剱岳 剱尾根 R4

2017年5月3日~5月4日
薄田(記)、野澤

GWなので前から行きたかった剣尾根R4に行ってきました。
4月の初め野澤君に電話したら5月6日が結婚式出席予定とのこと。当初、R4~剣尾根を継続と目論んでいましたが時間を短縮してR4のみとしました。

5月2日、22:00柳瀬川駅集合でレガシーにて出発、翌3日4:00に馬場島到着。
流石GWにして駐車場ほぼ満車状態。辛うじて1台の空きに賺さずレガシーを滑り込ませる。
但し、テントは面倒くさがって車のすぐ後に設営。眠くて「大岩」の後まで行って張る元気なし。
顔は見ないが6:30ころ誰か(オジサン)にテントの張場所を注意されてやむなく起床。「ごめんなさい」でした。
さりとて二人とも朝飯はカップ麺で有りますれば、ユックリお湯を沸かして『茶』飲んでカップ麺を食す。「更にごめんなさい」。
準備して、4年前の事故の件も有るので、目の前の警備隊に挨拶に伺う。
隊員から5月1日にそれなりの降雪が有り(馬場島も)、源治郎谷?で雪崩れ発生。1名が死亡とのこと。
更に諸注意を真摯に聞いて入山スタートです。
道は、早月尾根との分岐から雪が残る状況で大きめの「バックホー」が道の傍らに置いてありました。GW明けには取水口手前の橋くらいまでは除雪されるでしょう。
そうではありましたが、心配していた取水口上は取水口のすぐ上ががっつりデブリ・ブリッジとなっており、昨年みたいな冷たい徒渉は有りませんでした。「アリガタヤー」。
「鷹の座り」近辺は膨大なデブリが谷を埋め尽くし、デブリの上り下りで重荷が肩に食い込む(ちょっちオーバー)。池の谷に入りゴルジュ地帯は更にデブリのてんこ盛りで河床から何m有るのやら。時折落石の音が響くので気持ちが悪い。
気温も徐々に上がり、喘ぎながら12:00に二股に到着。
早速テントを張るが何もすることが無いので野澤君持参の350ml缶ビールを2人で飲んで昼寝する。
夕方、同じくR4計画者2名が 偵察から戻ったので状況を教えて貰う。聞くにどうも氷の付着が甘そうな様子。今から心配すると髪の毛が抜けるので予定どおり行くことにする。

5月4日、1:30起床。3:30出発。薄田今一調子上がらず、野澤君に遅れること5分。
取り付き5:30~スタート6:00~終了11:00。
取り付きには先行の男女ペアが準備中。見上げるルートは写真の通り氷は一応繋がっているのが解る程度だが先行も行く気満々だし行かない手は無い。

R4全景

1P目(野澤)写真の雪壁を右上し4級程度の岩登り2~3m直上後右にトラバース(25m)。キャメと残置ピンでビレー。
1P目取付にて先行のロープ

2P目(薄田)ここからはアックス&アイゼンの世界。傾斜がそこそこ有るが(高度感抜群)氷が柔らかいのでグリベルの2本の縦爪がバッチリ効く。
支点は手を抜いて(スピードアップ)先行の抜いたSC穴に13cmを2箇所入れてお終い(皆さんは真似しないように)。傾斜は有っても70°くらい。
すると雪混じりの氷となり、先行女性の待つ(待ってないか!)ビレーポイントへ向かう。
先行男性がリード中なのでセルフ無しで少し待つ。先行が落とす氷が時折唸りながら飛んでくるのでスリル満点(後で聞いたら野澤君は口に1発食らい口中を切ったとのこと)。ここもセルフは残置ピンとカム。ここも25m少しのロープスケール。
2P目野澤フォロー

2P目終了点から3P目を望む

3P目(野澤)出だし、雪壁から岩を右に回り込みルンゼに入る。ここから上が本ルート中で1、2番の傾斜が有る場所でしたが先述の通り軟弱氷なので難しくない。
3P目スタート

