2000年9月20日(水)~22日(金)
森広、大滝(記)
20年前に岩登りを始めて以来、「奥鐘」は、長くとても難しく危険な壁、充分に経験を積んだ者しか取り付いてはいけない場所。
ベテランが真剣な思いで行く神格的な壁と言う存在だった。
その姿を想像するだけで恐ろしさを感じていた。
9月19日
23:54上野駅 急行能登
9月20日
6:01富山駅 09:33檜平欅平 黒部川を1時間程遡って奥鐘の下の岩小屋に着く。
何度も川を渡るので沢靴で助かった。
水はそれほど冷たくなく、深さは股の半分くらい。
岩小屋はとても立派だが天井が低くツェルト1張りで一杯、3人までだろう。
砂地なので平らになれる。
川から数メートル高くなっているので増水の危険は少ない。
午後は昼寝をし、薪を山程集め夕方から焚き火を楽しんだ。
夜は寒くなく長袖一枚で夏用シュラフに入り、それで充分だった。
9月21日
05:30起床 07:00取り付き 話し通りブッシュをロープなしで漕いで行く。
くさびの切れ目の2ピッチ手前でロープを結ぶ。
くさびの切れ目は被り気味だがホールドが大きくて楽に越せて楽しい。
V角左壁は、大滝がコーナー沿いを行ってみるが、チムニーみたいな広いクラックが開いていて、レイバックではクラックが広すぎ、かと言って体が入る程広くない。
おまけにランニングも採れない。
諦めてアブミを出すが1ヶ所左にトラバースするがピンが遠く苦労した。
セカンドの森広さんも手間取ったがどうやって越えたのだろう。
振り子トラバースでは、トップの森広さんが「シュリンゲが古くて恐いよー」
と嘆くので、「静荷重だから大丈夫」と応援する。
次のスラブ2Pは草付きは少ないが、ピンも少なくランナウトする。
谷川岳の幽の沢にいるみたい。
真剣にルートを考える。
ブッシュ登りでなく、岩を登ってるんだ、と言う意気込みでこの2Pが一番喜びを感じられた。
次の凹角は再びブッシュ&アブミ。
この頃より天気が良すぎて頭がくらくらしてくる。
やっとこさ草付きテラスに着いたら、もう駄目。
日射病になっている。
9月中旬過ぎに日射病になるなんて想像だにしなかった。
必死の思いでロープ操作をして森広さんを引き上げると、同様にふらふらだと言う。
今回ポカリスエットを作って各自500cc持った。
相談して間に合うだろうと踏んだが、もっと持つべきだった。
起床時間についても、他に誰も居ないし、早朝は寒いだろうからとわざとゆっくりした。
もっと早く取り付いていれば良かった。
時間は14:40 最終ピッチのクラック=バンドはとてもじゃないが登れない。
回復を待って登ったとしても下降で暗くなるかも知れない。
相談し頭がはっきりしてから懸垂下降をすることにした。
下降ではシュリンゲを5、6本残置した。
特にくさびの切れ目からの下降が要注意。
切れ目を過ぎて50m一杯降りるとスラブの真ん中に着く。
でもそこには支点は無い。
左のブッシュに大きくトラバースすると根元にシュリンゲが見える。
次はしっかりしたボルトの支点。
但しシュリンゲは古い。
その次は降りて行くと河原にロープが届かずぶらぶらしているのが見える。
小ハングを過ぎた所の木の根にシュリンゲを残置した。
大ハングを空中懸垂して17:00に河原に着けた。
腹一杯黒部川の水を飲んだ。
夜は盛大に焚き火をして完登出来なかった悔しさを天に昇華させた。
*ハーケンは森広さんが1本打ったが、回収は手でぐらぐら揺すったら抜けた。
殆ど草付きを登っていた感じだった。
右方の人工ルートは登られているのだろうか。
今の時代にあってハングをぐいぐいと上っていく人工ルートに二人とも余り魅力を感じられなかった。
ボルトも古くて危険性が高くなっているだろう。
帰路、欅平の露天風呂600円で汗を流した。