2016年12月18日
薄田、山口、川上(記)
私は初めての冬山バリエーション。薄田さんから12月の集会時に石尊稜にしようという提案があった。山口さんも加わり、夜行をかけて、いざ出発。午前6時頃に美濃戸を歩き始めた。天気も良く雪のコンディションも良さそうだ。
赤岳鉱泉には午前8時頃に到着し、アイゼン、ハーネスを装着。中山乗越方面へのトレースを辿り、小さな橋を渡る手前で、左に入る。しばらくすると、左側の尾根上に4人組の先行パーティーが見えた。50~60度(適当)の雪壁になっていて、ロープを出して登っている。我々も「ここから尾根上に出るか」という話になった。ロープは出さなかったが、薄田さんと山口さんは簡単そうに登っていた。ところが私は初めてのアイゼン、アックスワークにてこずり、「はーはー」言いながら登りきった。上で待っていた薄田さんは「どうだ、厳しいだろ」とニヤニヤ。全く否定できません。早くうまくなりたい。尾根の上は深い雪で、先行パーティーと交代で、ところどころ腰まで潜るラッセルを強いられた。
その後、高さ10メートル程度の岩稜があり、ここで初めてロープを出す。薄田さんがリード。先行パーティーが遅く、別のラインを登る。岩を巻いて右側から登っているようだ。すると、薄田さんの姿が消えた。そして、ビレイしている山口さんのデバイスにグッとテンションがかかる。後で聞くと、ホールドにした木の枝が折れたらしい。でも、ロープが別の木に引っ掛かってそんなに滑落しなかったそうだ。
私はセカンドで登ったが、正直「よくこんなのがリードできるな」と思った。フカフカの新雪が岩に積もってアックスが効かないし、ブッシュもあまり信用できない。雪を払って岩や木にアックスを引っ掛けて足をハイステップにしたりして、ひやひやしながら登った。後ろから登ってきた山口さんはとても速くて、どんどん近づいてきた。私はフリーのムーブが癖になってしまっているようで、山口さんに「なんかエキストリームなムーブでしたね」と言われてしまった。よくないムーブだ。
そして、本格的な岩壁の取り付きと思われる場所に出る。このピッチは山口さんがリード。フカフカの新雪で、アックスが効きづらい急斜面を10メートルほど行ったところでハーケンを打った。
次に薄田さんがリード。右側から垂直に近いミックス壁を何メートルくらいか、無我夢中だったので記憶があいまいだが、結構登った。難しかった(コールが全く聞こえなかったことを考えると30メートル以上はあったかもしれない)。
雪稜に出て、これから後は、技術的に難しいところはなかったが、一応スタカットでフォローは2人同時に行動、先行パーティーはコンテのようだ。
午後2時頃か、だいぶ押している。そのため、次の岩峰は左から巻いて雪壁を登り、次の岩場も巻いてルンゼ状を登った。主稜線へもうすぐ抜けそうだという段階で、上部に難しそうな岩壁が見えた。この時点で午後3時半ごろだったと思う。薄田さんは、先行パーティーと「ここ石尊稜じゃないですよね」という話をしていた。岩場が難しすぎるし、何度も登った薄田さんを始め、先行パーティーのリーダーも記憶にないらしい。しかし、とにかく日没までには一般ルートに抜けるため、右へ巻こうという話になった。ルンゼをトラバースし、ガリーを直上、簡単な岩場を超えると、ようやく八ヶ岳の主稜線に出た。「一般ルートに入った」と思うと、いささか安心した。午後5時を回ったくらいか、空に星が瞬き始め、遠く下界の町並みには、明かりが灯っていた。
そこから結構な残業で、しかも地蔵尾根を下っている時に、私がヘッ電を落としてしまい、祈りも虚しく谷底へ消えていった(季節が巡り、雪が融けた沢筋でペツルのティッカを見かけた方がいらっしゃったら、供養してやって下さい)。薄田さんと山口さんに足元を照らしてもらいながら、尾根を下った(本当にすいませんでした)。行者小屋に着いたのは午後7時頃。安全圏に入ったことを喜び、薄田さん、山口さんと握手を交わし、アイゼンなどをはずした。
しかし、何でもないはずのここからが、色んな意味でこの日の核心だった。疲れが出てきている上に、南沢は地面が凍結していて、何度も転ぶし、美濃戸を過ぎてからも林道がツルツルで、止まらない滑り台になっていた。異様に長く感じた。美濃戸口近くの車に着いたのは午後9時半。「やっと着いた」という感慨で、再び握手を交わした。とにかく疲れた。行動時間は15時間弱、初めてのバリエーションは鮮烈な洗礼を受けた。しかしながら、最高に楽しかった。また、行きたい。
新雪のラッセルを強いられたことや、他パーティーの待ちで時間を取られ、遅くなったということもあるかもしれないが、私自身、もっとテキパキと登れたのではないか、それから、ビレイでロープを引くのが遅かったりした場面もあり、もっと時間を短縮できたのではないかと反省している。今後の糧としたい。
ところで後日、一体我々はどのルートを登ったのか、と気になり、調べてみた。薄田さん曰く無名峰南稜ではないかとのこと。日本登山大系を読むと、確かにルートの特徴が一致していた。そして「上部岩壁、下部岩壁とも石尊稜より難しく、中級者でも腕に自信のあるパーティーにすすめたい」という記述もあった。こんなルートを初バリで行けて、私は本当に幸せ者だ、とほくそ笑んだ。ただ、上部岩壁は巻いてしまって登っていないかもしれない。今はリードできる気はしないけど、すぐにできるようになって戻ってきてやる、と強く決意した。