1999年1月17日
講師:本郷
参加者:山本、児谷野、関、平松、岸、倉田、櫻井
埋没体験
50cm程度の穴を堀りそこに体験者が横たわり、雪を上から掛ける。
外の人はゾンデの感触など確かめてから数分後掘り出す。
<体験してみて>
埋まってみると、まず胸が締めつめられて横隔膜がほとんど広がらず、息が吸い込めなくなる。
その後、吸える空気の酸素も少なくなるように感じられ、どんどん苦しくなる。
体を動かすことはほとんど不可能。
実際に埋まっていた時間は2分程度だろうが、暗く苦しくとても恐ろしい。
呼吸をゆっくり無駄なく酸素を使うべき、などと聞いていてもそんなことを意識する余裕はまったくなかった。
外からの呼びかけの声はなんとか聞こえる。
外からは中の声がほとんど聞こえない。
耳を雪面にぎりぎり近づけても中で怒鳴っている声をやっと聞き取れる程度。
岸君や倉田さんが埋められていたときは上で笑いながら見ていたけれど、実際埋められてしまうと本当に冗談ではない気分で、かなり恐ろしい経験だった。
最後に埋められた関君はきっと私以上に怖い思いをしたはずで、その気分は本人から直接聞いてみてください。
ビーコン使用体験
ビーコンを入れた袋を雪に埋め(深さ50cm程度)50m程度はなれたところで反対を向いて待っていた体験者がこれをビーコンの反応だけで探し出すというもの。
<体験してみて>
水色のオルトボックスのF1フォーカスを使ってもうひとつの雪に埋められたビーコンを探したが、初めてにしては2分半という時間で探し出せた。
使い方はざっと良く反応する方角へ小走りに移動しながらレンジを小さく(感度を落として)しそれでも良く反応する方向をめざして移動すればいい。
最後に2mレンジ(もっとも感度が落ちた状態)でもっとも反応する雪面を探したらそこを掘る。
私の場合、間違いも無くこれだけですぐ埋められたビーコンを掘り当てることができた。
これは簡単!
バーアンテナから出る電波とその受信パターンなど聞いていたが、やってみると、とにかく電波の強い方角へどんどん進めばなんとかなってしまった。
ビーコンの種類と感想
今回はオルトボックスF1フォーカスとアルペンビーコン1500のふたつを使ってみることができた。
2つの間での比較ではあるが、とにかくすぐに見つけ出したい場合、オルトボックスが良い。
矢印の形をしたメータになったLEDと近づくと大きくなる音のふたつで大変わかりやすい。
アルペンビーコンのほうは、1500時間発信を続けるその電池寿命に特徴がある。
この製品開発のきっかけが、埋まってしまった仲間を残雪期に探し出す体験からということで、むしろ遺体の捜索に重点がおかれているようだ。
オルトボックスでアルペンビーコンを探す、あるいはアルペンビーコンでオルトボックスを探すことの問題はないようだ。
本郷先生の話では国際規格として電波の方式が統一されているとのこと。
大きさはどちらもほぼ同じ。
手のひらから、はみだすことはないがすっぽりおさまるほどでもない。
厚みもちょっと気になる。
体につけてみてももうひとまわり薄く小さくなったらなあ、という感じ。
重さはそれほど感じない。
断面観察
スコップで丁寧に断面を作り積雪の層を観察する。
<体験してみて>
八ヶ岳の西面の中腹で積雪の層がこれほどにはっきりといくつにも分かれているとは思っていなかった。
これはとくに指先でツンツンしてみるとわかりやすくて、一番上の新雪からだんだん硬いしまり雪になって20cm程度でとつぜん霜ざらめの層が5cmほど出てくる。
その下はざらめになっていた。
この講習の場所自体デブリの斜面であったのだけれど、まさにこの霜ザラメの弱層がこのデブリを作った雪崩の原因なのだということが現実のものとして理解できた。
ここは過去何度か実際に事故が起きているということも教えられた。
ハンドテスト
自分でハンドテストをして弱層の存在を確かめてみる。
