大井川水系 大根沢

南アルプスに大根沢山という山がある。「ダイコンたくさん」ではなく「おおねさわやま」と言う。この山を源流にする沢はいくつかあるが不勉強な自分は明神谷くらいしか遡行していない。そんな訳で、山名の由来となった大根沢に行くことにした。


中和(単独、記)

概要:
2022/11/03~11/06
信濃俣河内支流の西河内から大根沢にアプローチ。
大根沢支流のブナ沢から寸又川まで下降後、杓子沢を遡行して大根沢山。

11/3 快晴
赤石温泉付近に車を停めて自転車で畑薙ダムに移動。林道をしばし歩いて信濃俣河内に入渓する。渇水期なので信濃俣河内に水の重さはなく、紅葉を眺めながら歩くだけで西河内の出合に到着。

畑薙は紅葉シーズン

アプローチに使った西河内は「何もない」の一言で表現できる沢だ。小滝とミニゴルジュが散見される程度の下降向きの沢で、登って面白いと感じたなら感性が豊かな人だと思う。水源も低くH1400くらいで枯れる。稜線に上がると焚火ができないのでH1600あたりの傾斜地をそれっぽく整地して宿泊。ぞんざいな整地だったので、傾斜でズリ落ちては起きるを繰り返す嫌な夜になった。

11/4 快晴
夜明けと同時にガレた沢を登ってコルを目指す。不安定なガレを登らず、横着して右手の尾根に逃げるとあっけなくコルに出た。
コルから水の少ない沢を下降していくと40分ほどでブナ沢の源流部に出る。ここから杓子沢(地図に名前がないが大根沢山の南西に詰める沢)出合まで3時間で下降できると予想していたが、滝が多く2倍ほどの時間がかかった。
途中、木の根を支点に懸垂したらロープを引けずに登り返したり、大高巻きしてのルートミスもやらかしている。適正な判断ができる人ならもっとスピーディに下降できるとは思う。

H1600付近の12m滝
大滝はないが10mくらいまでの滝が点在

滝やゴルジュで薄暗いブナ沢から一転し、杓子沢の出合は薪も豊富な明るい河原で宿泊好適地。ここより下流の大根沢の中下流部はゴルジュはあるものの小滝と釜が続くきれいな渓が寸又川本流まで続く。この日は大根沢橋よりやや下流に泊まった。

サクラ沢出合の二俣

11/5 快晴
この日は寸又川まで下降した後、杓子沢出合まで登り返して同沢を遡行するのが目的。泊地を出て大根沢を下降していくが、渓相は相変わらず穏やかだ。にしても林業のゴミが非常に多い。大根沢には森林鉄道の支線や営林小屋があったので何となく予想していたが、ブルドーザー、ワイヤー、吊り橋、小屋、森林鉄道など林業ゴミの展覧会となっている。

コマツ製ブルドーザー

左岸の大根沢事業所跡を見送るとすぐに寸又川との出合だが、ここはゴルジュ内に全水量が1mほどの幅で圧縮されて落ち込みとなっている。高さは2mほどなのでトラバースして釜に飛び込めば下降できるが、すぐ横に森林軌道があるので歩いて寸又川に出合う。

上から見た落ち込み

大根沢出合からは左岸林道に上がって時間短縮しようとしたが、この林道は相変わらず崩落地だらけで極悪だった。釣り師によると思われるトラロープが残置されているが、落ちたら良くて大怪我の崩落地にロープの強度も固定方法も不明なゴミで突っ込めるのが信じられない。豆腐メンタルの自分はトラロープに命を預ける気にならず、適当な場所で懸垂して大根沢に降りて杓子沢の出合まで戻った。

画像だと何が何だかわからないが、崩落地にトラロープがフィックスされている

ここからは大根沢の南西に詰めあげる杓子沢の遡行だが、基本的に上に行くほど難しいしヌメる。下流は小規模なゴルジュと小滝のみだが、中流は5m前後のヌメる滝が連続し、上流部はV字谷からの崩落壁という品揃え。
中流部の終わりであるH1580で三俣状になって沢が東に屈曲するが、本流と思われる沢の水は伏流し、地図にない支流からは大量の水が流れこんでいる。地図と現実の不一致にひどく困惑させられたが、一番風格のある本流と思われる涸れ沢を遡行したら正解だったようで、すぐに水は復活した。と同時に左右の壁が立って来てルンゼ状になってくる。快適な幕場は諦めざるを得ない雰囲気だが、H1750付近に奇跡的に平坦な場所をゲットし快適な夜を過ごした。

