なお、記録に記したピッチ数は多くの方が持っているスーパートポのYOSEMITE BIG WALLs Third Edition 2011をベースにしていますが、グレードは、より自分の感覚に近い、ヨセミテビッグウォールズドットコムのYOSEMITE BIG WALLS The Complete Guide 2014(現地で入手した)を記しています。
【練習】
問題は、私も櫻田さんも、ビッグウォール技術はほとんど持ち合わせていないことだった。日本語の技術本もない。そこで、スーパートポのHow to Big Wall Climbを解読することから開始。近くの公園で人生初のユマールをしてみたり、エルキャプ南東壁ゾディアック経験者の向畑会長に、二子山でセルフロアーダウンを教えてもらったり、ノーズ経験者のTさんに話伺ったり。本格的な練習は4月から開始。
平行して、今まで真面目に取り組んでこなかったクラックに取り組んだ。既に11月に入っていて瑞牆山や小川山はシーズンオフだったので、湯川、城ヶ崎に通って練習。クラックが奥深面白過ぎて、途中からクラック登ること自体が目的になっていた気が・・・
4月に入ってから月2回ペースでシステム練習などを開始。阿寺で荷上げ・ユマール、湯川でエイド・フォローのクリーニング、日和田でトラバースのフォロー・振り子・セルフロアーダウン等を練習。真夏灼熱の阿寺で熱中症寸前になりながら、計量ミスって50kg近い荷物を上げたのは忘れない。
5月に入ってからは平行して、瑞牆山のマルチに通って、マルチ筋トレ。調和の幻想、錦秋カナトコ、山河微笑、ベルジュエール、蒼天攀路、大面岩左稜線などメジャールート(一部違う?)を登った。
そんな感じで準備を進めていたけれど、8月上旬の例会時の居酒屋でノロウィルスの集団食中毒を食らい激痩せ、今まで作ってきた体力がゼロに戻ってしまう。その後1月で何とか体調を戻したけど、追い込みできなかった結果はエルキャプの2日目以降のバテバテで露呈。
0ピッチ目:Pine Line 5.7 or C1(リード:河合)
荷物の引っかかりを考えて、0ピッチ目は引っかかりの少ないPine Lineを使用。時間短縮のためA0。以降、フリーで登ったピッチは1つもなし。20m位にある松の木でピッチを切った。
1ピッチ目:5.11d or C2(リード:河合)
松の木の右側に荷物を回してから、1ピッチ目開始。本来の取り付きより15m位低いようで、ボルトとカムを併用しつつ本来の取り付きへ。Pine Lineからだと、Not recommendedの5.11aのラインの方が自然になるが、トポ通り5.11dのラインに入る。ボルト直後のピトンスカーにカムを決めたら吹っ飛び、早速フォールしてしまった。ピトンスカーには今後もずっと悩まされることになる。途中、60mロープでも終了点まで足りなくなりそうなことが判明したのでカムを残置して振り子し、5.11aのラインの途中にある正規でない終了点へ(トポには出てない)。最初から5.11aのライン選べばロープ足りたかも。そんなに悪いようにも見えないのだけど。荷上げはズリズリ重いけど練習の甲斐あってかスムーズ。1パーティ、5.11aのラインを来た軽量パーティに抜かれる。2ピッチ目:5.11d or C2(リード:河合)
7m位登って正規1ピッチ目の終了点にクリップし、ロアーダウンして残置カムを回収し登り返す。初めての振り子トラバースが出現、壁を走る。爽快だ!
