谷川岳一ノ倉沢 衝立岩雲稜第一ルート

2019年9月29日
柳川、川上(記)

ベースプラザ2:50発-一ノ倉沢出合3:30着-中央稜基部5:20着-アンザイレンテラス6:15着-ボサテラス11:30着-衝立の頭13:45着-中央稜基部15:30着-ベースプラザ17:45着

28日夜、雨。谷川岳に向かう国道291号を車でひた走る。ワイパーの音が一定のリズムを刻む。

谷川岳周辺の景色がいつにも増して陰鬱に感じられるのは、自分の気持ちを反映しているからだろうか。だが、適度な恐怖心はクライミングにもっとも必要な要素の一つであり、精神面のセルフコントロールはとてもよくできていると感じる。

衝立岩雲稜第一ルート。以前はよく登られていたそうだが、最近はピンがだいぶ古くなっていてロシアンルーレット状態だ、とか、そんな噂は、かねがね聞いていた。たしかにネットを見る限り、近年の記録はかなり少ないようだ。
だが、登攀史に残るクラシックである本ルートは是非登ってみたいと思っていたし、ピンがそんな状態なら、なおさら早く登った方がいい。柳川さんも同じ思いであったようで、心強いパートナーを得て、うれしかった。
今年6月頃から狙っていたものの、計画を立てると降水予報となり、転進が続く。本来であれば、日が長く、かつ、テールリッジまで雪渓がつながっていてアプローチ容易な5~6月初旬に取り付くのが最良のタクティクスなのだろうが…。日が短いと、何かトラブルがあってビバークになるのもイヤなので、今回の計画が今季最後のチャンスかなー、と話し合っていた。

この日の谷川岳は、前日夜までがっつり雨。今回もダメかと落胆するが、午前2時に起床し、とりあえず取り付きまで向かうこととした。雨は止んでいる。

テールリッジを登り、中央稜の基部に立つ。意外と岩は乾いていた。夜明けの時刻にくっきりと姿を現した衝立岩は、近くで見ると流石の迫力がある。柳川さんが「ホントに登れますかね」とぽつり。私は、自分が思っていたことを言われたようで、ドキッとした。詰まる所、ただただ、ピン抜けが怖いのだ。その気持ちはよくわかった。

中央稜基部から見る衝立岩

衝立スラブをフィックスに導かれてトラバースし、草付帯を少し上るとアンザイレンテラスだ。「順番どうします?」と聞くと、「どっちでも」との返事だったので、ありがたく私が奇数ピッチをやらせていただくこととした。

アンザイレンテラスにて

1p目(Ⅴ-)川上リード
左上気味に登り、最後は右に出る。ピンは新しいリングボルト主体でしっかりしており、問題なし。終了点はハンガータイプ。聞いた話では、映画(クライマーズ・ハイ?)の撮影で2ピッチ目くらいまではボルトが打ち替えられたらしく、その辺りまでは、確かにピンはしっかりしていた。

1ピッチ目をフォローする柳川さん

2p目(Ⅳ、A2)柳川リード
ビレイ点から左に出て直上。フリーで10数メートル登ってから右にトラバースし、人工で第一ハングを乗り越す。ハング部はやはりパワーを使い、疲れる。柳川さんは慎重にアプローチし、豪快にハングを越える。

第一ハングを越える

3p目(Ⅳ、A2)川上リード
人工やフリーを交えて、右上気味に登る。古いハーケンが主体なので、ピン抜けを警戒して積極的にカムも使用した。とはいえ、きめれるところは限られる。
第二ハングを横目に、側壁を乗り越すところが少し悪い。残置にアブミをかけるが、次のハーケンはかなり上。少し上にフィンガーサイズのクラックがあったので、カムをきめてみたら、電子レンジ大の岩がグラグラ動く。ダメだ。ほかに、ボールナッツがあれば効きそうなリスもあったが、肝心のボールナッツは、「多分使わないから大丈夫っす」とか適当なことを言ってフォローの柳川さんに預けたままで、激しく後悔した。仕方ないので、右足でアブミの最上段に乗り込んで背伸び。両手は岩を持って、左足は壁にスメア。微妙なバランスで次のアブミを掛ける。エイドに慣れてる人には普通のムーブなのかもしれないが、人工2回目の私には、きつかった。今さらながら、単なるアブミの掛け替えルートではないことを痛感する。
すぐ上のリングボルト乱打の場所でビレイ。
キャメは、0.1、0.3、0.5番を使用した。