最上流部。同じような滝が3つ続いて崩落地に出る

11/6 快晴
この沢は詰めが崩落壁なので、どこで逃げるかの判断が核心になる。なまりきった今の体とメンタルで崩落地を登る気になれないので、遡行中も脱渓ポイントのチェックばかりしていた。途中5m滝を高巻きするためロープを使って一段上がると、5m滝が3つ連続する上は崩落地となっているのが見えた。頑張って登ってもすぐに遡行終了になるのがわかったので、懸垂して一段降りて滝下の右岸から脱渓。あとは藪を漕いで大根沢山に到達。この先はほぼ登山道なので、14時前には赤石温泉にたどり着いた。

コースタイム:
11/3:赤石温泉(10:30)-信濃俣林道終点(11:02)-西河内(12:49)-西河内H1600(15:29)
11/4:西河内H1600(5:39)-コル(6:11)-杓子沢出合(14:27)-大根沢橋(15:50)-泊地(16:10)
11/5:泊地(6:40)-寸又川(8:13)-大根沢橋(10:50)-杓子沢出合(11:57)-杓子沢H1750(15:27)
11/6:杓子沢H1750(6:37)-大根沢山(9:35)-赤石温泉(13:50)

装備:
60mロープ、荷揚げ用補助ロープ、トライカム#2まで(未使用)、ハーケン数枚(未使用)、アブミ(未使用)、沢靴(ラバーソール)、軍手、シュラフ


アルパインの岩場における残置やラッペルボルトの是非を語るクライマーは多いが、登山者もペンキと赤札の設置について少しは思いを巡らせても良いのではないか。
もちろん百名山や丹沢・奥多摩あたりの登山道ならば、立派な道標があろうが等間隔で刺々しい色のペンキマークがあろうが何か言うつもりはない。そういう場所だと承知しているからだ。
また、赤札をゼロにしろなどと言う気もない。バリエーションにおいて、ルートの取付きや尾根の下降点に確信が持てないとき、無造作につけられた赤札で一安心したことも一度や二度ではないからだ。
ただ、未整備であることが魅力の深南部において、ペンキや赤札で過剰にルート整備するのは、山域の特性を無視した身勝手な行為だと思えてならない。例えるなら谷川岳や剱岳の岩場をラッペルボルトで整備するのと同レベルの暴挙なのではなかろうか。

過剰なペンキの典型、この後も赤札が連打されている

 

 

大井川水系 日影沢 (聖沢支流)

2021/10/23~10/24
中和(記)

コースタイム:
沼平ゲート(6:42) – 聖沢出合(8:01) – 日影沢出合(8:35) – 二俣(10:29) – H2100 C1 (14:17)
H2100 C1(6:00) – 上河内岳(10:15-10:25) – 聖平(11:51-12:00) – 聖沢登山口(15:58) – 沼平ゲート(16:58)

行動記録:

10/23 快晴
沼平ゲートから自転車で林道東俣線を移動し、聖沢出合より入渓。聖沢の下流部は特に何もないので、適当に歩いて30分ほどで日陰沢出合。

日影沢の下流部もまた、基本的に歩くだけの谷。途中で8mの直瀑を持った小ゴルジュがあるがちょっと登れない。右岸から簡単に巻いた。この滝を過ぎると、安定した河原が沢山あってどこでも泊まれる感じの渓相。

8m直瀑

二俣(H1510)を過ぎて適当に登っていくと、沢が北側に折れ曲がるところに20m弱の直瀑。右側のルンゼ状は比較的簡単だが、そこから落口へのトラバースがかなり悪そう。単独だし、無理して登らなくても高巻きも簡単そうなので、迷わず高巻きを選択。見立どおり右岸の沢を使うと簡単に高巻けた。