貴重なアックスが薄い氷を叩くと「カチン」と悲鳴を上げる。更に全ピッチを通して氷が薄いのでスクリューも「ガリッと」泣いて侵入を嫌がるので涙が溢れそうにそうになる。確か40m程度。
3P目登攀ライン

4P目(薄田)このピッチは下部から中間は殆ど氷が無く、薄く狭い。しかるに右手の岩に乗って通過(Ⅲ+程度)。抜け口4m手前から氷に移る。35m程。
4P目抜け口野澤フォロー

5P目(野澤)写真のとおり傾斜が落ちて氷も気温の上昇と共に水氷状態。本ピッチが氷のラストピッチとなる。40m程。
5p目取付(先行)

5P目中間

6P目(薄田)緩い雪壁50m。
6P目スタート

7P目(野澤)15mの岩場。Ⅲ+程度ですが氷混じりの為少し難しい。右上して這松帯に入ると実質終了。後は雪稜をロープスケールいっぱいでR4全ルートの終了となる。
8P目実質最後リード

懸垂が出てくる予定なのでハーネスは外さない。ルンゼ内はほぼ日陰状態で有ったが抜けたのでこれ以上無いほどお日様が我々に強い日射を浴びせる。
小窓の王、チンネが格好良い。
先行2名のトレースを追っていくと這松の中に綠のロープシュリンゲを発見。ロープ跡が見当たらないので先行はフリーで降りた模様。我々が遅いので姿は認めず。
傾斜は雪壁の傾斜は出だし60~70°程度。勿論後ろ向きになり靴底に付着する雪団子をまめに落としながらの下降となる。先行のトレースが有るので助かる。手を抜くとフットホールドを捉えられず気持ちよく(?)R2のルンゼに死へのジェットコースターがスタートする。シンギングロックのグリップ(アックス)が傷だらけになるが致し方ない。
この辺から若い(私も若いけど?)野澤君に間を空けられる。
天場へは13:00に到着。休憩後14:00出発、15:30頃馬場島着。

この冬はそこそこアイスクライミングに通ったので技術的な困難さは感じなかったが、そこは剣岳の直下。天気にも恵まれ気分は最高でした。
(最後1P程度誤差があるかも(^_^;))
お終い。

北アルプス 剱岳 剱尾根

2004年5月6日から4日間
大滝(記)、森広


5月6日 快晴

上市駅よりタクシーで馬場島に7:40到着。

白萩川までの道は殆ど雪が無い。取水口を過ぎ、川が左に屈曲する地点で流れが出ていて対岸に渡れない。仕方ないので夏道を目指して左の急な斜面を大高巻きする。部分的にⅣ+位あって恐い。

奮闘して鞍部に着くとはっきりした道があった。9:55。

白萩川に向かって降りて行く。池ノ谷出合は雪で埋まっていた。そのまま詰めたくなるが、馬場島で池ノ谷は沢が出ていて通過不能と言われたので諦める。

10:55小窓尾根に取付く。

雷岩の地点だがここで良いのか少し不安だ。

本流に大岩が有って登り口の左にも大岩がある。赤谷尾根側を見ると急な沢があって十字峡の様に見える。

アイゼンを着けて登って行くが、途中で落雪が有り危険だなと思っていたら左に夏道が見えたのでアイゼンを外してそこを歩く。12:00小窓尾根上に出る。1614m地点に13:50。

展望が開け、剣尾根が凄い迫力で聳えている。そこから池ノ谷に降りて行く。途中雪が切れて居る所もあったが問題は無い。

池ノ谷に降り立つと、自分があの『池ノ谷』に居る歓びに満ちて来る。『剣尾根』と対峙する。やっと来たこの場所に。

延々と歩き始める。快晴で気温が高い。頭がぼーっとして来る。夢を見ながら足だけは前に出して行く。途中、右岸の岩と雪の段差があり雫が落ちていたので冷たい水を補給出来た。