第二ハングを越えたあたりにて

4p目(Ⅳ、A1)柳川リード
左上気味に岩を登る。柳川さんはどうか分からないが、私は「よっしゃー、Ⅳ級A1だー」となめてたら、フォローでも疲れた。支点がだんだん貧弱になってきて、精神的にもきついところだと思う。フリーのパートも岩に草が生えていてホールドが見えづらいところがあり、いやらしい。

4ピッチ目を見上げる

5p目(Ⅳ、A1)川上リード
このピッチはカムが比較的よくきまり、安心。上部で、傾斜の落ちたルンゼ状にフリーで乗り込む。マイクロカムを固め取って数手出す。乗り込んだらハーケンがあった。ほどなくして、ボサテラスに抜ける。
キャメ0.1、0.2、0.3、0.5、0.75、2番あたりを使用。

ボサテラスにて

6p目(Ⅴ)柳川リード
ビレイ点から上を見る限り、草や木が生えていて、簡単そう。でも、「このピッチ、ちゃんとⅤ級で、嘘ついてないですよね」と柳川さんが念押ししてスタート。つまり、グレードに現れないいやらしさがあるという「谷川あるある」を警戒していたわけだが、やはりここもそうだった。草付きでフットホールドが見えないし、滑るし、地を這うようなクライミング、ってやつ。でも、柳川さん、サクサク。Ⅴ級はⅤ級なんですね。

7p目(A2)川上リード
洞窟ハングの乗り越し。
リングボルト×2、青ボールナッツ、キャメ0.1、ハーケン×4を人工でつなぎ、ハング越え。洞窟ハング周辺は、いつも湿っているからか、残置の腐食が特に激しい。とあるハーケンはもげかかっていて、使う気にならなかった。昨年登ったGクラブのKさんの時は使えたそうなので、この1年で腐食が進行した模様。

洞窟ハングの取り付きにて

8p目(Ⅲ)柳川リード
10メートル位の凹角を登り、あとは草付きを適当に。リングボルト2つで終了点。

9p目(Ⅲ)川上リード
草付き、ときどき岩。適当に登って衝立の頭へ。

衝立の頭にて

柳川さんとがっちり握手を交わす。とにかくノートラブルで抜けることができて、本当に良かった。クライミングを始める前から知っていた、名高い衝立岩を登ることが出来て、感無量だ。
ルート自体は巧みに弱点を縫っていて、素晴らしい。登ってみて、初登者のセンスと時代を超えた記録に、改めて尊敬の念を抱いた。そして、これがフリー化されているとは驚きだ。帰りのテールリッジから衝立岩を振り返り、伝説のクライマーたちに思いを馳せた。

まとめ

支点はおおむね赤黒く変色しているが、ピン抜けしそうだと感じる程のひどさはまだなかった。しかし、たとえどこかの支点が朽ちたとしても、最初からネイリング覚悟で行くならば登れそうだ。いずれにしても、ナチュラルプロテクションは必携だと思う。細かいリスが多いので、最小サイズのボールナッツや極小カムがとても有効だ。フィンガーサイズ以上のカムが極められる場所はかなり限られる印象。
KさんやS田さんの記録は大変参考にさせていただいた。感謝です。

追記
9月28日
瑞牆山十一面岩末端壁
帰ってきた田吾作

実は、この週末は谷川岳は雨でダメだと思っていて、前日の28日土曜は瑞牆マルチに転進していた。昼頃に柳川さんが予報を見て、「あれっ、日曜は谷川いけそうですよ」の一言で再転進が決まったというわけで。せっかくなので、土曜の分も簡単な記録を記したい。

植樹祭駐車場6:20発-十一面岩末端壁7:00着-帰ってきた田吾作登攀7:30~11:30-トラベルチャンス&ガールズで遊ぶ-末端壁取り付き15:30着-植樹祭駐車場16:00

当初は瑞牆も午後からひと降り来るかも、という予報だったので、短めのマルチに取りつくこととした。

帰ってきた田吾作(4p、5.11c)

1p目(10c)柳川リード、OSならず
取り付きは末端壁の調和の幻想の右5メートルくらい。パッとしないコーナーを登る。見た目は簡単そうだが、意外とムズい。レイバックになるので、パワーを使う。柳川さんはテンション交じりで抜ける。

