冬トラッドの記録

河合(記)

今冬は緊急事態宣言やらに大分翻弄されてしまった。それは現在も…

記録の更新が久しく途絶えていたので、山ではないですが今冬のトラッド記録を残しておきます。

【1本目:センチュリーフォーカラーズ5.12b @甲府のとある岩場】

(1日目)

非常に美しい真っ向勝負のフィンガークラックがあると噂に聞き、このルートの存在は以前から気になっていた。調べてみると、甲府のとある岩場の人目に付かないところにあるとのこと、故吉田和正氏のブログを頼りに、川上さんに付き合ってもらって捜索に出かけた。入口らしき沢を発見、詰めていくうちに沢の分岐にぶつかり、左に川上さん、右に河合で探索続行。川上さんが何とか岩を発見。駐車場から1時間半位かかった。迷わなければ駐車場から25分位。

ほんと綺麗な「くの字」。その昔は「昇仙峡イクイノクス」と言われていたらしい。曲がりがオリジナルと逆だけども。

く!

横から見ても、く!

いそいそトライ開始。今まで難し目のフィンガークラックは、春うらら2p目もアレアレアも、トップロープでリハーサルしていたので、今回は少しスタイルに拘り、トップロープを封印して臨んだ。さぁ、吹っ飛ぶぞ。

出だしはプロテクションがいまいちの中ボルダームーブ、ノーズで拾ったオフセットカムが久々に活躍。その後のフィンガーはナッツやカムが良く効いて、くの字の中間部に到達、の前に既にテンションでオンサイト失敗。ここまではイレブン前半位で前哨戦。

くの字の後半がこのルートの本番。傾斜80°位、明確な足がない中をスメアで耐えつつ、フィンガージャムを、クロスムーブを交えながら連打していく。何箇所かカムをセットできる程度のレストポイントはあるけど、腕の完全回復は望めない。綺麗なクラックだけど手前側が飛び出る形でオフセットしていて、フットジャムが効かせ辛い。救いは、極端に悪いムーブはないことと、大体どこでもカムが効くことで、突っ込んでは吹っ飛びを繰り返して、1便目でムーブを解決しトップアウト。ストレニ系のルートのようだ。カムは♯0.5まで。

 2便目は、とりあえず突っ込んでみることに。くの字屈曲部まではうまく行くも、後半の最初の方で敢無く吹っ飛ぶ。繋げるとめちゃくちゃパンプするぞ。

クロスを繰り出す(Yさん撮影)

 3便目は既に腕が残っておらず、くの字後半の出だしで、いい加減にセットした♯0.4が吹っ飛び、大フォール。クラックが斜めなので、セットは要注意。地面まで戻ってきてしまった人もいるらしい。

(2日目)

 翌日、1便目で終了点のガバ取りまで達するもムーブを詰め切っておらずまた盛大に吹っ飛び、その次の5便目で完登。ビレイしてくれた川上さんと小さいカムには、吹っ飛びまくって大分負担をかけてしまった。

川上さんの3日目のトライ(小池さん撮影)

 コンディション良かったこともあり、グレードは体感易し目の5.12b位。極端に悪いムーブがなく、アクセスも良いので、敷居は春うらら2p目より低いかも。貴重な地面からトライできる5.12-の純クラック、お勧め。

【2本目:アメジスト・ライト5.13a-b? @甲府のとある岩場】

(1日目)

 このルートは、そもそもどこにあるのかすらよくわかっていなかった。センチュリーを探して彷徨っていた時、沢の右岸に壁が見えたので、「これ、センチュリーじゃない?」と見に行ったら見つかったのがこのルート。

綺麗なクラック発見!右がアメジスト・ライト

最初は名前もわからず、「何かネットで見たことあるよね、このクラック」と川上さんと話していたら、ふと、思い出した山野井氏の記録。照らし合わせてみると、やはりアメジスト・ライト。吉田氏が5.13a-b位とブログに書いていて、傾斜も110°位あり、明らかに難しそう。場所だけ覚えてセンチュリー探しに復帰。

 当初トライの予定はなかったけれど、川上さんのセンチュリー完登が近づいていたのでビレイついでに、触ってみることに。

 この日は、なぜかワイドで悶えたいと願う秀峰の誇る変〇、山崎さん、小池さん、右田さんも同行して5人の大所帯。センチュリー隣のヘイトクライム5.10aというワイドクラックで、とても楽しそうに悶絶していた。うん、間違いない、変〇だ。完登していたのは、ワイド教祖の川上さんだけだったような。