16:00剣尾根末端。

大高巻きをした為に時間が遅くなった。ここは安定しているので泊まる事にした。

水は雪と岩の隙間に雫が沢山落ちていたので溢れるほど取れた。寝る前にコッフェルを置いて居たら、朝には一杯になっていた。

5月7日 晴、午後暫くガス

3:30起床4:50出発 4℃ 2本目に現れたルンゼR10を詰める。初め確信が持てなかったが、その先は壁になっていたので戻って取付いた。

コルEからは藪、急な雪面、恐い土壁、色々な要素が出て来る。ルートを見つける力が要る。Ⅲ峰8:20。

Ⅱ峰の岩場でロープを出す。荷物が重いので結構難しい。いきなりA0してしまう。20mランニング6箇所位。

殆ど休み無く岩場、藪を越えて行く。天気は良いが日が当たらず風が気持ち良いので行動が捗る。

コルCに着く。いよいよ核心部だ。ガスが周りを覆い始め岩場が陰惨に見える。畏怖すべき壁だ。緊張感が高まる。風が出てきて寒いので雨具の上を着て薄い手袋に取り替える。

恐い思いを押さえ込み大滝がリードする。少しだけフリーで登り、後はアブミの架け替えだ。荷が重く疲れる。右にカンテを廻り込むとフリーになる。後半のフェースをフリーで行こうとするが、恐くて一旦まとめたアブミをまた用意して結局ずっと人工で登ってしまった。ルートが曲がるので後半はロープが流れ難くなる。ランニング12箇所位。

森広さんはハーケンに手が届かず苦労した。

這松の尾根を進んで行くとあの高名な「門」が登場した。
多くのクライマーが称えて止まない「門」。
本当に素晴らしい岩塊だ。

R6のコルを越え取付きのバンドで休憩し中央のクラックを観察する。出だしが被っていてシュリンゲが風に揺れている。いきなり疲れそうだ。覚悟を決めて大滝がリード。クラック内に手を噛ませて身体を上げ、シュリンゲにアブミをセット。

アブミの上段に移るとしっかり掴めるガバホールドがあった。

ハングを乗り越し、左にあったハーケンにシュリンゲを通して確認したら簡単に抜けた。落着いて右上を見たらしっかりしたハーケンがあって助かった。

その後は、クラックと言うよりもバンドの左上トラバースと言う感じだ。ハーケンも適宜あり、とても楽しく途中から歌が出て来る。名にしおう名ルートだ。16:40。

ここでロープを外すが最後のスラブが結構恐かった。ぐずぐずのガレを通過すると間もなくドームの頭。時間が遅いのでここで泊まる事にした。17:00。

テント3~4張可能。

5月8日 快晴

3:30起床 5:10出発 -2℃ 念の為ハーネスを着けて行く。

アイゼンを着けたり外したり忙しい。

コルAもテント3~4張張れそうだ。岩場を左に巻く所で1ヶ所恐い所があった。右に望見出来るドーム稜のルートを考えながら目で追う。

中央ルンゼは氷化している部分もあった。登ってみたい。小窓ノ王、池ノ谷、小窓尾根、赤谷尾根、毛勝山方面、後立山方面、展望は360度だ。

剣尾根の頭は、岩場は行けそうだが恐かったので、左の雪壁をダブルアックスで行く。

長次郎の頭7:30。

剣岳山頂8:20。

槍ヶ岳も見えた。早月尾根の下降は、降り初めて間もなくと暫く行ったいつもの雪壁とニヶ所懸垂した。伝蔵小屋11:07。18℃。

馬場島15:00。

天気も気分も良かったので馬場島で泊まって帰京した。

 

剱岳 剱尾根

2002年5月3日から4日間
浅野、柴田(記)


