鹿島槍ヶ岳 天狗尾根

2017年5月3日~5月4日
赤井、川端(記)、小渕

当初は北壁主稜を計画しましたが山の状態などから天狗尾根に計画変更しました。
計画では1日目:天狗ノ鼻、2日目:北壁主稜→天狗ノ鼻で宴会、3日目:下山。のつもりでしたので無駄に多い酒類とつまみを持ったことを後悔しました。

5月3日(水)晴れ 微風
前夜に大谷原に着きましたが駐車場は満車ちかく埋まっていました。
6:00出発。晴れて気温が上がる予報。


取水堰堤を越えると何度か渡渉がありました。飛び石を失敗し右足水没。冬なら凍傷になるところでした。


出合から荒沢に少し入った右側(左岸)に赤布発見。そのあたりから適当に藪こぎで登り天狗尾根に上がります。このあたりはほとんど雪がありません。


しばらく登ってアイゼンを装着。雪が腐って歩きにくい。このあたりからペースが落ち足が前に出ない。


両サイドから雪崩のサウンドを聞きながら天狗ノ鼻を目指します。
ドデカい雪崩(写真の左より)も目撃し明日の行動はテントで話し合う事を決める。


雪の状態が悪かったのでロープを出したところもありました。


ヘロヘロで天狗ノ鼻に到着。私たち以外にテントが2張り。天気は最高。良すぎるから明日が心配。
明日の行動を話し合った結果、北壁は諦め天狗尾根を登り赤岩尾根下山を決める。


5月4日(木)快晴 微風
前日より雲が少なく日差しがキツそうな朝。3パーティー中、最後で6:00出発。


7時過ぎからあちこちで雪崩。当初の予定でカクネ里を行く予定でしたが上から状態を見て計画を変更し本当に良かったと感じた。


曇ることなく容赦ない日差しの中で昨日の疲労が堪える。
気温も昨日より高く感じた。
雪の状態が悪くステップを切るが崩れる。ロープをところどころで出すため渋滞もおきる。


この時期の鹿島槍は初めてで、いろいろな記録を拝見しましたが今回は雪が多いのではと感じた。


6時間以上かけ北峰。山頂標識は埋もれていました。


下山途中、冷池山荘でのもう一泊の誘惑を振り切り赤岩尾根を忠実に下りました。
西俣出合からヘッデンに。


あんなに連発する雪崩を目の当たりにし状況判断などなど勉強になりました。
北壁をいけば天狗尾根を下り天狗ノ鼻(BC)に戻るので、今回は下見ができたことからいい経験になったと感じました。

北アルプス 鹿島槍ヶ岳 天狗尾根(北壁敗退)

2003年4月14日から3日間
森広、大滝(記)


4月14日

大谷原8:10発 晴 9℃
辺り一面雪原。クロカンしたら楽しそう。

大川沢を遡るが、途中、大高巻きを1回余儀なくされた。

9:50吊橋を渡る。

大分傾いて来ている。その先の取水口を渡った所で渡渉箇所が現れた。

うだうだと悩んだが、意を決して一番安全そうな地点を見極めて裸足になって渡った。

大滝で膝上、森広は腿の付け根まで潜った。幅は8m程。

天狗尾根に取付くが、雪が締まっておらず1歩1歩、ずぼっずぼっと潜ってしまい、疲れるし時間は浪費するしで捗らない。4月中旬ならばもっと締まっていて欲しい。

上部では、雪の亀裂が前傾壁になっており正面からは越えられない為、右の急斜面から廻りこんだ所が2ヶ所あった。

これじゃあ、帰りも怖い。ロープ無しではとても降りる気になれないし、懸垂の支点も無い。

当然、天狗の鼻まで行けるものと思っていたら、手前の2120mピークで5:20になっていた。こんな遅々としたスピードでしか進めなければ、天狗の鼻は夜になってしまう。

それは危険だ。でも、ここで泊まれば時間的に北壁はもう登れない。心なしか、北壁の雪が少なく見える。

雪質もこの高さでぐさぐさだから北壁も同じかも知れない。しばし悩んだが、ここで幕営とした。北壁は又の機会だ。

 