3ピッチ目:5.10c or C2(リード:櫻田)
櫻田さん初リード。ピトンスカーとボルトのミックス。中間部でフォール!やっぱりピトンスカーで抜けたらしい。4ピッチ目:5.11c or C2(リード:櫻田→河合)
最初7m位のボルト、C2のセクションが出てきて、何もプロテクションを受け付けない。櫻田さんギブアップでリードチェンジ。浅効きハイブリッドエイリアンに乗り込んでみたけど角度変わったら抜けそうで怖かったので、手前に良いプロテクションを固め取りしてフリー(5.9)でランナウト突破。その後は振り子が連続するも、1つ振ってからが悪く、赤い次の残置スリングに手が届かない。エイリアンを決めてアブミに乗り込んだら吹っ飛んで振り子バック、肘を擦りむいた。ここも結局魂のフリーで突破。その後はロープをフレークに食われないよう捌きながら、Sickle Ledgeに15:40到着。大分時間かかってしまった。こんなスピードで大丈夫か、不安が募る。 その後60mを2本Fixし、最後はなぜかあった固定ロープを懸垂して取り付きへ。Fix用に担ぎ上げたロープ4本のうち、50mシングルは不要となった。
9/19 DAY1。5~14p、15p目Texas Flake Fix、El Cap Tower泊
勝負の1日目。この日、日没までにDolt Towerまで行けなかったら敗退と決め、午前3時起床、4:40にワンデイを狙う先行のチリ人パーティ(ガイドと15歳の子供!Fix時に会ってロープを共用している。先行することも打ち合わせ済。もっと早く出ると聞いていたけど、外人の時間はあてにならない)が先行したのを見送ってユマール開始。Sickle Ledgeで泊まっていたガイドパーティ(後で追いつかれ、疫病神となるとは、この時知る由もなかった)に「明日また来いよ」と言われるも当然シカトし、5:55登攀開始!
5、6ピッチ目:Ⅳ、5.9 or C1(リード:櫻田)
トポ上の5、6ピッチ目をリンクするようにFixロープが垂れていた。自分達のロープと交錯しそうだったこともあり、ユマールでセルフを取りつつ櫻田さんリード。さくっとリンク成功。Fixロープが邪魔だったとのこと。
7ピッチ目:5.12a or C1(リード:櫻田)
7m位登ってから残置を使ってトラバース、振り子3回であっという間にStoveleg Crackへ入り、一気に後続パーティを突き放す。ナイスクライミング!恐らくStoveleg一番下の終了点でピッチを切る。河合は初の本番セルフロアーダウンでロープが引っかかって戻ることに。トホホ。以降セルフロアーダウンではほとんど捨て縄をする必要がなかった。(結局トータルで3mmスリングを2本捨てたのみ)8ピッチ目:5.9 or C1(リード:櫻田)【Stoveleg Crack下部】
トポにはハンドと書いてあるけどフィストだよ!9ピッチ目:5.9 or C1(リード:櫻田)【Stoveleg Crack上部】
ワイド部分が出てきて、櫻田さんが奮闘している。隣のクラックを男女パーティが登ってきたが、ルート間違えたらしく戻っていった。(後で抜かされるケリーパーティ)10、11ピッチ目:5.10c or C1(リード:櫻田)
櫻田さんがまた怒涛のリンクで、Dolt Towerまで行ってしまった。すげぇ。ロープが足りなくなって、メインロープ解いてスペースホーリングしていると言う。危ないから勘弁して下さい。さすがにバテたそうで、ホーリング途中から河合と交代。13:20位にホーリング完了。順調だ!12ピッチ目:5.8 or C1(リード:河合)
まずはロアーダウンしてから、スクイーズチムニーを登り返す。アブミは出さずA0とフリーでスピードアップ。櫻田さんは残置スリングにスリングを2つ折りしてセルフロアーダウン省略を試みるも、うっかりタイオフになってしまい120cmスリングを残置することに。セルフロアーダウンでは、アンダーフレークにロープ食われやすいとのことで、要注意(現地で会った慶應大の学生情報)。13ピッチ目:5.9 or C1(リード:河合)
トポにはフィストと書いてあるけどスカスカだよ!A0バッククリーン祭り。14ピッチ目:5.7 or C1(リード:河合)