<概要>

日程は4日間あるので剣尾根のトレース後に三ノ窓に移動してチンネも登れるかと思っていたが実際には降雨の為1日半近く停滞を余儀なくされ剣尾根のみで終わった。

・ 雪は非常に少なく核心の門のピッチはアイゼンを脱いで登った。

・ 雪が少なかったせいもあるかもしれないが幕営適地は聞いていたほど多くなかった。

我々は2-3人用テントを担いでいったがこの寡雪状態でもコルE手前、コルD、ドーム付近、コルA手前の雪渓上であれば比較的安心して張れると思われた。

ツェルトビバークならもう少し範囲は広がるだろう。

コルA、B、Cはナイフリッジになっていて幕営には向かなかった。

・ テント・食糧・燃料をしっかり担いで登った為停滞中は快適だったが登攀中は荷の重さでⅢ級程度でも傾斜が立った所は後ろに体が引かれるようで所々恐い思いをした。

<行動の記録>

池ノ谷にそびえる気品に満ちたリッジ剣尾根と昨年門前払いになったR4を組み合わせて登ろうという計画を4月中旬くらいで浅野さんと固めた。

お互いGWの全てを山に投入すると単身または独身に舞戻る可能性があるため前半は家族と楽しい休みを過ごし、後半の4日間で「すいませんがちょっと山に行ってきます」と言う予定を組んだ。

尚、オリジナルの計画では下半を登ったらテントはコルBあたりに残しサブでR2を下り、R4を登ってテントを撤収して上半につなげるといううまい話だったが行ってみてそんなにうまくは行かない事がよく分かりました。

今年は雪少なく春早く予想通りR4は氷無くカラカラ状態と言う情報が入り、念のために持っていったスクリュー類も結局馬場島で車に残置することになった。

ちっとも寒くない5月3日朝警備隊にご挨拶を済ませて池ノ谷に向けて出発。

 

