2002年12月30日から4日間
森広、赤井、石原、大滝(記)
予定していた農鳥岳・滝ノ沢は大量の積雪が予想され、雪崩の可能性が高いと判断し、延期した。
ROCK&SNOW・15号に発表されていた尾勝谷本谷に入る事にした。
以前、塩沢右俣、左俣は登っている。
マイナーな場所なので予想通り誰も居なかった。
12月30日
8:15戸台大橋手前の工事現場、出発。
晴れ -7℃ 凄く寒い。
仙丈を遠望するが雪は多くは感じられない。
でも谷は分からない。
林道の雪は数cm程度。
奥の方で堰堤工事をしていた。
9:15塩沢出合。
林道が伸長されていたので様子が一変していた。
2℃ ここから400m位で林道は途切れ、沢に降りる。
積雪15cm位。
道無き沢を遡行する。
凍っている石を見きわめながらこわごわ徒渉する。
倒れている木を馬乗りになって渡ったりして、面白かった。
往路は10回徒渉した。
所々、古いテープが有る。
林業関係者が付けたのかも知れない。
進むにつれて積雪が50cm程になりラッセルになって来た。
12:30口南沢出合。
広い所だ。
雪のベースがないので、時々腰まで落ち込む。
想像はしていたが本当に今シーズンは雪が多い。
鹿の足跡が沢山有る。
彼らは実に合理的なラインで歩いている。
大概はその跡を利用した。
15:20中南沢出合。
幕営予定地はこの先の1700m地点だが、この先、平らな所が余り無さそうだし、時間も押して来たし、そこはテント場に適しているので決めた。
水も近くで汲める。
この沢は、奥の右俣、左俣出合まで水は得られる。
どんな年でも得られるだろう。
夜、4人でくっ付いて寝たらとても暖かかった。
12月31日
朝寝坊して6:10起床。
8:00出発。
中南沢を詰める。
ラッセルを交替で頑張り、10:50 F1取付き。
-4℃。
記録では、90mとなっているが、40m程にしか見えない。
下部が埋まっているらしい。
それでも堂々としていてラッセルの苦労を忘れる。
グレードは下からⅣ位の連続で最後の5m程がⅤ。
段々になっているので、ランニングは採り易い。
中央が艦船の先端みたいにせり出しているので2組が左右に分かれて登れば、互いに落氷に当たる心配がない。
大滝、森広組は右側を登った。
大滝リード。
登る前にスクリュウを決める位置を考える。
最後の立っている部分はもう1本採った方が良かったが、ぐずぐず作業するより、さっさと登ってしまった方が良いと考え一気に行ってしまう。
立っている所でランニングを採るか採らないかは何時も悩む。
アイスクライミングの永遠の問題だ。
露岩が大きく段になって居る所で、スクリュウ2本でピッチを切る。
40m位。
森広がフォローして来て、そのまま4m位の氷を越えたらF1は終わった。
満足できる滝だ。
少しラッセルすると、F2 20mがある。
中央はⅢ位だが、右側が立っていて面白そうなので登った。
後半、アックスの音がどーん、どーん、として来て、抜け口に行ったら、広く隙間が空いていて、覗いたら、滝がまとった氷の鎧に自分が張り付いて居るのが見えた。
そして生暖かい空気が上がって来る。
滝の中はこんなに暖かいのか。
F3 17m Ⅲもあり登った。
更に奥に氷が見えたが時間が無いので止めた。
下降は、F3は木で懸垂し、F2は右岸を歩いて降りる。
F1は大きいので1回では届かない。
初め木で懸垂すると急なブッシュ帯で一杯になる。
そこのブッシュで下りてもいいが、右を見ると、石原が1P目終了点で登って来る赤井を確保している。
四人一緒になった方がいいと考えて、トラバースした。
時間が押しているので、皆でそこから降りた。
アバラコフではないが、氷柱に穴を開けて、シュリンゲを通して下降した。
16:00 F1取付き着 -4℃ 17:00テント場
1月1日
4:30起床 6:00出発 3℃ 小雪 本谷の奥に向けて、ラッセルに精を出す。
暫く行くと、左岸にとてつもなく立派な氷瀑が現れた。
下の方が被った氷柱状で15m位。
それが終わっても急なナメが延々続いている。
50mで終えられるだろうか。
終了点付近は下降支点を作れそうな様子が無い。
今後の夢の一つに入れよう。
また暫く行くと、岩陰にかもしかの泊まった痕跡に出会った。
草が敷き詰められていた。
8:10奥南沢出合 -6℃ 左俣に入る。
4m位の簡単な滝をロープレスで越えるとF1 13m。
これも容易そうなので、ロープレスで行く。
(赤井、石原はロープを使用)そこから延々とラッセル。
F2 10m F3 3段60mが無い。
後で分かったが、それらは雪の下になっていたのだ。
やがて左に大きな沢を分けると、立派な氷瀑が姿を見せた。
中々に良い。
F5 50mだ。
10:50 -4℃ 大滝リード。
Ⅳ位で難しさは無いが長い。
ランニングを6本採った頃、50mロープが一杯になって来た。
氷の途中でスクリュウ2本のビレー点を作る。
森広がフォローして来て、そのまま行く。
氷は数mで終わり、雪になる。
10m程先のブッシュで確保。
F6 10mは容易なのでロープレス。
最後の滝F7 35mはⅢ位。
快適な登り。
後半は堅雪壁みたいになって来て、さくさく登れ楽しかった。
記録通り、これで滝は終わったらしい。
雪の斜面が馬の背まで続いている。
13:20 下降は、右岸を歩いて下り、F6はブッシュで懸垂。
F5の上まで来たら、石原がF5の上部に来ていた。
氷上でピッチを切らずに雪のブッシュ帯まで来たが、太いブッシュまではまだ足りないので困っていた。
上の方からロープを渡し支点の一つにして貰う。
F5の下降は、右岸のブッシュ帯だが藪がひどく込んでいる。
ロープ2本を繋ぐと引っ掛かりそうなので、1本の懸垂にする。
4回でようやく取付きに着く。
F5を横から見るととても大きく惚れ惚れする。
16:50出合。
暗くなってから、テント場に着いた。
夜から雪が降り始め、朝方まで続いた。
夜中にフライシートを雪が滑り落ちる、ざ、ざーっと言う音がしていた。
1月2日
朝起きたら、フライシートと本体の隙間が雪で埋もれていた。
直ぐに除雪して酸欠にならない様にした。
雪崩の可能性が増したので、強い未練は残るが、下山を決めた。
右俣は課題の一つに入れよう。
生きて居れば又来られる。
7:25 -8℃ 快晴の中、徒渉に怯えながら下山した。
帰路は8回の徒渉で済んだ。
11:10 車の所に到着。
山に入り カモシカの床(とこ) 垣間見む 人の世ばかりに 新年(あらとし)来る 大滝明夫