4月15日

5時起床 3℃ 6:40発 高曇り

第二クーロアールもぐずぐず雪で、足を蹴り込んでも5、6回目でやっと決まる有り様。

雪の蟻地獄か。

8:30天狗の鼻。

なんと、2時間もかかった。

こんな亀さん状態では、天狗尾根さえ抜けられるか心配になってきた。

北壁をカメラに収め進む。

大きい雪庇が幾つも出来ている。

前傾している雪壁が現れる。

左はかなり切り立っているが何とか越えられるかも知れないが、下がすっぱり切れている。

右は、きのこ雪の下をくぐらなければならない。

しかも廻りこんだ先の様子は分からない。

暫し逡巡していたら、下の森広さんが、ロープを出そうと言う。

少しクライムダウンして、アンザイレンする。

右のきのこ雪が崩壊する確立は殆ど無いのでくぐることにする。

潜ったあとは安定した斜面だった。

スタンディングアックスビレイで確保。

11:46 岩場に達しアンザイレンする。

1ピッチ目は残置ハーケン2本、木の根1箇所でランニングを採る。

2ピッチ目はハーケン2本。

難しくは無いが、荷が重いのでゆっくり登る。

ガスがかかり視界が無くなって来た。

こんな高い所なのに、まだ潜る。

13:50 やっとジャンクションピークに着いた。

流石にここまで来ると、雪は締まっている。

快適に歩いて北峰。

両側がすっぱり切れていてアルプス的だ。ガスで何も見えない。

地図で方向を確認して、南峰へ向かう。

15:20南峰。

冷池小屋に向かって下るが、ガスの切れ目から、剣の山並みが現れ、喜ぶ。

ガスの綾織が牛首尾根の雪面を幻想的に美しくしている。

丸々太った雷鳥が、十羽ほど姿を見せた。

巨大なクレバスがあり、縁から10mほどの所に亀裂があった。

まるで白いビルディングが山の縁から引き離されそうな様子に見える。

17:13 冷池小屋。

小屋は殆ど埋まっている。

テントを張る位置を考えたが、森広さんが、山の縁から離れてもっと小屋側にしましょうと言う。

やはり巨大クレバスにおののいたようだ。

 

4月16日

4:00起床 快晴 6:10発 -3℃
一面雪山の美景。

剣岳、爺ヶ岳、鹿島槍、ヤッホー。

赤岩尾根の上部は朝の冷え込みで締まっている。慎重にゆっくり通過し、最近のパターンである、西沢下降を選ぶ。

暫くは、壁側に向かって下り、急なデブリの跡を延々と下る。

下部の安全地帯でゆっくり休み、大谷原10:00着。

 

鹿島槍ヶ岳 天狗尾根

2002年4月13日から2日間
倉田、三好、朱宮、宮川、柴田(記)


昨年もこのルートを目指したのだがその時は井上さんの調子が悪く第1クーロアール辺りでリタイヤだった。

で、しつこくそのリターンマッチ。

今年はメンバーも5人に増えた。

倉田さんは納車したてのエスティマで夜の中央道をカッ飛ばし(ところどころで150キロオーバー)八王子から3時間ほどで大谷原に着く。

途中疲れたら運転交代するよ、と言っていたのだが結局最後まで彼女一人で運転。

あとから聞いたら「交代されると大谷原に着くのが遅くなると思った」との事。

お嫁に来た日からコキ使われているようなエスティマにちょっぴり同情。

これからも倉田さんにブン回される事でしょう。

朝5時に起きて6時に出発。

林道をまっすぐ進んでいたら右への分岐をみっちょんに指摘される。

さっぱり覚えていなかったが発電所の取入口でようやく昨年の記憶が蘇る。

昨年は荒沢出合まで雪の上を歩けたのだが今年は発電所のすぐ先で雪が切れ渡渉となる。

先行の2人組はパンツ姿で渡っていた。

我々も覚悟を決めて宮川さんを先頭に渡渉開始。

明星山の小滝川で流されかけた実績を持つ倉田さんと小柄なみっちょんは本気顔で渡っていた。

(下山後に聞くとここが今回の山行の核心だったとのことでした。)

何とか全員無事渡渉を終えヤレヤレである。

冷たさでしびれた足をプラブーツに戻ししばらく歩くと荒沢出合だが、昨年快適に登った出合の尾根筋はすっかり雪が落ちて藪になっているのでしばらく荒沢を進み登りやすそうな斜面を選んで尾根に上がる。