ワイドに挟まり始める山崎さん

 私は川上さんにメンドクサイ往復してもらって、アメジスト・ライトに1人寂しく向き合った。

 出だしのコーナークラックはプロテクションちょっと怖い簡単なレイバックで、5.10b位。テラスで一休みしてからが本番。

 傾斜は強いけどスタンスとクラック周辺のカチが豊富、フィンガージャムとカチフェースムーブを交えて高度を上げていく。大き目のカムが結構決まる。下部の核心はムーブに悩んだけど、シンハンドの悪い部分をスキップして、レイバックからの逆手ハンドジャムで切り抜けた。この部分、ちょっとランナウト。ここまでで5.11cはあるかな。ハンドジャムで大レスト、カムを固め取り。

 さて、ここからがこのルートの本番。クラックが途切れて次のクラックへ移る。岩がブロック状に飛び出ていて傾斜をもろに食らう中、甘い左手シンハンドジャムからのグルーで固められたサイドカチへのデッド。悪い!左手のジャム位置が少しでもずれると引きつけられない。さらにそこから左手でハンドジャムをきめてプロテクションを決めるまでも一苦労。緑エイリアンが何とか効いた。

 ここから、さらに左のアメジスト・レフトクラックに移るのがもう1つの核心、右の脆いフィンガークラックにジャムをきめ、左手を伸ばす。当初リップのガバへのランジで解決したけど、スタティックに行けることに気付いたので、以降はそちらのムーブを採用。最後はパンプしていると辛いマントル。カムは足下の緑エイリアン1つだけでランナウトしているので、メンタルにくる。

 こちらも1便でムーブは、ぼやっと作れた。タイプは違うムーブ系だけど、明らかにセンチュリーより難しい。この日はさらに2便出し、ワンテンまで。

 この日は川上さんがセンチュリーを無事RP。

傾斜110°?

(2日目)

 色々あって2週間後、寒さが一段ときつくなる中、川上さんにお願いして、再びアメジストへ。アメジストで初めて他のパーティに遭遇。

 寒さで手がかじかみ、核心最中の左手ハンドジャムを良い位置に決められず2回落ちたけど、3便目で何とか詰め切って完登。他のパーティも1名完登していた。

他のパーティの人のトライ

 この日一緒にトライしてくれた川上さんも、私も、体感グレードは5.12c位。その日完登した別パーティの人も5.12のどこかと話していて、5.13の厳しさは感じず。ムーブが違うのかもしれない。上部は岩が少々脆く、核心最中の右手フィンガーがざらざらしていて不安定、マントルの最後のガバホールドもトライ中に剥がれてしまった(少し難しくなってしまいました、すみません)ので、その辺りが影響しているのかも。

 グレードはさておき、岩が美しくて、ムーブも面白いクラックで、こちらもお勧め。

 この日、あまりに寒かったので、ビレイに付き合ってくれた川上さんに「何かやりたいルートある?」と聞いたら「スコーピオン5.12b」という答えが返ってきたので、翌日に向け、南下。そして触ることになったのが次のルート。

【3本目:タランピオン5.13a @城ケ崎浮山橋】

(1日目(実際は2日目))

 このルートは2シーズン前にスコーピオンを完登した直後に触り、あまりのムーブの悪さに封印していた。浮山橋で他にトライしたいルートがなかったので、再トライ。

正面からでは傾斜が伝わらない

 このルート、名前の通り、タランチュラの下部を経由してスコーピオンの核心をこなす。核心は下部のタランチュラ部分で、一言で表すなら「天井レイバック」。パワーと身体張力命、シワにスメアした足が抜けないことを祈りながら、ムーブを起こしていく。そして、核心の一連のパワームーブに入る手前も、右手フィンガージャムからの左手アンダーを取るムーブが悪い。

【写真10】天井レイバックするレジェンドAさん

 プロテクションセットも、非常に重要。核心は息つく暇もなくフルパワームーブが続き、スコーピオンのさかさまレストポイントに入るまで、全くプロテクションセットの隙はない。クラックはずっと細いので、小さなプロテクションで、かなりのランナウトに耐えないといけない。私は最初のレストポイントから緑と青エイリアンをセット、一度地面までクライムダウンしてから、再度トライする方法を採用。城ケ崎のカムセットあるあるで、傾斜の強い細いパラレルクラックは、ちゃんとセットしたと思っていても吹っ飛ぶことがあり、今回も1度片方吹っ飛んで、固め取りに救われた。(吉田氏ブログが参考になるので関心ある人は熟読を勧めます。)

 初日は、以前できなったムーブが起こせたので、珍しく乾いていることもあり、継続することに。ついでにスコーピオンを再トライ、前半の核心でテンションかけてしまったけど、やっぱり素晴らしいルートで、何度登っても楽しい!