5月3日

晴れ

白萩川の取入口は堰堤脇の雪渓を歩きタカノスワタリあたりで1度へつりをまじえたのみで渡渉する事もなく池ノ谷出合に着。

池ノ谷ゴルジュは中を覗くとそのまま通過出来そうだったのでヤバかったら引き返す事として入ってみる。

雪渓はしばらくはしっかりしていたが最初に右に曲がるあたりで大穴があいており、轟音と迫力ある飛沫が迸っている。

右岸の露岩沿いにトラバースできそうだったのでちょっと登って見る。

Ⅱ位だが滑って落ちれば大穴にストライクで当分遺体は上がってこないだろうと思うと慎重になる。

幸い上部にボルトとピンで作った下降点がありそこからは懸垂で大穴を越えた雪渓上に降り立つ事が出来た。

念のためにその先もチェックしたが大丈夫なようだ。

浅野さんにOKサインを出し後続してもらいロープをたたみスタスタとゴルジュを進む。

早月尾根からの枝沢が入り三俣になったところを回り込むと谷が開け向こうに二俣と剣尾根が姿を現した。

「割と近くに見えるけどここからが長いんですよ」

と言う浅野さんの言葉どおり1時間半くらいかかってようやく二俣に達し、そのまま進んでR10とおぼしき所で休む。

トポにはR10から容易にコルEに達せられるとあり、その割には草付と岩盤があらわになり渋そうだ。

たぶん例年は雪が付いていて簡単なんだろうと勝手に納得し取り付くが、実はR10はもっと先でここは無名の急斜面だったのでした。

最初ロープなしで取り付き途中結構恐い思いをして露岩を越え、アンザイレンし草付きから雪壁をつなげてコルに出た。

コルには古いトレースが残っていた。

ここからしばらくヤブ、雪稜、岩稜のミックスが続く。

途中浅野さんが左俣側の急斜面に滑り落ちかけたが雪が腐っていたおかげですぐに停止した。

ダンゴになったアイゼンを不用意に置いたとの事だったが浅野さんが滑落した瞬間は心臓が止まりそうになった。

しばらく進み格好のテントサイトの雪面を見送ると眼下にやさしいルンゼとコルが現れ、これが本当のR10とコルEという事がわかる。

コルEから上はヤブの急斜面になっている。

いい加減疲れてきたので先ほどのサイトで幕としたい気もしたが天気はよくまだ2時間程度は明るいので頑張ってコルDまで延ばす事にした。

ヤブ、草付、潅木登りのミックスを我慢しながら進むと10mあまりⅢ級くらいのフェースが現れその手前左側の雪面が整地すれば張れそう。

トポから判断してここがコルDに間違いない。

今日はここまでとした上で浅野さんがフェースにフィックスを張る。

 

5月4日

午前中は曇りで行動できると思っていたが終日雨で停滞。

新品のゴアライトを担いできたおかげで特に濡れる事もなく割と快適に惰眠をむさぼり過ごした。

明日は未明から行動してその日のうちに三ノ窓に移動できれば最終日に午前中チンネを登れるかも、等と取らぬ狸の皮算用をしていた。

なお、山岳しりとりは二人だとつまらなそうなのでやらなかった。

 

5月5日

雨のち晴れ

予報では朝から晴れるということだったので3時起きでスタンバッていたが7時になっても8時になってもジャージャー降っている。

話が違うよと天気予報を聞き直すと微妙に前日から表現を変えている。

午前中一杯降るようだと剣尾根下半部だけで撤退の可能性もあるか、などと悲観的な方向に思いを巡らせていたらテントの外で人の声がする。

ベンチレーターから覗くと3人パーティが我々が2日前にフィックスした壁に取り付こうとしているところだった。

我等も続けと急いで荷物をまとめてテントをたたみ9時30分頃から行動を開始するが、先行する3人パーティはⅢ級程度のフェースに結構時間がかかっておりラストは「ゴボーしまーす」