18m直瀑

滝上はゴルジュ内に滝をかけているので、まとめて巻くと安定した河原でゆるい渓谷となる。
だが、徐々に側壁が立ち始めて何かありそうな雰囲気が漂う。予想通り、沢が折れ曲がったタイミングで滝が連続するのが見える。体のフリクションを使いつつ越えていくと登れない6m滝で詰まる。これは左岸の草付から適当に高巻いた。

6m滝

滝を連続させた左岸からの支流を見送ると、本流はV字谷に落石が挟まったような大雑把な渓相になる。挟まっている岩のサイズが大きいと突破は困難だが、幸い自動車サイズの岩はほとんど無い。快適に登るが、途中6mの滝にて詰まる。シャワー覚悟で流芯に突っ込めば登れそうだが、水が冷たくて手が痺れるので左岸の小沢を使って巻いた。

シャワー滝

H1950くらいになると沢が急激に開けて、ダケカンバと枯れたヤマハハコの茂る台地状となる。前には上河内の山頂付近が見え、後ろには笊や富士が見える素晴らしい場所だ。
あまり標高を上げると雪が出るので、薪が豊富で快適なH2100付近で泊。

10/24 快晴

この日は山頂に抜けるだけの消化試合だと思っていたが、ここからが核心だった。
夏ならなんてこと無い小滝だろうが、凍っている上に雪もあって悪い。ベルグラをハンマーで叩き落としながら登るので、なかなか進まない。おまけに登れないと雪がついた草付斜面のトラバースになるため、高巻きはもっと気持ちが悪い。アイゼンをもってくれば良かった・・・。

ベルグラがついてる

水流が雪の下に消えると、沢は崩落壁に目掛けて詰めているのが見える。気温上昇とともに崩落壁から頻繁に石ころが降ってくる上に、雪があるので落石音がせず非常に怖い。直撃すると下まで落とされそうなので、H2450付近で凍った草付にピックを決めて強引に登り、右岸の尾根に逃げた。
右岸尾根の最後は、急斜面のハイマツ藪に体力を吸われたが、主稜線は一転して快適に歩ける雪面。大展望に癒やされつつ上河内岳山頂で大休止。

上河内岳山頂 (左から兎、聖、赤石、荒川)

あとは聖沢沿いの登山道をダラダラと下山。出会所跡の先で崩落があって登山道がわからなかったが、崩落地を適当にトラバースして下山。赤石温泉白樺荘での日帰り入浴の時間にはギリギリ間に合わなかった。

遡行図:
すべての滝を水線遡行しようとしなければ難しい沢ではない。泊まり場も多いので、下降や継続に使うのに好適かと。

遡行図

装備:
ハーケン数枚(未使用)、トライカム少々(未使用)、30mロープ(未使用)、沢ハンマー、沢靴(ラバーソール)、軍手、ツェルト、シュラフ、のこぎり

大井川水系 関の沢本谷

2019年10月5日~7日
中和(単独、記)

年休カードを何枚か切って日高の沢に行く予定だったが、台風のためあっけなく中止となった。航空会社へお布施(キャンセル料)もしたので、財布も元気がない。仕切り直して遠隔地に行く気力も沸かないので、日程を短縮して大井川水系に転進することにした。

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概要:
2019/10/5~2019/10/7
大井川水系/関の沢本谷 (遡行)

コースタイム:
10/5(土) 閑蔵駅(07:43) – 関の沢出合(08:50) – 宇洞河内出合(11:07) – 田代沢出合(15:12)
10/6(日) 田代沢出合(06:28) – 三俣(10:06) – 大無間山(15:42)
10/7(月) 大無間山(06:05) – 小無間小屋(09:02) – 関の沢林道(12:23) – 閑蔵駅(14:03)

行動記録:

10/4(金)
前日夜行。仕事が長引いたので家を出たのが日付変わって1時過ぎ。途中のオクシズの駅で力尽きて仮眠。

10/5(土) 晴れ
関の沢へ出合から入渓する場合、大井川本流を遡行するか鉄道のレールの上を歩く事になる。分別ある社会人としては、どちらを選択するかは言うまでもないだろう。
とまぁ色々苦労して入渓したのだが、ゴルジュもあるものの通過容易で田代沢出合まで見せ場に乏しい。田代沢出合は快適砂地だったので、時間は早かったがここに沈殿。ツェルト無しでごろ寝。

