1999年5月1日~3日
中嶋、桜井、森広、瀧島(記)
今年のGWは、1日休めば、普通の人は7連休が取れるという近年まれな、よい暦だったので、是非横断をして剣の頂に立ちたいと考えていた。
ところが五龍岳と利尻での2件の遭難の後始末などで黒部横断は今回も夢と散った。
言わばサブ計画的に出来上がったのが今回の山行計画だ。
計画ではチンネだけでなく小窓王の尾根や前剣尾根なども入れており、いつもの重箱のすみをほじくる病は治っていない。
関越道から長野経由で夜中の1時半に馬場島着、運転嫌いの瀧島にしてはたいへんに気合の入ったハンドルさばきだった。
5月1日
快晴
夜汽車できた剣尾根に向かう向畑、倉田パーティーに起こされる。
お互いの健闘を誓い合い県警に挨拶をしてからゆっくりと出発8:30。
白萩川の取水口のあたりで川原にも雪が見えてきた。
ここから始まるタカノスワタリは当然高巻くものと思っていたが、なぜかトレースは川原の雪の上に続いている。
2年前の夏に微妙な高巻きと水流に戻されつつも必死で通過した核心部も、スタスタと雪の上を歩いて通過してしまった。
川原に雪が現れたと思ったら、最も雪には埋まりにくそうなタカノスワタリの激流を残雪は見事に埋め尽くしている。
登山者にとってはこんなにありがたい事はない。
池の谷の出会いから見上げるゴルジュも雪が詰まっていて夏の悲壮感は微塵も感じない。
なんと下部ゴルジュは30分ほどでアイゼンもつけずに歩いて通過できてしまった。
2年前の夏にこの池ノ谷下部ゴルジュを突破を試みて、核心部を見通しただけで逃げ帰ってきた。
夏のこのゴルジュは両岸が100メートル近く垂直に切り立って50メートルクラスの垂直の滝をいくつも要している。
激流が猛り狂い人間が入っては行けない領域に思えた。
季節によってこんなにも谷の表情が違うものか?大自然に畏敬の念を感じずにはいられなかった。
富高岩屋から小窓尾根に上がると尾根上は予想通りトレースばっちりであとはそれをたどって2,121Mの台地まで。
15:00ウイスキーを飲みながらテントを張って寒くなるまで外で春山を満喫した。
5月2日
快晴
前夜、早立ちを誓ったが朝テントから出てみるとほかのパーティーはすでにいなかった。
出発6:00早月尾根から見るとニードル、ドーム、M状ピーク、マッチ箱と続く小窓尾根の核心部も注意しないと判らずに通過してしまう。
右には向畑、倉田パーティーが取り付いている剣尾根が左には北方稜線が手に取るようによく見える。
剣尾根にはクライマーが数パーティー取り付いている。
2年前の夏にトレースしたので当時のことが思い出される。
いつか行きたいアルパインアイスルートのR4にもクライマーが取り付いていた。
なんやかんやで三ノ窓には12:30に着いた。
この時点で計画にあった小窓王の尾根や前剣尾根はあきらめてチンネに翌日取り付くことにした。
小窓王や前剣には、いつか近い将来にまた来よう。
長い午後は雪洞堀りとチンネの偵察そしてウイスキーをちびりながらゆっくりと過ごした。
冬山の悲壮感なんか微塵もない。
まさに陽光の春山を骨の随まで楽しんだ1日だった。
5月3日
高曇り
今日はチンネの日。
詳細は中島が記します。
久しぶりのクライミングでこんなにも充実感を味わえたのは幸せだった。
手の指先からつま先まで全身にみなぎる緊張感がたまらない。
体脂肪率22%を認定されたなまりきった肉体には格好の刺激になった。
チンネの頂上ではパートナーと無事に登らせてくれた剣岳とチンネに心の中でお礼を言った。
三の窓に戻り、腹痛で雪洞キーパーとなった森広さんと合流して池ノ谷を2時間半ほどですべり下り馬場島には18:15着。
警備隊の詰所にいた岩峰登高会の星野さんの粋な計らいで畳の上に寝ることができた。
翌日、朝早く出発して途中、日本海の浜辺を散策し、上越市の国分寺という雰囲気のあるお寺、それから高田城址公園を回って家路についた。
