明星山 P6南壁

2000年11月23日から3日間
森広、柴田(記)


季節的に若干遅すぎるかという気もしたが、最近は冬の訪れが遅いのできっと大丈夫ではないかとの期待でもって勤労感謝の日を使った3日間で明星山を目指した。

明星に関しては森広さんは遠い娘時代に一度行った事が有るだけ、私は初めてである。

11月23日

減水待ち

急行アルプス号で信濃大町・南小谷と乗り継いで小滝駅に降り立つと目の前に真っ白な明星山が現われ二人とも呆気に取られる。

履き物はボロスニーカーとニュートンだけなので転進も考えたがP6は大丈夫かもと僅かに期待しながらヒスイ峡に向かい歩き始めるとP5、P6が黒々とした姿を現し「なーんだ、これなら登れるジャン」と二人して急に明るい気分になる。

ヒスイ峡キャンプ場にBCを設営し、「今日は手始めに左フェースでも行きましょう」

と小滝川に降り立つ。

しかし流れが急で渡れない。

左ルンゼの押し出しあたりを目標に何とか徒渉のラインを目測し中州まで渡る。

森広さんも腰上迄浸かりながら続くがあやうく流されかける。

中州から対岸を見るとまだまだヤバそうな所があるので泣く泣く本日の登攀を諦め引き返す事にした。

帰路は柴田もフリースの胸まで浸かり森広さんはロープで確保されて何とか帰還。

二人ともビショビショである。

仕方ないので日当たりの良い駐車場で濡れたものを乾かしつつ日向ぼっこで一日中過ごす。

この辺りを縄張りにするドラネコに柴田は行動食のパンを1つ盗まれたが、このドラネコ、森広さんの昼食の入った袋はなぜか一跨ぎで去ってしまうのでした。

11月24日

クイーンズウェイ2Pの後左フェースへ

朝8時過ぎにBCを出て小滝川に再度降り立つ。

今日はクイーンズウェイを登るつもり。

前日と比べると大分水量は減って透明度も増している。

膝くらいまででなんなく渡りきり、身繕いをしてクイーンズウェイに取付く。

1P目(柴)草付交じりのフェースを左上。

残置少ない。

2P目(森)クラックを直上する5.9のピッチだが、ヌレヌレで足が壁に置けず登れない。

柴田に交代してトライしてみるもフリーでは登れず。

この程度でマゴついているようでは明るいうちに終わらないかも、とあっさり左フェースへ転進する事に決める。

乾いていれば楽しそうなルート。

フリーで登れるコンディションの良い時にまた来よう、と森広さんと話す。

左フェース(11:00 ~ 16:10)

1P目(柴)バルジを上のガバを頼りに越えるとあとは容易なリッジ。

バルジのすぐ上に新しいピンが打ってあり15mでビレーポイントに出る。

2P目(森)上部のフェースではなく右のカンテを越えて右上。

3P目(柴)フェースを右にトラバースし5mほどブッシュを掴んでクライムダウンし更に右へ右へとトラバースし狭いフェースを直上すると大きなテラスに出る。

50mいっぱいで潅木とピトンでビレー。

4P目(森)草まじりの階段状のフェースをやや右上に登る。

途中森広さんは袖からトポを出して何度もラインを確認している。

なーるほど、袖にトポを入れるのはなかなかうまいアイデアと感心。

5P目(柴)カンテを越えてしばらく右に進んだが判然としないので結局元に戻り直上。

残置はピン1つしか無くあるいは正規ルートを外したかもしれない。

松の大木でビレー。

6P目(森)ブッシュ帯を左上。

ルートファインディングが難しいのか悩みつつ抜けている。

このあたりでだいぶ日が陰ってきた。

残り時間が少ない。

7P目(柴)左に10mほどブッシュ交じりを登ると左岩稜の明瞭なリッジに出てピッチを切る。

8P目(森)Ⅱ~Ⅲ級の容易なリッジ。

9P目(柴)傾斜のゆるい凹角を登る。

10P目(森)左に10m弱トラバースして大木に黄色のテープが巻かれた終了点に達する。

踏み跡を右へ右へ下るが途中でヘッデンモードになる。

小滝川は土管用の橋を渡り、土管に馬乗りになってぬれることなく対岸に帰還成功。

キャンプ場でローソクを灯して夕飯。

ドラネコがメンバー面してテーブルに現れたが「シッシッ」と追い払う。

11月25日

フリースピリッツ(4P目まで)

本日は午後3時頃のJRで帰る必要があるのでBC撤収を午後1時30分として、昼頃までしか登れない。

森廣さんと相談のうえフリースピリッツを登れる所まで登り時間が来たらそこから引き返す事とし8時前にBCを出発。

1P目(森)ブッシュ混じりバンドを左上。

ランニングはブッシュで。

2P目(柴)バンドの上の小垂壁を登り更に左のビレーポイントまで。

3P目(森)大まかな階段状から凹角、ついでクラックを登る。

登っていて気持ちの良いナイスなピッチ。

4P目(柴)頭上にはボルトラダーが見えるが左のテラスにビレーポイントが見え、それに吸い寄せられるようにスラブを左にトラバースしてジェードル状を登りテラスに辿り着いてランニングを取る。

ルートは左のハングの下端に沿って右上するように思えたのでブッシュを利用しながらその通り登るが残置が全く無く、キャメロット#0.75でランニングを取った後さらに進もうとかぶったフレークを使い一歩上がった所で手にしたレンガ大のフレークが壁から剥離、森広さんにコールした上で下に落とす。

時計を見ると既に11時30分近いので森広さんに了解を求めた上でここまでとし、テラスまで慎重にクライムダウン。

(帰宅後「日本のクラシックルート」を見たら4P目はボルトラダーのラインの右を登るとあり、ここでルートファインディングをミスっていたのかも知れない。)

3P目終了点から懸垂2回で小滝川の河床に降り立つ。

まあクイーンズウェイもフリースピリッツもとても面白そうな事が分かったのでまた来年コンディションの良い時にきっと来ようと明るい気分で南壁に別れを告げる。

BC撤収中にドラネコが例によってもの欲しそうな顔をして現れたのでパンの残りを分けてあげる。

小滝駅は何時の電車かなと時刻表のコピーで確認したら1時間後である事がわかりスタコラと駅までの道を戻り、発車の10分ほど前に辿り着いた。

● 天気は3日とも良かったのですが、壁はしみ出しがあるのか、濡れている部分も有りました。

石灰岩なので濡れているととても滑りやすい。

● それを除けば壁の状態は良く、また他のパーティは全くいませんでしたので落石への懸念も無しで、明星を登るには結構良い時期かもしれないと思いました。

● ただし日は短く5時にはヘッデンが必要になるのでスピーディに壁を抜ける事が必要なようです。