ゴルジュもあるが簡単

10/6(日) 曇り夕方から雨
田代沢から先は渓相が渋くなる。登山大系によると「滝は全て直登できて楽しい」との事だが、楽しい直登には見えないものもある。水線突破でなければ簡単。

フレーム外の左壁は簡単

三俣まで大したものは無かったが、稜線に抜ける扇子薙沢は結構悪い。出合から始まるゴルジュは2つ目の滝が登れない系。巻きは右岸だろうが支点取れない草付斜面。雪国のように根性のある草ではないので、メンタルが耐えられずギブアップ。左岸から大高巻きして懸垂一回で戻る。
しばし安定したゴーロを挟んで再度ゴルジュ。登れる滝が連続するが出口の流木ハング滝で行き詰まる。くそ冷たいシャワーに加えて足が決まらず、またギブアップ。右岸のルンゼから巻いたが、上に行くほど岩が脆く見た目ほど簡単ではなかった。

流木ハング滝

ゴルジュを抜けると沢が明るく開ける。沢の奥の方は崩落壁とたルンゼになっており、登れない滝があると面倒な雰囲気だが、問題なく水線突破できる。稜線に出て5分ほどの大無間山頂でツェルト泊。

10/7(月) 曇り
小無間小屋のあたりから南に派生する尾根を使って下山。P1712まではアップダウンが面倒だがヤブは皆無。そこから先は杣人が入っているようで、赤札だらけの整備された歩きやすい尾根だった。

遡行図:
大無間は登路に恵まれた山だ。小根沢、栗代川、関の沢、明神谷のいずれも悪くない。関の沢は、遡行の楽しさという点では小根沢や栗代川に劣るかもしれない。流程が14km以上あるにも関わらず楽しい区間は意外と短いからだ。でも山頂にダイレクトに詰める唯一の沢として、大無間への価値ある登路だと思う。

遡行図

南ア 深南部の沢

2019年8月9日~8月14日
中和(単独、記)

飯豊川に行く予定だったが、諸般の事情で中止になった。去年は自分の食中毒とケガで行けなかったので、飯豊川には縁が無いのかもしれない。1人での山行であれば、山深いエリアの沢旅が良いということで、南アルプスの寸又川に行くことにした。

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山行概要:
沢でも尾根でも、山の反対側に抜けるルートが好きだ。とはいえ、南ア南部では公共交通機関で行ける登山口など知れているので、静岡の寸又峡温泉から南信濃の遠山郷に抜けた。使った沢は以下3つ。下西河内は釣り遡行だったが、上西河内からは台風に追いつかれないよう竿は封印した。

・大井川水系/寸又川/下西河内(遡行)
・大井川水系/寸又川/逆河内/上西河内(下降)
・大井川水系/寸又川/逆河内本谷・火打沢(遡行)

台風の進路次第では途中下山もあるかと思っていたが、まぁ天気は持ったので逆河内まで遡行できた。15日からは大雨予報であったため、4つ目の梶谷川の下降は諦めて中ノ尾根山から朝日山への尾根で退散。

コースタイム:
8/9(D1)~8/14(D6)までの5泊6日。
D1:寸又峡温泉(08:38)~下西河内出合(10:47)~前黒ノ沢(13:58)~丸盆ノ沢(16:35)-宿泊地(16:45)
D2:宿泊地(06:01)~三俣(09:29)~二俣(12:32)~水源(13:35)
D3:水源(05:52)~丸盆岳(07:15-08:05)~鎌崩のコル(08:47)~二俣(11:13)~上西河内出合(15:56)
D4:上西河内出合(05:55)~岩小屋(09:15)~大沢出合(10:53)~明河内出合(16:03)
D5:明河内出合(06:06)~二俣(12:59)~火打沢大滝(16:32)
D6:火打沢大滝(05:22)~中ノ尾根山(07:58)~白倉山(10:25)~朝日山(12:31-13:00)~梶谷集落(15:02)

各ルートについて:

