいないだろうと読み、アイス始めとラッセルトレを兼ねて黄蓮右を計画した。

しかし結果的にはアイスが楽しめたのは奥千条の滝までで、その先は延々としたラッセルに終始した。

旬よりは2週間ほど遅かったようだ。

3年前に左俣を登ったときには足かけ3日間の余裕ある行程だったが今回は1泊2日の普通の週末なので時間的にそれほど余裕はない。

できれば初日のうちにピークか黒戸尾根の稜線に出ておきたいのでまだ暗い3時50分に竹宇駒ケ岳神社を出発した。

パートナーは5ヶ月間の残業地獄からようやく解放されたという浅野さん。

今回は残業代で購入しましたという新品の登山靴で臨んでいる。

黒戸尾根はいつもの事ながら長くていやになるが今回は5合目までなので多少は楽と自分に言い聞かせ、黙々と登り続ける。

横手からの登山道と合流したあたりでヘッデンが要らなくなり、刃渡り、刃利天狗を経てちょうど5時間で5合目に到着。

黒戸山のトラバースの部分がちょっと凍っていた以外は雪も氷もなし。

篠沢七丈瀑はしっかり凍っているように見えた。

曇り空に枯れ木と灰色の氷瀑とモノトーンの寒々とした景色が広がる。

5合目小屋裏手の明瞭な踏み跡を1時間ほど下り黄連谷に降り立つ。

最初の滝は凍っていないので左岸の巻き道から越えちょっと進むとすぐ坊主の滝が現れた。

まだ水も流れておりラインが取れるのは中央部のみ。

1P目柴田(Ⅲ+)、2P目浅野(Ⅳ-)とつるべで越える。

氷床はまだ完全に固まっていないので踏み抜かないように注意しながら進み、二俣で左俣を見送る。

その後は冬の沢登りと言った風情で1時間ほどで奥千丈の滝に出会うが、傾斜もさほど強くないのでロープを出さずに各自勝手に登る。

ここは200mほどの滑り台になっているので滑ったら止まらないが傾斜はゆるく適当に休めるのでまあ問題ない。

5年前に沢登り初めて黄蓮谷に入ったときにビバークに使った台地や滝の岩肌などが記憶のままの姿で懐かしかった。

午後3時30分にインゼルに達したころにはだいぶ雪が本格的に降りだしており、また滝も完全に埋まりアイスクライミングの要素は既に無くなっていた。

このあたりで先行パーティ(外人さん2名)に追いつき言葉を交わすが彼らは既に出発してから5日目?ということで結構お疲れの様子だった。

今日はどこまで、との問いにできれば5合目小屋と言っていたが彼らの様子からしてそれはちょっと難しいだろうと思われた。

そういう柴田も結構疲れており薄暮の5時くらいになり「適当に岩小屋を見つけてビバークをしては」と浅野さんに提案するが「雪の降り方から見て一気に抜けたほうが安全」との浅野さんの判断に従いそのままチンタラ登り続けることになった。

まあセオリーから言えばその通りなのだけど、疲れているとつい弱音が出てしまう。

外人さん2人は途中まではトレースをフォローしていたが途中で適当な岩小屋に張ったのか見えなくなった。

右俣の詰めは割と地形が複雑でおまけに既に暗闇なので2.5万図を見ても現在地は確信が持てない。

時計の高度計で凡その位置を判断し、迷うところでは左の黒戸尾根側を取るようにして更に3時間ほどヨレながら登り続けるが、大半を浅野さんがリードしてくれた(申し訳なし。)

午後8時過ぎにようやく吹雪の稜線に達したが、祠や石仏から見てどうやらピークのすぐ横に出たようだった。

できれば七丈小屋で泊まりたかったので黒戸尾根と思われるラインをそのまま数十分下るがトレースは全く無く暗闇の吹雪の中では確信持てず。勘で下るうちに赤石沢奥壁方面に下っているような気がしてきた。

これはいかん元に戻ろうと浅野さんに声をかけ、結局黄蓮谷から抜けた稜線の地点付近まで戻り、吹き溜まりをスコップで50cmほど掘り返してツェルトを張りビバークとした。

薄ツェルト1枚でも有ると無いとは大違いで夕食も済ませてそれなりに寛いだ気分になってきたが着ているもの初めツェルト内はビショビショ状態でとてもシュラフを出す気になれなかったのでフリースを着なおした以外は登攀時の格好で朝までいた。

(このときプラブーツを脱ぐべきだったのにズボラしてそのままでいた柴田は足指が軽い凍傷になっていることが下山後わかった。)

暗くして横になっても30分か1時間で寒さのために目が覚めてしまう。

前夜も2時間程度しか仮眠できなかったがこの夜も2-3時間しか実質は眠れず。

4時頃からガスで温まり朝飯のカレーうどんなども作りゆっくり用意して7時頃出発。

甲斐駒ピークとは直線距離で100mも離れていないところだった。

朝一で頂上まで往復した後は膝から時折腰くらいまでの新雪をかきわけひたすら黒戸尾根を下る。

それにしても昨日午後からよく降ったもんだ。

黄蓮谷の中にいたら雪崩の危険もあるし登ってくるのも大変だっただろう。

やはり浅野さんの意見の通り昨日のうちに抜けておいてよかった。

そういえばあの外人さんたちはどうしたのだろうか、とふと気になった。

8合目鳥居、7丈小屋、5合目小屋と通過し、刃渡り下の登山道となっても根雪で前日登ったときとはまるで別の山状態。やはり相当降ったのである。

肩と首がやけに痛く休み休み降りたので駐車場に戻ったときには午後4時を回ってしまっていた。

 

