日高山脈中部横断(農屋~カムエク南西稜~1823峰~ピラトコミ山~札内川ダム)

2018年12月27日~2019年1月3日
中和(単独、記)

 

日高山脈は山が深いので、その最深部に行こうと思うと、一週間近い休みが必要になってしまう。自然、関東労務層が日高の中核に行く機会は、年に数回しかないことになる。でも今年はまだ日高に行けていない。それじゃあ年末年始は日高に行くしかない。

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概要:
日高山脈中部横断(農屋~カムエク南西稜~1823峰~ピラトコミ山~札内川ダム)
2018/12/27~2019/1/3

コースタイム:
D0(12/27) : 新千歳空港 – 苫小牧
D1(12/28) : 農屋バス停(09:46) – 静内ダム(10:53) – 高見ダム(13:23) – C1(16:06)
D2(12/29) : C1(05:41) – 東沢林道分岐(07:37) – 清和橋(13:01) – C2(15:44)
D3(12/30) : C2(06:08) – シカシナイ山(10:20) – P1821(15:45) – Ω3(15:45)
D4(12/31) : Ω3(06:29) – P1848(10:40) – カムエク(14:36) – Ω4(15:36)
D5(1/1) : Ω4(07:02) – ピラミッド(08:34) – ガケ尾根の頭(10:15) – C5(13:46)
D6(1/2) : C5(06:46) – 1823峰(09:36) – P1643(11:47) – Ω6(15:29)
D7(1/3) : Ω6(06:11) – ピラトコミ山(09:17) – 林道(13:36) – 札内川ダム(15:01)

行動記録:

12/27
前日移動。苫小牧でアマゾンからのガス缶をコンビニで受け取り、そのまま駅でビバーク・・・などするはずもなく、全館暖房のビジホで過ごす。

12/28 晴れ
苫小牧から色々乗り継いで農屋バス停。ここから南西稜取付まで約48kmの林道歩き。この山深さこそが日高の魅力!!そんな自己暗示をかけて淡々と歩く。どうやら単独の先行者がいるようで足跡がある。ルート被らないといいなぁ。高見橋の分岐手前でツェルト泊。

こんな感じの林道が続く

12/29 雪
出発してすぐに足跡の主を追い抜く。ペテガリに行くとのこと。他人のトレースを辿るなどお互い不幸でしか無いのでWin-Winだ。
除雪はナナシ沢出合の1km位先で終わり、膝ラッセルになるのでスノーシューを履く。地図に無い橋やらトンネルがあり困惑したけど、どうにか清和橋に到着。南西稜を突破できないと、もう一度48kmの林道歩きになるので、敗退という選択肢はない。

地図に無い作りかけの橋。橋の下の足場を使って渡る。

清和橋の少し先から尾根に取付くが、急斜面のラッセル。笹の上に乗った新雪で、踏み抜きが酷い上に笹の葉で滑る。吠えながら必死に登る。標高900を超えた辺りで傾斜が緩むので整地してツェルト泊。

12/30 雪のち晴れ
シカシナイ山まではシューが比較的快調。サクサク登るっていると、シューの真横で轟音と共に雪庇が谷底に消える。うーん。
シカシナイから先は藪と雪庇に加えてシューでも膝上ラッセル。進まない。シューで藪アスレチックをやると引っかかるのでアイゼンに変えると股ラッセル。相変わらず進まない。1821山頂でイグルー泊。

藪と雪庇の尾根
太平洋まで見えるマイホーム

12/31 晴れのちガス
カムエク南西稜の核心部に入るので、最初からアイゼンピッケル。雪庇尾根を所々腰までのラッセルしていくが、ハイマツ藪の踏み抜きも酷く、1848まで拷問に近い。
核心は1848の先の2箇所の靴幅+αくらいのナイフリッジ。左右どっちも切れ落ちてるけど、コイボクカール側なら落ちても即死はしなそうなので、そこまで緊張感はない。ロープ出してもいいかなと思ったけど、四つん這いになったり、ハイマツを掴んだりして通過。