というわけで、「春の剣岳と北陸ロマンと感動の旅」
は無事に終了しました。
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5月3日
(月)チンネ 中央チムニー~aバンドbクラック 登攀編(中嶋記)
雪洞から外をのぞくとかなりガスがかかっていたが、準備をするうちにチンネ全体が見通せるようになってきた。
左稜線の案もあったが、何よりも混んでいそうだったたので中央チムニーに行くことにした。
前日に北条・新村を登った加藤泰平さんから「中央チムニーが面白そうだ」
と聞いていたのも大きかった。
桜井・森広、瀧島・中嶋で組み取り付きに向かう。
森広さんがトップで登り始めたがすぐにお腹が痛くなったということで、一人で懸垂下降して三の窓の雪洞に戻っていった。
珍しいこともあるものだ。
結局残った三人でロープを組んで、登り始めたのが6:30。
1ピッチ目、2ピッチ目は中嶋リード。
1ピッチ目はチムニーの中を5mほど登ったところで右のカンテに出ていく。
まずはカンテに出る一手がけっこう難しい。
その後も何かと難しく一手ごとに躊躇してしまう場面が多く、情けないがかなりの時間をかけてしまった。
アブミは本気で2回だした。
チムニー状を抜ける少し手前でハーケンが固めうちしてあったので、ランナーが少なくなったこともありピッチを切る。
2ピッチ目はここから数m伸ばすと傾斜が緩くなるとともに狭い雪のジェードルになり、そのままベルグラ登りになっていく。
ちなみに雪のジェードルに入ってすぐにまあまあのビレーポイントがあった。
ベルグラのラインは夏の3級のラインからはずれているので支点に乏しく、かなりびびった。
登り切ってから改めて、かなり攻撃的かつ刺激的なラインだと感じた。
ロープいっぱいに近い所で、残置ハーケン2本にアイスフック2本とアングルを打ち足してビレーポイントにする。
3ピッチ目で中央バンドに達し、トラヴァースして上部壁に入っていく。
ここは桜井さんのリード。
ピナクルのテラスで小休止し、丁度正午だったので剣尾根パーティと無線で連絡を取る。
剣尾根パーティは早月尾根のかなり下の方にいることが分かり、自分たちの方がよっぽどハマっていることを認識した。
4、5、6ピッチ目は瀧島さんのリード。
aバンドからbクラックをたどり終了点まで。
下部のピッチ比べると極端に難しくは感じなかったが、これはこれで傾斜もあり迫力のある良いクライミングだった。
やはり岩が堅いというのは良いことだ。
終了点ではわりかし本気の握手を交わしてしまった。
登攀終了2:15くらい。
3:00には三の窓に戻り、そのまま雪洞で寝ていた森広さんを起こして撤収。
3:30過ぎに池の谷をグリセード・尻セードで下りはじめて、馬場島についたのが6:00ちょっと過ぎ。
速い!
<感想:登攀編>
家にかえってから白山書房の「アイスクライミング」
を見たら、中央チムニーについて「岩というよりも時期が遅くなると完全に氷のルートとなる」
とコメントしてあった。
相変わらず自分の装備はカジタの10本爪アイゼンにカジタのピッケル・バイル(ノーマルピック)、スクリュー無しというものだったので氷にはちょっと恐かった。
今度こそバナナのピッケルを買おうと心から思った。
それと3級の岩登りが自分にはかなり難しかった。
前の晩に丁度良い感じの新雪が積もっていたのも時間がかかった理由のひとつではある。
2級とか3級のピッチには過去にも何度か苦い思いをさせられている気がする。
アイゼン登りももう少し上手くならなければならないと思った。
上部壁は傾斜が強いのに、瀧島さんには随分頑張ってもらった。
正直言って中嶋は下部の2ピッチで神経を消耗してしまったので、パーティの期待に応えることが出来なかった。
申し訳ない。
でも久しぶりに本当に面白い冬壁(春壁?)を登ったと思う。