最悪ヤブコギ数時間かと覚悟したが、数十分であっさりと藪は終り尾根上のトレースに出た。

尾根上は固めの雪が残っており割と楽チンに高度を稼ぐ。

対岸の東尾根が次第に開けて来て南俣尾根や荒沢尾根が良く見えるようになる。

風もなく暑いので柴田はシャツ1枚になって登っていたら途中から日が翳り雪が降ってきた。

第1クーロアール手前でアイゼンをつけるがザクザクした雪にキックステップが効く事が多かったのでロープは特に出さずアックスもシングルのままで第1・第2クーロアールとも通過。

第2クーロアールを越えると天狗の鼻の一角で荒沢の頭から北壁がかっこいい姿を現し暫し見とれる。

まだ12時で時間的には早いが大分雪も本格的になってきたので天狗のコルまで降りたところで雪面を整地して倉田・宮川組と三好・朱宮・柴田組に分かれて幕とする。

幕を張ってもやる事が無いので1本だけ持ってきたビールを回し飲みしたあとは「山岳しりとり」をして過ごした。

「け」と「る」で終わる事がやたら多かった気がする。

てな事をしているうちに天候はすっかり悪化し時折強く吹雪いている。

まあ翌日は良くなると聞いていたのでそれほど心配しなかったが就寝前のトイレもタイミングを見てゆかないと雪まみれになる程だった。

尚、夕食は宮川さん担当の「半熟卵入りレトルトカレー」

だったがなかなか美味でございました。

翌日は3時過ぎに起きて5時に出発。

左手のリッジ沿いに進むがⅢ程度の岩で一度だけロープを出した。

倉田さんがリードしみっちょん・朱宮さんはアッセンダーで登り最後に宮川さんと柴田がフォローする。

ここを過ぎると荒沢の頭まで展望が開け、気持ちの良いリッジを越えて荒沢の頭に着く。

東尾根にも数パーティいたが我々の方が先に着いたので北峰までの新雪のリッジは我々がトレースを刻む事が出来た。

みっちょんラッセルお疲れさま。

北峰着7時45分。

剣岳があちら側に浮かんでいるのが見える。

のんびりしたい所だが飛ばされそうなくらい風が強いのでほとんど休む事なく南峰を目指す。

南峰でも相変わらず風が強いので写真を撮り終えるとすぐに下降にかかり布引山を過ぎ冷小屋の手前の樹林帯脇でようやく休みレーションなどを食す。

途中鎌尾根を下るパーティがいた。

ここから先赤岩尾根分岐までは足が潜る上に、アイゼンがすぐ団子になり結構消耗。

赤岩尾根の分岐で斜面をトラバースするところもアイゼンがすぐ団子になるので往生した。

少しだけ赤岩尾根を下ったところで右手の西沢の斜面をのぞきこむと何とか降りられそうだったのでアイゼンを外して西沢へ下る事とした。

休憩中携帯が通じるかな、と在京の瀧島さんに電話したらちゃんと通じた。

西沢への下降は最初は後ろ向きで下り斜度が落ちたあたりからはシリセードで「イヤッホー!」と一気に斜面を下る。

上を見上げるとみんな喜色満面で滑り落ちてくる。

歩きとシリセードを交え1時間足らずで北俣本谷と西沢の出合まで下った。

疲れているときには拷問のように思える赤岩尾根を下らずにすんで良かった良かったである。

北俣出合から大谷原までは林道を1時間ほど。

所々荒れていたが雪解け水の流れる音は軽やかで春の息吹が感じられ何となく気持ちいい道のりだった。

帰路薬師の湯でさっぱりして中央道を東京に向かって戻る。

嫁入りしたてのエスティマを気遣い私は130キロ程しか出しませんでした。

【タイム】
4月13日 大谷原 6:00→ 第1クーロアール10:00→ 天狗の鼻12:00 → 天狗のコル 12:15

4月14日 天狗のコル 5:05 → 北峰 7:45 → 南峰 8:20 → 赤岩尾根より西沢に下る 11:00 →
北俣谷出合 12:00 → 大谷原 13:15

 

赤岳 天狗尾根から真教寺尾根

2002年1月1日から3日間
一ノ瀬、池﨑、瀧島(記)


そもそも八ヶ岳に来るはずではなかった。

大晦日に五竜岳を目指してまさに歩き出そうとしてザックを背負った瞬間に池崎のザックがバキッと嫌な音を発した。

点検してみると背負うために一番大切な背負い紐が背中の中心部分から切れている。

このザックで予定通りに計画をこなすことは不可能だし今後の天気も好天は期待薄だし、この時点で五竜岳の計画は中止した。

今回は止めとけという、天の声だったのか?こんな事で中止とは昔ならば腹の虫が収まらなかっただろうけど、年とったのか、丸くなったのか。すぐに気持ちを切り替えることができた。