南西稜核心部

後は大した所は無いけど、引き続き膝から股ラッセルの急登。もう吠える気力も無くなり、ヘロヘロでカムエク山頂。カムエクとピラミッドのコルで半イグルー。

カムエク南西稜を振り返る

01/01 吹雪のち止む
6時にイグルーを這い出ると、吹雪で視界が悪くヘッデンだと苦しい。暖かいマイホームに戻り、完全に明るくなってから出発。
ピラミッドへの登りは、ちょっとした岩場もあるのでアイゼンでの行動だけど、藪の踏み抜きも多く消耗する。ピラミッドからガケ尾根の頭へは岩稜をかわしながらの股ラッセルが続く。進まない。

ガケ尾根の頭の雪稜

ガケ尾根の頭南側の岩稜帯を抜けた辺りから吹雪が収まってきて、1832峰が遠くで雪煙を上げているのが見えてきた。1602のコルは吹き溜まりでイグルー建設に好適だけど、もう少し進めるだろうと色気を出したものの、雪庇尾根と藪の踏み抜きで全然進まない。天気も悪いし、正月なので早めに行動を切ろうと思ったけど、モナカ雪ばかりでイグルーも雪洞も建設不適。風が当たらない岩の隙間を除雪してツェルト泊。

01/02 雪が降ったり止んだり
雪庇地帯なので完全に明るくなってから出発。1823峰手前のピークまで、引き続き藪と雪庇のアスレチック会場。

雪庇尾根

一段上がった1737からはシューで歩ける快適な尾根になり、何事も無く1823峰に着。視界が悪いので懐からコンパスを出すとアウターのフロントジッパーの金具が壊れて雪の中に消えた。ジッパー全開固定、非常にまずい。さすがに試される大地。吹雪かれたら低体温になる可能性があるので、さっさと先に進む。
1643から国境稜線を外れてピラトコミ山に向かう。ここは地図を見て、雪稜を期待していた場所だ。だけど、実際には猛烈な藪尾根。所々ナイフリッジもあるけど、藪もセットなのでスッキリしない。おまけに藪こぎやラッセルしていると壊れたアウターの隙間から雪が入ってきて寒い。モン○ルに対する呪いの言葉を吐き続ける。ピラトコミ手前のコルでイグルー泊。

藪尾根、奥がピラトコミ山

01/03 快晴
今日はピラトコミに登って下山するだけ。でも相変わらずヤブと格闘しながらのラッセル。イライラメーターはとっくに振り切っている。絶叫しながら雪庇とヤブの集合体を処理していると、ふいに右足の接地感が薄くなり、少し遅れてズズンという音とともに雪庇が落ちていった。この山行で三度目。いい加減に学習しろよという話だけど、酷いヤブなので、藪と雪庇のコンタクトラインを攻めざるをえない
山頂直下からはご褒美のように快適な尾根になり、十勝平野を一望しながら山頂。下山は東面直登沢の右岸尾根を使ったが、地図にない小さなポコが多く意外とかったるい尾根だった(この尾根はなぜか赤札が付いている。原始性が魅力の日高への冒涜だと思う)。後は林道を歩いてダムのゲートでタクシー召喚の術。財布は冬山のようにお寒くなるが、中札内のバス停まで20kmもあるので、もうここでゴールしてもいいでしょう。

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この山行のために11日間の休みを確保しましたけど、低気圧の通過もなかったので、停滞ゼロ、予定を大幅に前倒して抜けられました。主目的だったカムエク南西稜は、間違いなく中部日高で一番美しい雪稜ルートです。ポロシリ、ナメワッカ、イドンナップ、エサオマン、カチポロ、1839峰などなど、北部中部の主要なピークを左右に眺めながら、国境稜線最高峰のカムエクに登り詰めるので、日高のど真ん中にいる愉悦を感じます。最短経路でも入下山だけで4日かかりますけど、クライミング的な困難さは低いので、もっと歩かれてもいいルートだと思いました。