【下西河内】
複数のゴルジュを有しており、最初のゴルジュは釣り師による残置ロープなどがあるが、それ以降はクリーン。水量が多いのでシャワークライムはとてもしんどいが、高巻きも概して悪い。なるべく水流沿いの遡行を志向した方が良いと思う。ゴルジュの間は安定した河原になっており、泊まり場の心配はいらない。

大滝は無いが泳ぎ必須

三俣の先のゴルジュを抜けるとすぐに二俣で、ここから先は歩くだけ。1700mくらいで水が涸れて笹薮へと消える。獣道を拾えばカモシカ平まで、大した藪漕ぎもなくたどり着ける。

寸又で名高いゴルジュ沢は逆河内と栗代川だが、どちらも何も無い区間が長いため、ややもすると冗長に感じてくる。一方、下西河内は安定した面白さが続く。詰め上がった先が深南部屈指の展望地であるカモシカ平というのもいい。山深さ、水量の多さ、ゴルジュ突破など寸又川の良い部分がまとまった名渓だと思う。

下西河内_遡行図

【上西河内】
大滝以外は見るべきものはない。渓相・水量・魚影のいずれも下西河内に遠く及ばない。鎌崩のコルからの下降はガレルンゼで不安定だが、丸盆からの沢と合流してからは単なる河原歩きになる。
大滝は左岸の尾根から大きく高巻く。尾根上の壊れた祠のあたりから適当に下降すれば、大滝の下にでる。大滝の下からはゴルジュが断続するが、ゴルジュ内に問題となるものは無い。明るい広河原が出てくれば逆河内の本流は至近。

上西河内の大滝

【逆河内】
流程が17kmに達する大規模な支流だが、ほとんどの区間で側壁が緩まない。側壁が屹立した本格派のゴルジュは全体の1割にも満たないが、急なザレ状の側壁に挟まれた渓谷が延々と続く。

逆河内の典型的な渓相

名前の由来となった逆地形(穿入蛇行)は4m滝から始まる。登った記録もあるが、川幅一杯の大水量を吐き出し、左側壁で跳ね返りながら落ちている。どうみても突破不能なのでロープを出して左岸を巻いた。少し先の幅3mの淵は泳ぎでも突破できたが、最狭部の淵は泳ぎでは突破不能。側壁トラバースから水流が弱い場所への飛び込みで突破。これより先は明河内まで問題になるところは無かった。

最狭部(左壁をへつって飛び込む)

明河内より上流のゴルジュは、滝を内蔵しているので突破が難しくなる。釜淵ゴルジュは右岸からまとめて巻き、それに続くゴルジュは出口の3mハング滝だけ左岸から巻いた。その先の8m滝は左岸から巻いたが、これは超大高巻きになってしまい懸垂3回で戻る。
渓相が明るくなってくると大滝で、これを右のザレから簡単に巻いた所が二俣。火打沢に入っても滝が連続して悪いが、水流の重さは既に無い。この沢も詰めは笹薮だが、やはり獣道を使うと厳しい藪こぎも無く主稜線に到達できる。

逆河内_遡行図

【中ノ尾根山~朝日山~梶谷集落】
全体を通して踏み跡があり、手を使う藪こぎはない。無数の獣道が交錯するので、どれが道なのか不明瞭だが、たまに赤札が出てくる。2万5千図で名前が付いている場所には全て山頂標識があり、現在位置の同定は容易。朝日山から梶谷集落への登山道は荒れている。

主要装備:
ハーケン 10枚、トライカム#0.25~#2、ハンマー、60mロープ、15mフローティングロープ、アブミ(未使用)、沢靴(ラバーソール)、軍手、ツェルト、のこぎり、釣り竿、ラジオ、携帯電話

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深南部の山は、主稜線でも携帯の電波が無い場合が多い。今回も最終日までネットに繋がらず、台風情報はラジオからという古式ゆかしいスタイルだった。日高や南会津でも主稜線なら携帯の電波が入る当節、ここは主稜線であっても不感地帯が多々ある。日向林道や左岸林道が機能不全になって久しいが、おかげで寸又川や逆河内の源流部へのアクセスは格段に難しくなった。こうやって精神的・空間的に街からの距離が保たれている事が深南部の魅力の一端ではないかと思う。