2p目(11c)川上リード、OSならず
下部は、フィンガー~甘いハンドのコーナー。甘いハンドとブリッジングで耐えるところが悪く、プロテクションは核心越えねばとれなくて、テンション。ここが11cだと思う。15メートルほどで一旦テラスに出る。
上部はスラブ。トポには「ランナウトしつつ登る」なんて簡単に書いてあるけど、、、何とも苦労した。出だしにキャメ0.1と0.3を固め取りして、突っ込むのだが、なかなか踏ん切りがつかず、少し行っては戻りを繰り返す。
えいやとムーブを起こすと、もう戻れない。カムを足下4メートルにしたところで小さなポケットがあったので、ナッツをねじ込む。が、明らかに効いてなくて、足ガクブル。結局、ちゃんとしたプロテクションから7~9メートルのランナウトで抜ける。落ちたら相当ヤバイだろう。かなり時間をかけてしまった。
このスラブ、必死すぎたので、客観的なグレード感がわからないが、せいぜい10bくらいか?この程度でボルトは打たない、という精神性が感じられ、印象深かった。私はもっと精神の鍛錬が必要だ。

2ピッチ目を見上げる

3p目(10a)柳川リードOS
短いオフウィズスを登る。サクサク、問題なし。とてもしっかりした広いテラスに出る。

4p目(トラベルチャンス11b、PD)川上リード、2回でRP
このピッチは、トラベルチャンスを登る。小さいナッツとキャメ0.1をかためてムーブを起こすところがあり、少し緊張。ここがPDの由来か。2回やってレッドポイントした。内容はとてもよく、面白い。柳川さんもトップロープで、楽しんでいた。

トラベルチャンス

ついでに、すぐ隣のガールズ(5.9)も登ってから、同ルート下降。
2回目の懸垂で、木に直掛けしたら、ロープが引けなくなり、プルージックで登り返したため、時間をくった。反省。

谷川岳 一ノ倉沢 衝立岩雲稜第一ルート

2007年3月3日~4日
向畑(記)、長門

3月3日

1時頃センターに到着。

3時に起きようかと思ったが、この1週間で3回目の山行の長門君が全く起きる気配を示さないので4時まで寝る。

5時出発。

雪は、今まで一ノ倉に通ってきた中で最も少ない。

ただ、テールリッジや衝立スラブの雪は結構安定していた。

中央稜基部にザックを1つデポし、雪壁をトラバースして目印のブッシュを目指す。

8時30分頃より、向畑リード、以下つるべで登り始める。

天候は晴れたり曇ったり。

ちなみに、向畑はこのルート、無雪期は3回登っているが、積雪期は3回敗退している。

1ピッチ目、アンザイレンテラスまでの雪壁。

通常、この雪壁は結構悪いが、今回は一部草付きが出ていて、アックスが効くため簡単だった。

尚、過去3回はいずれも雪の多い年に取り付いたため、アンザイレンテラスにも雪がヘッタリと付いていて、テラスに乗り移ることもできなかったが、今回はビレーポイントも完全に出ていた。