といっている。

もしかしたら「順番待ち→時間切れ→敗退」

というイヤな予感が脳裏をかすめる。

フェースを抜けるとハイマツ交じりの斜面となりその上の岩稜で先ほどの3人パーティがロープを出していたので「ノーロープで先行させて頂いても良いですか」

とお願いし了解を得て急いで抜ける。

そこからすぐコルCで目の前には垂壁、上部には門の巨大な岩塔が聳えていた。

壁の状況から見てアイゼンは不要と判断し二人とも外す。

コルCのナイフリッジ上の雪を慎重に進み壁に取り付く

1P目(浅野)最初数手フリーのあと人工で右上し右のカンテまで登る。

ここでアブミをたたみカンテ右のフェースをフリーで登りレッジまで。

人工部分はどうということ無いがそのあとのフリーのフェース部分が3泊4日幕営装備入りザックを背負った身には体が後ろに引かれそうで緊張した。

後ろを見ると例の3人パーティのあとにもう一つ別の3人パーティが後続している。

2P目 ロープをたたみハイマツ交じりの岩稜を100Mくらい登ると目の前に門がジャーンと言う感じで現れる。

3P目(浅野)核心のピッチ。

5M位上で2手ほど人工を交えたあとはフリーでバンドを左上し、途中からクラックを直上。

ここでもどうということ無いⅢ級程度のフリーで体が後ろに引かれやけに恐かった。

途中から現れたクラックはバックアンドフットやレイバックなどいろいろ使えてナイスなピッチだった。

クラックの奥にキャメロット1番の新しいのが残置されていた。

山でモノを拾うと必ずそれより高価なモノをなくすというジンクスのある柴田は見向きもしなかったが浅野さんはかなり頑張って頂戴しようとしたようである。

4P目(柴田) ゆるいフェースを登り一旦リッジを下って崩れそうなルンゼを登る。

Ⅲ程度でどうということはないのだがとにかくボロい。

ここで一旦ロープをたたみハイマツ、雪稜、岩稜のミックスを少々歩きドームの頭を通過、R2とアルファルンゼがコルBに突き上げているのが見下ろせる。

コルBは狭くリッジも立っていて幕営には不向き。

R2とアルファルンゼは割と容易に下れそうに見えた。

コルBを越えてやっと上半部の始まりである。

今日中にどこまで行けるのか分からないがまあ進めるだけ進むことにする。

最初のピッチは大まかなフェースを直上し上部のピナクル状まで柴田がリード。

次にリッジの左斜面の雪壁を登り途中からリッジに移りコルまで浅野さんリード。

このあたりでようやく後続パーティがドームの頭に現れる。

ずいぶんと時間がかかっているようだ。

最後の3人パーティはザックの大きさから見てサブ行動のようだったので彼らは今日中にベースまで戻れるのかな、とちょっと心配になる。

3ピッチ目は容易な階段状を登り岩稜に出てロープをたたむ。

時刻も5時近くなり大分日が傾いてきた。

テントを張れるスペースを探しながら岩稜を進むとコルA手前で割と平坦な雪渓が現われ整地すれば張れそうだったので今日はここまでとする。

水作りの後夕食を終えたらいつのまにか9時をまわっていた。

疲れてすぐ眠りに落ちる。

 

5月6日

快晴

休みも今日までで明日からは仕事である。

テントを起き出すと右手にドーム稜から剣尾根の頭が澄んだ空に硬質な姿でたたずんでいた。

テントを撤収して一応アイゼンは着けてコルAに下り、ここから容易な雪壁と岩稜を剣尾根の頭まで登る。

下から鋭鋒に見えた剣尾根の頭も登ってみるとハイマツ混じりの広いピークだった。

すぐ隣の長次郎の頭までも一足投だ。

振り返ると登ってきた剣尾根が自分の足元までつながっていて向こうには毛勝猫又の山並が美しい。

長治郎の頭で無事登攀終了お疲れさんと浅野さんと握手。

いったん長治郎のコルへ下りバケツになったステップを階段のように登り本峰頂上に7時15分に着。

今年は雪が少ないのか頂上の祠もかなり姿を見せている。

八ツ峰を見ると雪稜と言うよりは岩稜に見え、雪の少なさに驚く。

10分程度休んで下降開始。

早月尾根も昨年に比べると雪がとても少なく暑い中途中からシャツ一枚になりスタコラと下る。

伝蔵小屋を少し過ぎた小ピークでの大休止を含め4時間ほどで馬場島に着いた。

途中松尾平を過ぎたあたりでカタクリの群落が現れその横を小さなアゲハチョウが飛んでいるのでもしやと思ったらやはりギフチョウだった。

知らない人のために書くとギフチョウは日本の固有種で春の女神とも呼ばれ天然記念物に指定されている。(ですよね、森広さん。)

登山道沿いに軽やかに舞うギフチョウが4日間お疲れさん、と言ってくれているようで心がなごんだ。

馬場島に着くと緑は濃く既に初夏の陽気。

装備を乾かし、警備隊に下山報告を済ませ、12時過ぎに心の中で剣岳にお礼を言って馬場島を後にした。

<タイム>
5月3日
馬場島(5:30)→池ノ谷出合(6:45)→池ノ谷ゴルジュ終わり(7:45)→コルE(15:40)→コルD(16:30)

5月4日
停滞

5月5日
コルD(9:30)→コルC(11:15)→門取付(12:45)→ドームの頭 (15:30)→コルB(16:00)→コルA手前テン場(18:20)

5月6日
テン場(5:55)→長次郎の頭(6:30)→剣岳頂上(7:15)→馬場島 (11:25)

 

