1996年8月23日~25日
櫻井(記)、板橋
雨に濡れながら長い林道をトボトボと行く。
(本当は沢を登っている筈なのに)
小広い尾根に広がる湿原は雨に煙って先が見えない。
モウセンゴケの小さな触手、それぞれに水滴が留まってにぶく光る。
(本当は青空を映す水面に乾いた風が吹くはずだった)
ひとまたぎできるようになってしまった釜川の源頭を渡るとひょっこりと小屋の前。
赤い三角屋根の「小松原小屋」
(これでとりあえずもう雨に濡れることはない)
天気を呪いながら早い夕飯をすませ寝につく。
ネズミに起こされた夜半、外に出るとようやくとぎれた雲の間から上弦の月が強い光で木の葉や草についたままの万の滴を「小さな水晶玉」に変えていった。
風の音すらしない。
この時代に奇跡のような場所、
小松原。