大井川水系 寸又川支流・栗代川(遡行)~小根沢(下降)

2018年10月13日~15日
中和(単独、記)

栗白川は数年前から計画していたが、天気が悪かったり沢靴を忘れたり、今年だけで3回流れている因縁の沢である。寸又では最も入渓しやすい沢なので、いつでも行けるという謎の安心感があったが、運良く休みを取れたので、同じく大無間を取り巻く小根沢とセットで遡下降した。

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概要:
2018/10/13(土)~2018/10/15(月)
大井川水系 寸又川支流・栗代川(遡行)
大井川水系 寸又川支流・小根沢(下降)

コースタイム:
10/13(土) 栗代橋(6:26) – ユズリハ沢出合(8:51) – ホオジロ沢出合(10:11) – こっぱ沢出合(12:44) – 倉沢橋(14:37) – 大崩沢出合(15:01) – 岩小屋(15:11)
10/14(日) 岩小屋(6:04) – 二俣(8:07) – 稜線(9:17) – 大無間山(9:47) – 三方嶺(10:48) – 左俣出合(15:59)
10/15(月) 左俣出合(06:00) – 左岸林道(06:10) – 小根沢出合(8:51) – お立ち台(12:12) – 左岸林道起点(15:17)

行動記録:

10/13(土) 曇り、夜遅く雨
栗代橋から下を覗き込むと、栗代川も寸又川もカーキ色に濁っている。崩落地が多い南ア南部では、堆積土で濁りが長引くのは間々あり、水位も脛下程度なので予定通り入渓。茶色く濁ったゴルジュを歩くのは不気味だが、壊れた堰堤を2つ越えると穏やかな河原になり、水は澄み始めて一安心。
取水堰堤を越えた先の「八丁暗見」に入るが、淵や釜は埋まって深い場所でも膝程度。ユズリハ沢を分けた先の「曲がり渕」も同様で、かっては泳いで取り付いたという「鶴の天」ですら股程度の深さしか無く、遡行は容易。
曲がり渕を超えると、広河原となり左岸からホオジロ沢が合流。「竜言渕」と呼ばれるゴルジュに入るが、これまた浅いので通過は容易。滝を越えるのにアブミを1回使ったが、これは簡単に巻くことも出来る。
ここまで肩透かしを食らうと、核心部と言われる「龍神の瀬戸」への期待はいやが上にも高まる。黒光りする側壁は、数十メートルの高さで屹立し、風格は大渓谷のそれである。倒木が引っかかった3mの滝を右から越えると、核心部の滝である。1つ目の滝は、かつては振り子トラバースで越えたと言うが、今ではそんな面倒はいらない。釜が埋まっているので、水流に耐えて這い上がり、へつり気味に登れる。2つ目の滝も以前は泳いで水流を横断したそうだが、足が付くので、歩いて右岸に渡りバンドを登れば核心部は終了。
こっぱ沢を分けると穏やかな河原となり、歩くだけで倉沢橋に到着。橋のすぐ上は5mの滝だが、これは下部が立っており右から小さく巻く。その上の滝も越えて大崩沢を見送って、本谷(倉沢)の滝を越えると、まとまった数の流木と岩小屋を見つけたので行動終了。
が、この岩小屋、いざ入ってみると天井が低く快適さに欠ける。焚き火すると燻製になりそうなので、雨は降らないと信じ、外でごろ寝していたが無情にも深夜から雨。ツェルトに包まって黙殺していたが、全身濡れ始めて寝ている場合ではなくなり、焚き火と一緒に岩小屋に引っ越した。

10/14(日) 曇り時々小雨、夕方から晴れ
岩小屋を出てしばらく行くと20mの直瀑。これは観賞用で左岸を巻く。この先で二俣となり左に入ると、5m前後の滝が続くが問題になるものは無い。最後の二俣手前で15m程度の滝が2本連続。1本目は水流左横を直登するが一歩だけが微妙。2本目の直瀑は遠望すると高巻きかと思ったが、これも水流左横を直登。

