2002年8月17日
浅野、柴田(記)
困った時のバットレスと言う訳ではないが谷川が雨で登れそうも無い時にはよくバットレスに転進を考える。
無雪期に日帰りのアルパインが楽しめる壁としては谷川と共に貴重な存在であるがバットレスは余りルート数が多くないのでバットレスカードは大切に使わなくては、と思っている。
計画3度目の二ノ沢右壁も結局天候不順で取り止めとなった。
「ここ3日間午後は必ずしとしと降っているよ」
との指導センターの情報でやむを得ない。
現代のサラリーマンクライマーはこういうところであっさりしていると言うか物分かりが良いので事故も少なくなっているのだろう。
大切な家族もいる身としては全くその方向に異論はない。
山は少しずつ遠ざかるが無理する事はなく、55才まではアルパインクライマーでいられると思っている。
という事で夕方にバットレスに転進を決めたのは良いが既に谷川の予定で自宅を出てしまった自分はトポしか持ってきてないのでエアリアか地形図を持ってくるようにこれから一度帰宅してから来ると言う浅野さんにお願いした。
お互い仕事が遅くて結局午前1時30分に八王子集合となる。
交替で運転し、夜明け前の4時に広河原に着いたのは良いが二人とも睡眠不足でフラフラな上、雨もジャンジャカ降っている。
やむを得ず1時間だけ眠ろうと言う事にして爆睡に落ちる。
7時頃一度ウトウトしたがまだ雨が降っているようだったので眠り続け結局8時少し前にようやく起きる。
雨は止んでいるが言い逃れの仕様が無いお寝坊である。
「やっちゃった」と諦めのよい私は早くもインドアへの転進が頭をよぎるが浅野さんは大して動じる事もなく「じゃ、行きますか」という反応。
今からだと壁に取り付くのが昼近くなるがまあ仕方ない、下部フランケ~上部フランケ~Dガリー奥壁の計画だったが上部フランケをスキップすれば何とか日のあるうちに頂上に抜けられるだろう、と概要を判断して(結局その通りになった)8時30分頃に出発。
バットレスのアプローチは行きは大して長いと思わないが帰りがいつも長く疲れる。
やはり日本第二の高峰、ナメてはいけない。
チンタラ歩き二俣に着くと自動発電トイレはいつもながらのポンポン蒸気船のような軽快な音を立てていた。
ひょっとして昨年来ずっとポンポンいっているのかな、と思ってしまう。
下部岩壁帯に11時過ぎに着き、身繕いの後登攀開始。
時間が無いのでいちばん簡単な5尾根支稜を選ぶ。
<5尾根支稜>
1P目(柴田) Ⅲ級の傾斜の寝た容易なリッジ。
2P目(浅野) 小フェースを越えてハイマツ混じりのリッジを進む。
3P目(柴田)ちょっと歩きその真中のルートからのフェースっぽいところを登ると下部フランケが目の前に展開する。
<下部フランケ>
1P目(浅野)大きな畳のようなツルンとしたフェースに走るクラックを使い登る。
畳に立ち込む所とバンドに上がる所が難しい。
浅野さんはバンドに上がるところであっさりとA0を使って越え、ビレイ中の柴田は「これぞアルパインクライマーの鏡」と感心する。
フォローした柴田が涼しい顔をしてA0で抜けたのは言うまでもない。
2P目(柴田)頭上のクラックからフェース。
フレンズ残置有り。
3P目(浅野)ピンがベタ打ちのチムニーからフェース。
4P目(柴田)同じようにチムニーからクラックを登り左のフェースに抜ける。
上部フランケの取り付きらしきものが右側に見えるところでピッチを切る。
5P目(浅野)ハングの下をトラバースして左下に続くバンドを渡り終了。
ロープをたたみ左側の草付からdガリーを登り奥壁の取付のハング下に出る。
<Dガリー奥壁>
1P目(柴田)最初のハングはちょっとロワーダウンしてもらい何とか越える。
2つ目はガバなのだけど右足が決まらず情けなくもテンションをかけてしまい最後は意地で越える。
上部のクラックではセットしたカムにA0してしまうというイメージとは程遠いクライミングのピッチ。
ハングを抜けたあとのフェースを10m位登ったところでロープが一杯になりピナクルに掛けた長シュリンゲとカム2本でビレーポイントを作る。
2P目(浅野)ビレーポイントから上のフェースを一直線に延びるクラックを登り、4尾根寄りのフェースを登る。
少々右に寄り過ぎたみたいで正規ルートと離れてしまう。
3P目(柴田)ほぼ4尾根ルートに沿って登り枯れ木テラスから左に回りこむ。
最終ピッチは右の易しいチムニーと左の城砦ハングの前傾フェースと聞いていたがその間にⅣ級程度のやや凹角っぽいフェースルートがあったのでその手前で切る。
4P目(浅野)最終ピッチ。
凹角を登る。
両者ともⅢというほど簡単ではなく感じたがその理由が単に下手クソなのか疲れていた為なのか今となっては分からない。
ロープをたたみ靴を履き替えて夕闇迫る北岳頂上までチンタラ歩くが頂上付近でサルの軍団に遭遇。
ボスザルの雄叫びはなかなかの迫力だった。
北岳頂上からは草すべり経由で下る事にしたが肩の小屋あたりで暗くなる。
谷川から転進した事もあり二人ともトポのコピーは持ていても地図は持っていない。
(浅野さん、持ってくるよう頼んだのに。。。)
一般登山道だが草すべりへの分岐を見落とし小太郎山に進みはしないかと少々心配しながら歩きつづけるとようやく白根小屋から広河原の指導標が現れ、これで帰れるとほっとする。
白根御池小屋で少憩の後「相変わらずワンデイバットレスは疲れるのう」
とボヤキながら歩き続け広河原に着くと時刻は丁度午後10時だった。
交替でフラフラになりながら横浜まで車を走らせた。
<タイム>
広河原 8:30 → 下部岩壁取付11:05 → 下部フランケ取付 12:30 → Dガリー奥壁取付 15:30 → 北岳頂上 18:00頃 → 広河原 22:00