2ピッチ目(夏の1ピッチ目)、雪がほとんど付いていないため、ここより洞穴ハング上まで、フラットソールに履き替えて登る。

2人用テラス手前の凹角は、アイゼン、手袋では非常に悪いが、フラットソールの長門君は簡単にフリーで超えて行った。

3ピッチ目、第一ハング。

当初、セカンドもフォローで登るつもりだったが、ザックにアイゼン2組やピッケル2本など装着したところ、重くて登れなくなり途中からユマーリングに変更。

4ピッチ目、第2ハング。

第2ハングと第3ハングの間が特にもろく、ピンの腐食も激しいように感じた。

5ピッチ目、左上後、フェースを直上。

6ピッチ目、第3ハングを超え、ボサテラスへ。

時間は16時頃で結構いい時間だったが、あまり快適でなさそうだったので、洞穴ハング上のテラスまでがんばることにした。

この辺りより傾斜が落ち、壁に雪が付き始める。

7ピッチ目、下部は草付きダブルアックス(足元はフラットソール)。

中間部の立ち木まではランナーが取れるが、上半分フリーの部分はほとんどピンがない。

やっとピンを見つけたのでバイルでたたいてみたら、頭がポッキリ折れてしまった。

少し、強くたたき過ぎてしまったようだ。

正規ラインの凹角沿いは全くピンが見当たらないため、気休め程度のブッシュをたよりに左のカンテを登り、洞穴ハングの下部に合流。

8ピッチ目、洞穴ハングをヘッデン登攀。

久々のハングのユマーリングで向畑がはまってしまう。

終了は19時頃かな。

テラスの雪を削り、2人で腰掛けビバークとなったが、いつもと違いほとんど寒くなかった。

3月4日

5時頃起床。

今日も晴れたり曇ったり。

7時00分ころより登り始める。

9ピッチ目、ルンゼ状の草付き。

ここよりアイゼンを付ける。

10ピッチ目、スラブと草付き混じりの雪壁。

途中から左上し、中央稜の終了点に直接出る。

9時頃終了かな。

そのまま中央稜を下降、取り付きに11時頃着。

センターには14時頃着。

壁には中央稜に2パーティーいただけだったが、ルンゼはこの2日間、大盛況だったようだ。

尚、このルート、最近ではボロ壁ルートのように言われているが、個人的にはそれほどひどいとは思わない。

確かに、岩はもろく、支点の老朽化も進んでいるものの、もともと、弱点をつき、ピトン主体で開かれたルートなので、カムとピトンがあれば十分に対応できると思う。

また、出かける前からある程度は予想はできていて、それでも取り付いてしまったのだが、今回のような条件では、冬季登攀とは呼べないかも知れない。

 

 

谷川岳 一ノ倉沢 衝立岩正面壁雲稜第一

1999年10月24日(日)
向畑・倉田(記)

朝寝坊の向畑さんを何とか起こし、一番に取り付こうとしたが、ヒョングリの懸垂手前で足の遅い私のせいで、先行パーティーに抜かれ、(ヒョングリでは、暗くてクライムダウンに自信がない私が懸垂してと頼んだこともありどんどん遅くなり)、先に雲一に取り付かれてしまう。

しばらく中央稜の取り付き付近で待って、先行トップが2ピッチ目ビレーポイントにたどり着いたところで、アンゼイレンテラスに向かう。

雲一の取付き7:00。

奇数ピッチを倉田が担当。

1ピッチ目倉田リード、岩が堅くしかも良く乾いていて気持ち良く登れる。

ビレーポイントで、先行パーティーに追いつき、先行のトップがハングを越えるまで待つ。

先行のビレーヤーが以前登った(9/26)ダイレクトカンテでの先行パーティの一人で、思わず3人で話が弾んでしまう。

次の2ピッチ目は向畑さんリード。

最初フリーで、途中から人工。

3ピッチ目倉田リード。

フリーの混じる人工。

岩が脆いと言われる衝立だが良く登られているルートのせいか意外とそれほどでもなくなっているみたい。

でもビレー中、先行の方が足を置いた私の目の前の岩が(浮き石に見えなかったが)あっという間に落ちた。

直径50センチぐらい。

びっくり。

登ってくる向畑さんは大丈夫だったが、私の左足甲にバウンドして墜落。

ここから先、巻きこむたび痛む。

次、4ピッチ目向畑さんリード。

最後の出口のフリーが難しく感じる。

5ピッチ目倉田リード。

高度感がどんどん増してくるが、天気が良く風も微風で登っていると気持ちいい。

振り返ってみると紅葉がなんとも言えずきれい。

ボサテラスは広くて草が生い茂り大変居心地がいい。

6ピッチ目向畑さんリード。

凹角は草が生い茂っていて洞穴ハング下まで、草漕ぎ。

7ピッチ目倉田リード。

洞穴ハング越える所にぐらぐらのアングルピトンがあるが、それにアブミを掛けずにいくほうがスムーズに越えられた。

雲一の最後のトリ。

最終ピッチはコンテで、出だしのチムニーのところだけ慎重に登って、あとは草付となり、すたすた行ける。

終了点には、14:40につく。

北稜を下降するパーティがかなりいたので、中央稜を下降。

雲一の先行パーティも中央稜下降。

出合には19:00着。

運の強い私はいつも衝立では天気に恵まれ、今回も本当に気持ちのいい登攀が出来ました。

なんといってもクライミング日和なのに衝立にはたった2パーティだけで、人が全くいなかったのが良かった。

(中央稜はいっぱいだった。)

ちなみに私の反省としては、歩くのが遅かったり、暗い中でのクライムダウンに自信が持てなかったりして、どんどん行ってしまう向畑さんにいつも遅れをとってしまう点。

もっと体力つけなきゃと思いました。