<おまけ…観光編>

上市のアルプスの湯でゆっくりと汗を流すはずだったが折り悪く5月6日に限り休みとの事。

仕方ないので糸魚川方面に国道8号線を走れば風呂なんてすぐ見つかるよ、とお気楽に走り始めたのは良いが一向に現れない。

剣の方を見ると早月尾根、池ノ谷、小窓などが一望のままでそれはそれで素晴らしい景色だったが、温泉が現れない。

たまに高級旅館っぽいのや風呂付きビジネスホテルの看板は現れるが求めているものと異なるので見送る。

既にフロ、メシとプログラムが入力されているのでフロが終わらない事にはメシにもありつけない。

滑川、魚津、黒部、入善と過ぎたところで右側に「ふれあいの湯 →」の看板を発見し大喜びで右折すると「11km先」との表示。

遠いとは思ったがここで見送ると今度現れるか分からないので我慢して車を走らせる。

宇奈月温泉の方に向かっているようだった。

20分くらいでやっと現れた。

建物はちょっと古いがこの際さっぱりできればいい。

料金400円を払い湯殿に入る。

私はいつも最初軽く湯船につかってから体を洗う習慣で、湯船につかりながら鏡の前に座った浅野さんを見ると何故か固まって動かないでいる。

数秒で固まった理由が分かった。

つまりないのである。

シャンプーも石鹸も。

良く見るとおじいさんもおっさんも少年も皆マイシャンプーにマイセッケンを使っている。

洗い場で取り付き敗退を喫した浅野さんが湯船に帰ってくる。

じゃんけんで負けた方が受付にシャンプー石鹸を買いに行く事にしてじゃんけんすると柴田が負けたが浅野さんは「自分が行ってきますよ」と買いに行ってくれた。

すまんのう。

でも10分ほどして帰ってきた浅野さんの手にはシャンプーとリンスしか無かった。

石鹸は売っていないと言われたとの事。

置かないなら売らんかい、と二人して悪態をつくがどうしようもない。

浅野さんは「自分は頭を洗うだけで良いです」

と早々に諦めたが何とかさっぱりしたい柴田は諦めきない。

洗髪を終え隣のおっさんに石鹸を貸して欲しい旨乞うたが「この石鹸、オレのじゃないよ」

と言うつれない返事。

いい加減ツキの無さに嫌気が差してきたが負けるもんか、と離れた所に座っているじいさんの所まで歩いてゆき石鹸を貸して欲しいのですが、とすがると左卜全(知っている人も少ないか)のような笑顔で貸してくれ、何とかツキの無さもろとも洗い流しさっぱりする事が出来た。

糸魚川まで8号線を走ったがフロのあとメシも済ませて柴田は仮眠状態でウトウトしていたら突然車が停止。

外を見ると魚屋の前で浅野さんはダッシュで魚屋に入っていった。

後を追った柴田が事情を聞くと「ますの寿司」を買わなくてはならないという。

こんな魚屋にはないだろなと思いつつ一緒に探すがやっぱりなかった。

「どうしよう、あれを買って帰らないと。。。」と浅野さんは蒼ざめている。

どうやら家族に山行のお土産として約束手形を発行済みのようだった。

きっと高速のサービスエリアにキットあるよ、と根拠レスの慰めをして再出発。

その後柴田は慰めの言葉も忘れてグーグー寝ていたが後から話を聞くと無事高速のサービスエリアで買えたとのことだった。

めでたしめでたし。

北陸道、上信越道、関越とつなぎ9時過ぎに無事帰京。

 

北アルプス 池ノ谷ゴルジュ、剱尾根、チンネ

1997年8月9日~13日
瀧島、中嶋(記)、森広、石原

当初の計画では池の谷ゴルジュから剣尾根、チンネを登るというもの。

8月8日

秋津駅に集合、関越回りで魚津インターまで。R8沿いのコンビニで最後の買い出しをし馬場島を目指す。滑川から行こうとしたが「通行止め」の表示があったので上市経由に変更。しかし途中ではまる。2時頃にあきらめてテントを張る。

8月9日 曇り(台風が日本海にいた)