足が切れたら負け。RPトライ時は最後2つのプロテクションはない(Aさん撮影)

(2日目)

 この日は、スコーピオンに王手のかかった川上さんに加え、レジェンドAさんも参戦。Aさんの年齢を感じさせないパワーに脱帽。私は核心最後の右手リップ取りの後を、手数の少ないタランチュラくるりんぱムーブに変更。腕のパワーは抑えられるものの、カム足下で体を反時計回りに回転させて足を先行させる恐怖のムーブで、落ちると頭で壁に人間除夜の鐘、絶対落ちられない。川上さんは最後のクリップで粘りに粘って、スコーピオンを完登、おめでとう。Aさん曰く、初登者が、5.12aあるか不安になって、ガバの右側でムーブ起こさないとクリップできない位置に終了点を設定したんだそうな。今の感覚だと、ガバまでで、十分5.12a以上あるように思う。

この日、ワンテンまで持ち込むも、核心の一連のムーブは、通しでは一度も成功せず。

コウモリレストを堪能する川上さん

(3日目)

 トライが形になってくるも、核心の左手アンダー寄せが止まらず、吹っ飛び続けて終了。ビレイの川上さんはマリオネット5.12aに手を出して、いい感じのようだ。アストロドームと浮山橋は片道10分位なので、互いにビレイできるのでよかった。

(4日目)

 初便でついに、核心の左手アンダーが止まった!と思ったらその後足が切れて落ちてしまった。気を抜いているつもりはないのだけど、ちょっとでも力加減が弱まると容赦なく足が抜けてしまう。2便目は左手アンダーの前にセーブしすぎて足が切れた。やっぱり出し惜しみはなしだ。恐怖に打ち勝つため、絶叫を解禁、人生で初めて気合注入のためだけに寒いのに上裸になる。次の3,4便目は、核心最後のリップ取りまで行くも、力尽きて大フォール。日没直前の5便目、ついにリップを捉えた!余力は少しある。意を決して、くるりんぱムーブに入る。怖くて絶叫。足がレストポイントに入った!ここからは勝手知ったるスコーピオンロード。慎重に腕を回復させつつ、完登。痺れた!

 体感、今まで登ったトラッドで一番難しく、労力的に5.13aに感じた。ムーブ系なので、グレードの感じ方には幅がありそう。

この日は川上さんもマリオネット完登で絶好調、おめでとう。

【4本目:タランチュラ5.13a @城ケ崎浮山橋】

(1日目)

 実は、今シーズンのタランピオン初日に、タランチュラオリジナルの部分を触るも、よくわからずプロテクションも悪めだったので封印していた。せっかくタランピオン登ったので、覚えているうちにタランチュラもやっちまおうということで、早々にタランピオンを完登していたAさんとトライ。1便目で上部を探ると、絶妙なアンダークリングで抜けられることが判明、しかし落ちるとハングの際にぶつかりそうで怖い。2便目で体にしみついた下部核心を越え、余裕をもってチュラオリジナル部分に入るも、最後、潮でツルツルの部分に雑スメアしてしまい、スリップで落ちてしまった。その次の便では、既によれていて下部をぎりぎり突破、後半は落ち着いてRP。Aさんは間隔空いて核心ムーブを忘れてしまっていて、怒濤の7トライするも下部を詰め切れず、翌日完登したそうな。

理不尽な傾斜

 労力的にはタランピオンと差を感じず。タランチュラの方がパワーは要らないけど、繊細さとメンタルが問われる感じ。ライン的は、タランチュラがオリジナルルート。トポでは5.12dと書いてあるけど、そんなに甘くなく、これより簡単な5.13aはたくさんあると思う。私は故杉野氏のHP同様、5.13aに感じた。

 なお、終了点はなく、近くの灌木も枯れているので、両手離せる部分で終了とし、エイドダウンで回収した。

 そんなこんなで今冬は、本数は少ないけど、濃厚なトラッドを堪能できた。来シーズンは、何やろうかな・・・

難しいトラッドを登る上で重要なものは何か。基礎となるジャム筋やフェース力のフィジカル、的確なプロテクションセットや安全評価の技術、プロテクションやコンディションの悪さにめげないメンタルなど色々な要素があると思うけど、個人的には、ルートに付き合ってくれる仲間の存在がとても重要なんじゃないかと思う今この頃。付き合ってくれた主に川上さん、Aさん他皆様、ありがとうございました。