<体験してみて>
手の届く範囲に直径40cm程度の輪を描きながら溝を掘っていき50cm程度の深さにする。
そして真中に輪になって残った雪の筒をやさしく抱え込むように手前に引いてみる。
これでずれた層があったらその層の深さ、ずらすのにかかった力を知ることでこの雪面の弱さ、雪崩れやすさが推定できるというものだ。
実際断面観察でもわかった弱層で雪がずれた。
力は中の下程度。
ビーコンとスコップ
生還へのタイムリミットは15分。
この間に仲間が探し出し、掘り出してくれないことには助からないわけで、ビーコンによって居場所の見当がついても、掘り出すのに時間がかかってはどうにもならない。
50cmから1mの深さの穴を掘るのに素手でやっていたらどのくらいかかるだろうか。
というわけでスコップの登場。
ゾンデ棒
ゾンデはフランス語で調査、探索の意味があって、つまり探索棒ということ。
雪の中をツンツンして雪ではない硬さの人体を探すためにある。
ビーコンで1~2m四方に埋まっていると限定したときゾンデ棒があれば、推定ではなく確信をもって掘り始めることができる。
<体験してみて>
たしかに雪の中の人体をツンツンしてみると硬いくせに妙な弾力があり、雪との違いははっきりわかる。
ただ体験は、あまり硬くない雪の50cm程度の深さの人体を探っただけなので、硬いデブリがあったり木や岩がまざっている場合はどうかなどは不明。
全体を通して
埋没体験のインパクトはすごかった。
こんなしんどいのに実際の行動中に出合ったらもうおしまいだろうな、と思った。
雪崩での生還率は掘り出しが15分以内かどうかでおおきな違いが出るというが、2分程度アソビで埋まってみても半死の状態になってしまったのだから、とにかくえらいことだ。
ビーコンが雪崩で埋まった仲間を見つけるのに有効だということははっきりとわかった。
広いデブリの一角に埋まっているはずの仲間をビーコン無しで探そうといっても、生還のリミットの15分などで見つかるはずもなく、これは助けるのではなく助からなかったのを掘り出すだけになるだろう。
それでこれからどうしようか。
もし私が雪崩にあって埋められ身動きもとれず、呼吸も苦しいとする。
ビーコンとスコップ(ゾンデも?)を皆がもっているパーティーだったら、かなりの確信を持って生きている間に掘り当ててくれることを待てるだろう。
しかし、ビーコンがなかったら、絶望でいっぱいになり、暗く苦しい中で…。
ビーコン、スコップ、ゾンデ棒は雪崩のセルフレスキュー3点セットだ。
これらがあるかないかは、雪崩で埋められたときに生還できるかどうかとかなりの確率でイコールといえる。
問題は荷物になることと、値段だ。
3点セットの携行は、めったに起きないが起きたらたいへんだから、用心のために持っていこう、というものだからこれは、一種の保険だ。
保険は必需品ではない。
必需品がそれなりに準備できた上で、どうしようかと考える性質のものである。
食料やガスを不充分なところまでしぼって軽量化し、きびしいクライミングをしようとしている人に3点セットを持っていけよ、というのはどこかバランスがおかしい。
2月の一ノ倉の二の沢に入る人に3点セット持って行ったら、というのは悪くないように思える。
この保険を妥当だと思うかどうかの境界線は、人によって違うだろう。
「わらじ」のように冬山だったら携行が当たり前になっている会もある。
今のところ言えるのは、この保険の意義を正しく知らないままでは始まらないということだ。
実際に本を読み講習を受けることを薦めていきたい。
その上で各人の判断があるべきだと思う。
もうひとつビーコンの値段の高さにも問題があるので、これは会装備として購入に貸し出していく体制を作りたい。
まず読んでおきたい本
最新雪崩学入門 山と渓谷社 1854円 ISBN4-635-42009-4