明るくなればこっちのもので馬場島まではスムーズに着いた。白萩にかかる橋の手前に車を止める。さて、池の谷の入り口までばか丁寧に水通しに行って結構時間がかかる。入り口から最初の滝までは10分ほど。昔の記録で最初にザイルを出しているところはうまくクリアできる。入り口の滝は50mまるまる、岩がぼろぼろなのでノーピンになってしまう。ハーケンを2枚打ってビレー点にし、下降用のボルトまで打つ。ここから懸垂30mでゴルジュを見通せるところに降りられる。どう見ても絶望的というか、行く気のおきないゴルジュが展開していて、満場一致で記念写真をとって小窓経由で上部に行くことに決定した。この日は池の谷に入ってすぐの岩小屋で泊まる。

ちなみに池の谷に入るのに足をぬらさずに済む道が、取水堰のところからばっちりついている。

8月10日 曇りのち雨

雪渓登りから始まる。私だけアイゼンがなかったが登りはなんとかなった(下りは相当苦労したが)。R10とおぼしきところから登りはじめるが、道が安定していず結構悪い。夏はあまりトレースされていないようだ。尾根の上にでた頃から雨が降り始める。雨宿りを兼ねて山用語限定しりとりをし、これに負けた森広さんを先頭に進む。ここからの薮こぎもかなり大変、トポではコルCまでロープを出すところはないが、2ピッチ分真面目にロープを出した。何度もコルCだと思っていた場所があったが、この日は結局コルCには着いていなかった。不意にナイスなテン場が現れたので、天気が悪かったこともあり迷わず行動中止。

8月11日 雨のち晴れ

朝からけっこうな雨。10時頃までたっぷりと眠る。小やみになってから意を決して出発。結構登ってからようやくコルCにでて快適なクライミングを開始した。岩は濡れていたが堅いのでそれなりに快適であった。フリーではあと一歩で行けなかった。このあとほどなく門が見えてくる。写真で何回も見ていたが思った以上に大きくかっこいい。

思い出すだけで震えるくらい。此のピッチもリードさせてもらう。かぶり気味をクラックを使ってのっこし、左上するフレークに掴まっていく。極めて面白い。次の1ピッチで門は終わり、脆くて思ったより悪い。このあと剣尾根の頭まで何回かロープを出した。トポではやたら易しそうだがそんなことはなかった。でも天気も良くなってきていたし、馬場島を見下ろすロケーションは最高だった。三の窓に着く頃は真っ暗だったが水が取れたので一安心。水汲みはかなり恐かった。

8月12日 晴れ・にわか雨

寝たのが遅かったので、朝はけっこうのんびり。ガスがかかっていたのであわてる気もしなかった。ガスがあがって左稜線の取り付きが見えたので出発、先行パーティが1組。ピナクルまで、最初の2ピッチほどは4級とかにしては少し悪く感じた。浅い縦クラックが多い。ピナクルから1ピッチ快適なフェースを登ると歩きが3ピッチくらい続く。T5から先はかなりかっこいい岩稜が迫ってくる。5級というので気合いを入れていくが、岩が堅くホールドも良いので4級上くらいに感じる。もちろんかなり楽しいピッチではあった。あとは適当にリッジを行けばおしまい。所用時間4時間。

一度テントに戻ってお茶を飲んで一服してからお代わりをしにいく。私と石原パーティが北=新から上を適当に、瀧島、森広パーティが魚津高ルートから適当に。北=新は下手な先行パーティがいたため相当待った。難しいのは3ピッチ目の途中10m程で、5級とはいいながら岩が相当脆く、フリーではとても行けなかった。あまりいいルートではない。

魚津高のほうが岩の弱点を縫っていて面白そうだ。上部を登っているときににわか雨が来て、一時はどうなることかと思った。

8月13日 曇り

池の谷を下る。私だけアイゼンをしていなかったので下りには時間をかけさせてしまった。所用時間5~6時間ほど。

下山後のメニュー
魚津で寿司、温泉(何故か古本屋)ikenotan2ikenotan3

ikenotan