松本でザックとその他の装備を揃えて、いろいろ考えた末、短期間で十分にこなせる八ヶ岳東面の天狗尾根に転進することにした。

 

1月1日

晴れ

美しの森駐車場で奥秩父の山々の上に昇った初日の出をしっかりと目に焼き付けてから出発。

地獄谷に続く林道をつめ途中から沢通しに進む。

トレースを追いかけて堰堤をいくつか過ぎて地獄谷の小屋を通過する。

さらに進むと目指す天狗尾根を登ってツルネ東稜を降りてきた3人パーティーと出会った。

彼らのものと思われるトレースは右の赤岳沢に延びていた。

今回は地獄谷の本流側から天狗尾根に取り付こうとしていたので、地獄谷本流をしばらく進んだ。

本流の川原はラッセルが深く、樹林の少ない斜面から天狗尾根の尾根上に出た。

しばらく進むと先行パーティーのトレースに出会った。

風も防げる樹林の中で快適なテントスペースを見つけ、少し早いけれどテントの中にもぐり込んだ。

樹間からキレットが見えるが現在地はキレットより少し低いようだ。

 

1月2日

風雪

テントから外を覗くと視界はほどほどだったが、出発時には遠景は全く見えなくなっていた。

しばらく樹林帯を進んだ。

はじめは先行パーティーのトレースも残っていた。

樹林帯では雪も風もほとんど気にならない。

最初の10m程の岩場は左のバンド状から簡単に巻けた。

次の30m程の岩場で初めてロープを使った。

ここには右側を巻くフィックスロープがあったが正面左側から右上する凹角を登って抜けた。

このあたりで森林限界を抜けたようだが東面なので風はそれほどでもない。

しばらくガスの中を登ると大きな岩場にぶつかった。

ルートを探ると50mくらい右下に岩場の弱点を発見した。

ビレー点にちょうど良い岳樺にはテープが張ってある。

かぶり気味の凹角に残置ハーケンも見える。

ここを強引に超えて一段上のバンドに上がりバンドを右に抜けた。

きっとこのあたりが大天狗や小天狗の岩峰のあたりだろうか。

後は風雪の中ひたすら高きを目指した。

銃走路に出てからも意外と長い。

頂上では誘惑に負けて小屋で休憩してお汁粉を食べた。

山頂小屋は年末年始には営業しているのだ。

ここは正月の赤岳山頂、でも小屋にはお客はいないみたいだ。

こんな天気には誰も登ってこないのか?

権現岳まで縦走してからツルネ東稜を下ろうと思っていたが、風の強い銃走路を避けて真教寺尾根を下ることにした。

東面の真教寺尾根に入ると風はかなり弱まってくれた。

後は尾根を外さないように慎重に下る。

1ヵ所、不安定な雪壁で懸垂した。

風は弱まったけれど風下の東面の雪の量は想像以上だ。

腰から胸まで潜りながらも傾斜があるので雪崩に気をつけながらどんどん下った。

もちろんトレースはなかった。

途中に懸垂も1回。

2500m付近で少し傾斜が緩みテントを張れる場所を発見。

テントに入ったらすぐにヘッドランプが必要だった。

 

1月3日

小雪のち晴れ

この日も下りラッセルを続ける。

傾斜がなくなってくると空荷でのラッセルで進む。

牛首山を過ぎると雪も大分減ってちょうど12時頃に美しの森駐車場に着いた。

今回は予想以上の充実感を味わうことができた。

それは正月なのにほとんど人に会わない静かな山であったこと。

二日目の風雪で先行パーティーのトレースも無くなり、冬山の厳しさを味わえたこと。

下山路の真教寺尾根は予想を超える雪の量だったこと。

この3点が充実した理由だと思う。

40才過ぎた体にはよい刺激になった。

自分にとっては新鮮味の薄い八ヶ岳で新しい発見ができたのがうれしい。

鉱泉や行者小屋で定着したり、軽荷の日帰りで駈足で登るだけが八ヶ岳ではないのだ。

慣れた山だからできる創造的な山登りを八ヶ岳では目指してみたい。