15m直瀑

この滝を越えて最後の二俣を右側に入る。すぐに沢は3つに分かれるので、北東に向かう沢に入ると水が枯れ、ヤブのない斜面を登ればP2102と大無間のコルに出る。大好きな大無間に立ち寄りつつ、三方嶺に移動して小根沢下降点を探る。三方嶺の大崩落地が小根沢の本谷のようだが、ガスってて下降路は全く見えない。崩落地は下手に取り付くと進退窮まるので、山頂を南側に50m程下った場所から小根沢の枝沢に入る。

標高差400m近いガレとザレの集合体を下ると、一時間ほどで水が流れるガレ末端部。いくつか小滝を見送ると、本谷が右から合流してくる。ここからは10mを越える滝が連続し、水流沿いに下降できない。懸垂を2回交えつつ、右岸を小さく巻きながら下降していく。

連瀑帯

連瀑帯を抜けると、両岸立ったゴルジュに滝を重ねており、高巻きを選ぼうものなら相当上まで巻き上げられそう。ハーケン連打で懸垂かと思ったが、左岸の小ルンゼから小尾根を乗り越し、ガレを下降して巻けた。その先にも滝が2つあるが、これは左岸のバンドからガレに移行して滝下に降りる。
上流部で険しいのはここまで。後は左右から支流を加えつつ、時折ゴルジュとなるが、容易な癒し系ゴルジュ。最後のゴルジュを抜けると、だだっ広い河原となり左俣出合。ここはフルフラットな砂浜に大量の流木というリゾート地。山奥の雰囲気が心地よく、砂地に寝転び、酒と焚き火と星に囲まれてダラダラと過ごす。

10/15(月) 断続的に小雨
宿泊地から10分ほどで左岸林道に交差。林道から下山も可能だが、計画通り小根沢の出合まで下降を継続することにする。
左岸林道の下流も広い河原が続き、場違いな堰堤まであるが、徐々に両岸立ち始めてゴルジュとなる。序盤は容易なゴルジュだったが、両岸が30mくらい立った薄暗い空間になると、高巻きが絶望的な廊下に2つの滝を連ねる。最初の5m滝は容易、続く2段8m滝は圧縮された水流がS字を描いて落ちている。沢に引っかかった倒木を支点に懸垂するが、水流が強いため体を持っていかれそうになる。S字状の水流を振り子気味に横断して釜に降りる。

2段8m滝

その後も、断続的に黒光りするゴルジュと滝が出てドキリとするが、バンドが繋がっていたり、落ち込み程度だったりで、ロープ出す事は無い。頭上を森林鉄道の鉄橋が横切ると、15mの滝を落として寸又川の本流と交わる。本流は茶色く濁って水流も強そうなので滝下には降りず、林鉄の軌道跡に上がり下降終了とした。

後は下山のみだが、小根沢左岸の尾根を300mくらい登り返して左岸林道に復帰すれば、残るは林道起点まで約20kmの林道歩き。この林道は全長40kmを超える長さで悪名高いが、今では崩落の悪さに定評がある。今回の山行では、シビアな崩落地は「お立ち台」手前の一箇所だけだが、ここの横断は中々に悪い。ガレと岩壁の境界付近を横断したが、岩壁基部をトラバースする箇所が不安定で、ビビリながら通過。崩落地の上の樹林帯を大高巻きするのが安牌。

左岸林道

お立ち台から先は、以前より崩落が進んでいるものの、手を使う場所は無い。0.5kmごとにキロポストがあるので、数字に一喜一憂しながら林道起点に至る。

遡行図:
「赤石沢よりはるかに悪い」とまで言われた栗代川は、ほぼ全ての淵と釜が埋まって、その魅力は著しく衰微している。現状では倉沢橋より下流のみでの遡行価値は無く、本谷(倉沢)や大崩沢を詰めるか、他の沢へ継続しないと物足りない。

遡行図_栗代川

小根沢は予想以上に面白い渓谷で、源頭のガレに始まり、大滝、ゴルジュと目まぐるしく渓相が変化する。かといって極端に難しくもない。中流の河原が冗長な感もあるが、段丘が発達して泊まり場として非常に優秀。遡行記録が少ない渓谷だけに、どんな滝やゴルジュが出てくるかワクワクしながら下降できた。

遡行図_小根沢