12月7日(土曜日)

竹宇駒ケ岳神社(3:30)→ 5合目(8:50)→ 黄蓮谷(10:30) → 奥千条の滝(13:05) →
インゼル(15:30) → 頂上直下の稜線(20:15) → ビバーク体制(21:30)

12月8日(日曜日)

BS(7:00) → 甲斐駒頂上(7:15) → 7丈小屋(9:20) → 5合目(12:30) → 駐車場(16:05)

 

甲斐駒ケ岳 黄蓮谷右俣

2001年9月15日~16日
赤井、櫻井(記)


40歳を過ぎて肩が一年ほど痛く、治ったあともスムーズに回らず油が切れたままになっている。

この夏の滝谷の帰りではつまらない所で足を挫き、剱岳でも同じところをもう1回やってしまった。

ランアウトで頑張りすぎたせいか指の筋が痛いのが続いているし、ラットプルダウンという懸垂のようなトレーニングのせいかひじがいつも疼いている。

おまけにここ数日は時々腰に電気が走る
痛みもあって、とにかく応対に非常に忙しい。

仕事は忙しくないのに...
そんな体を試してみる、ハードな刺激を与えてみるつもりで今回は一泊二日の黄蓮谷にトライしてみた。

9月15日

7時過ぎ竹宇神社を出発。

A、Bフランケの柴田、浅野パーティーはもうとっくに出発してしまったようだ。

12時半 五合目の小屋。

心配していた腰は今のところ文句を言わないでくれている。

小屋の裏手の水場からトラバースの道に入る。

10分もすると道が判然としなくなる。

左に五丈の沢が見えているので方向は悪くないのだが踏みあとはほとんどない。

赤や黄色のテープがときどきついている。

沢に沿って30分以上よくわからない下降(懸垂は不要)を続けると急にきれいな道に出る。

その道をたどって10分程度で岩小屋につく。

13時半 岩小屋。

先客が1パーティー3人。

水量が多いのと天気がはっきりしないので今日はここで泊り明日天気が良かったら一気に抜けて帰るとのこと。

一応、谷の様子を見に行ったが、暗くで水量も多くガスで見通しも悪いので岩小屋泊まりとする。

ガスと小雨が続いてうっとおしい。

酒は豊富だったので早くから飲み始め、さっさと寝た。

9月16日

5時 岩小屋発。

昨日ほどガスは濃くない。

晴れ間も出るという天気予報を信じて黄蓮谷に入る。

すぐに左岸の高巻き。

しばらくすると坊主の滝が出てきてこれも左岸の高巻き。

沢に降りるのを嫌っていたら二俣に出てしまった。

二俣からは流水に沿って快適に登る。

しかしほとんどがシャワー気味で体がとても冷えてくる。

櫻井は雨具を着る。

長いナメが見えてきた。

これが奥千丈だ。

200mというが上部は左に折れていて見えない。

1ピッチ目、赤井さんが流水沿いに25mほど登って肩がらみ確保。

アンカーは流れのなかにある。

やはり増水しているということだろう。

2ピッチ目同じように流水沿いに登り、途中から右に水流から離れテラス状のところで潅木にアンカーを取る。

3ピッチ目テラスのバンドを登って草付きの流水溝を右上し潅木でアンカー。

ここからブッシュを登って左に下降気味に滝の中段に出る。

さらにスラブを左上するバンドを伝っていけるところまで行きスリングを頼りに滝上に立つ。

これが4ピッチ目。

結局連続した3ピッチとロープなしの2ピッチ分、最後に滝上に降り立つところで1ピッチ(15mほど)の4ピッチになった。

天気が良ければ爽快な景色だろうと、晴れないガスがうらめしい。

9時、奥千丈滝上。

インゼルを超えて、30mの滝を右から巻くと黒い3段60mの奥の滝だ。

左岸を高巻くが、トラックぐらいの大きさの岩が崩壊し10mくらいずれていた。

新しい断面が見えていたが、今年の台風のせいだろうか?
3段の滝の2段目を巻いたところでポッと水流に戻る。

見ると右岸のコーナーが登れそうなので取りつく。

取りついて見るときびしくて、ロープを出して真面目なA0を5mほどやってしまった。

これが今回一番の登攀だった。

普通は左岸を巻きつづけて上に出るのだろう。

12時半 3段の滝上。

あとはスケールの落ちた谷を少し登って源頭の雰囲気になる。

小さなスラブなどを適当に巻いていくとうんざりする前に頂上から50mほど下の縦走路に出た。

13時半から14時頂上。

少し青空も見える。

16時 五合目

19時半 竹宇神社

奥の3段の滝で登攀をやることになって予想外に時間を使った以外は、順調だった。

安定した登りの赤井さんと降らずにがまんした天気に感謝。

街では出ていた腰痛も出ず、降りて来れた。

いろんな意味で気を良くしている櫻井だった。