赤岳 天狗尾根から真教寺尾根

2002年1月1日から3日間
一ノ瀬、池﨑、瀧島(記)


そもそも八ヶ岳に来るはずではなかった。

大晦日に五竜岳を目指してまさに歩き出そうとしてザックを背負った瞬間に池崎のザックがバキッと嫌な音を発した。

点検してみると背負うために一番大切な背負い紐が背中の中心部分から切れている。

このザックで予定通りに計画をこなすことは不可能だし今後の天気も好天は期待薄だし、この時点で五竜岳の計画は中止した。

今回は止めとけという、天の声だったのか?こんな事で中止とは昔ならば腹の虫が収まらなかっただろうけど、年とったのか、丸くなったのか。すぐに気持ちを切り替えることができた。

松本でザックとその他の装備を揃えて、いろいろ考えた末、短期間で十分にこなせる八ヶ岳東面の天狗尾根に転進することにした。

 

1月1日

晴れ

美しの森駐車場で奥秩父の山々の上に昇った初日の出をしっかりと目に焼き付けてから出発。

地獄谷に続く林道をつめ途中から沢通しに進む。

トレースを追いかけて堰堤をいくつか過ぎて地獄谷の小屋を通過する。

さらに進むと目指す天狗尾根を登ってツルネ東稜を降りてきた3人パーティーと出会った。

彼らのものと思われるトレースは右の赤岳沢に延びていた。

今回は地獄谷の本流側から天狗尾根に取り付こうとしていたので、地獄谷本流をしばらく進んだ。

本流の川原はラッセルが深く、樹林の少ない斜面から天狗尾根の尾根上に出た。

しばらく進むと先行パーティーのトレースに出会った。

風も防げる樹林の中で快適なテントスペースを見つけ、少し早いけれどテントの中にもぐり込んだ。

樹間からキレットが見えるが現在地はキレットより少し低いようだ。

 

1月2日

風雪

テントから外を覗くと視界はほどほどだったが、出発時には遠景は全く見えなくなっていた。

しばらく樹林帯を進んだ。

はじめは先行パーティーのトレースも残っていた。

樹林帯では雪も風もほとんど気にならない。

最初の10m程の岩場は左のバンド状から簡単に巻けた。

次の30m程の岩場で初めてロープを使った。

ここには右側を巻くフィックスロープがあったが正面左側から右上する凹角を登って抜けた。

このあたりで森林限界を抜けたようだが東面なので風はそれほどでもない。

しばらくガスの中を登ると大きな岩場にぶつかった。

ルートを探ると50mくらい右下に岩場の弱点を発見した。

ビレー点にちょうど良い岳樺にはテープが張ってある。

かぶり気味の凹角に残置ハーケンも見える。

ここを強引に超えて一段上のバンドに上がりバンドを右に抜けた。

きっとこのあたりが大天狗や小天狗の岩峰のあたりだろうか。

後は風雪の中ひたすら高きを目指した。

銃走路に出てからも意外と長い。

頂上では誘惑に負けて小屋で休憩してお汁粉を食べた。

山頂小屋は年末年始には営業しているのだ。

ここは正月の赤岳山頂、でも小屋にはお客はいないみたいだ。

こんな天気には誰も登ってこないのか?

権現岳まで縦走してからツルネ東稜を下ろうと思っていたが、風の強い銃走路を避けて真教寺尾根を下ることにした。

東面の真教寺尾根に入ると風はかなり弱まってくれた。

後は尾根を外さないように慎重に下る。

1ヵ所、不安定な雪壁で懸垂した。

風は弱まったけれど風下の東面の雪の量は想像以上だ。

腰から胸まで潜りながらも傾斜があるので雪崩に気をつけながらどんどん下った。

もちろんトレースはなかった。

途中に懸垂も1回。

2500m付近で少し傾斜が緩みテントを張れる場所を発見。

テントに入ったらすぐにヘッドランプが必要だった。

 

1月3日

小雪のち晴れ

この日も下りラッセルを続ける。

傾斜がなくなってくると空荷でのラッセルで進む。

牛首山を過ぎると雪も大分減ってちょうど12時頃に美しの森駐車場に着いた。

今回は予想以上の充実感を味わうことができた。

それは正月なのにほとんど人に会わない静かな山であったこと。

二日目の風雪で先行パーティーのトレースも無くなり、冬山の厳しさを味わえたこと。

下山路の真教寺尾根は予想を超える雪の量だったこと。

この3点が充実した理由だと思う。

40才過ぎた体にはよい刺激になった。

自分にとっては新鮮味の薄い八ヶ岳で新しい発見ができたのがうれしい。

鉱泉や行者小屋で定着したり、軽荷の日帰りで駈足で登るだけが八ヶ岳ではないのだ。

慣れた山だからできる創造的な山登りを八ヶ岳では目指してみたい。

 

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