簡単なフェースと少しクラック。問題なし。15:50 El Cap Tower到着。順調!でも飛ばしすぎたせいか、かなり疲れた。 El Cap Towerにはドイツ人2名パーティが。荷物がやたらデカい。聞けば今日はDolt Towerからここまでしか進めなかったとか。これは先行されるとヤバイなぁ。Texas FlakeへのFixを試みていたが、最後のワイドチムニーがどうしても突破できず、暫くしたら憔悴し切って戻ってきた。そこで、「Fixしてあげるから、明日先行させろ」と交換条件を持ち掛ける。渡りに船だったようで、あっさり交渉成立。途中のボルトまではFixしてきたので使ってよいと言う。時間が遅くなってきたので急いでFixすべく、Fixラインの使用を妥協することにする。
日没直前にケリーパーティが追い付いてきて、結局El Cap Towerは6人泊となったが、それでも余裕だった。さすがの広さだ。でも小便臭い。あぁ、スプライト飲みたい。以降毎日、スプライトのことばかりが頭に浮かぶ。
例のドイツ人パーティに、「キングスウィングも出来ないからFixしてくれ」と頼まれるも、ペース合わない気がしたので、曖昧に返事を濁す。結局ケリーパーティがFixしてあげたらしい。出来ないって分かっていながら、何で来たのだろうか。フリーラインから行けばいいのに。
18ピッチ目:5.10b or C1(リード:河合)
ブーツフレークとキングスイングであまりに疲れたのでリード交代を打診するも、櫻田さんも体調不良だったので、引き続き河合リード。イモ虫ペースとなる。出だしのフレークは取れそうで怖い。しかも途中でハンドジャムをきめようとしたら横にいたミツバチに右手親指を刺される。文字通り泣きっ面にハチで、泣きながら終了点へ。指痛ぇ。Camp4で櫻田さんに虫刺されの塗り薬を恵んでもらう。助かった。19ピッチ目前半:5.10d or C1(リード:河合)
フリーラインのリン・ヒルトラバースは、A0でも5.10dのフリーを要求されるので、オリジナルラインへ。ケリーパーティがフリーラインで追い越しをかけてきた。ケリーパーティがいたので、正規19ピッチ目手前の終了点でピッチを切る。ユマールの櫻田さんは、最後、登り切った振り子支点から、河合ビレイのロアーダウンでフォローしてきた。ナイスアイディア!19ピッチ目後半:5.7(リード:櫻田)
ここで長らく順番待ち。なんとドイツ人パーティが、全てケリーパーティにFixしてもらって追い越しをかけてきた。げんなり。河合は完全に終わってしまったので、リードチェンジ。落ちられない5.7の下降をこなし、正規19ピッチ目終了点へ。岩もルースだし、これはフォローも怖いよ~ユマールじゃなくて、フォロー確保の方が安全かも。20ピッチ目:5.11a or C1(リード:櫻田)
クラックに入るまでが悪いようで、櫻田さんが極小カチを保持している。その後、薄いフレークにカムを決めて乗り込んたら、フレークごと吹っ飛んでフォール。この周辺は岩が安定していなくて浮石もあり、要注意だ。このフォールで櫻田さん携帯の液晶にヒビが入ってしまった模様。Camp4に16:30頃到着。今日はこれ以上進む体力も時間もないので、Camp4泊を決断する。 次のピッチをFixしようとしたら、ガイドパーティが来てがちゃがちゃポーターレッジ設置などを始め、交錯するのでFix不能となる。しかも「お前らを見てたが、遅い。明日俺より先行して遅かったらぶち切れるから、先に行かせろ、朝6時には俺らは出発する」と脅してきた。遅かったのは事実だし、壁でのトラブルは面倒なので、おとなしく従うことにする。この判断が翌日以降に大きく影響することとなる。先行を了承したら途端に機嫌がよくなったので、暇つぶしに色々情報をもらう。
元Yosemite Search and Rescueの人で、「El Capで最も良いルートは?」「そりゃMescalitoさ!でもShieldもいいな。Salatheも素晴らしいぜ」。ガイド料金は6000ドルだそうな。(客は全ピッチユマールだけで荷上げなし。練習は2日間。クライマー感覚だと、そこまでして登りたいのかなという感じ。)ホールバック2つとポータレッジをボディーホーリングで上げていた。クレイジーだ。
寝床は斜めでずり落ちてきて寝心地悪かった。しかも漏れなく小便臭い。朝、櫻田さんの手が滑り河合の寝袋がグランドフォール。ダウン上下とシュラフカバー、河合の使ってないダウンがあったので問題はなかったが、転がり落ちていった瞬間は目に焼き付いて離れない。後日探しに行ったけど見つからなかった。ガイドに「敗退したら?」と煽られるも、笑顔で拒否。
21ピッチ目:5.9+ or C1(リード:櫻田)
一箇所トラバースあるも、概ね易しそう。櫻田さんも先の件でブチ切れ、猛烈な勢いで登ってガイドに目に見える圧力をかける。ガイドに「お前は早いな」と言わせたそうな。さすがっす。22ピッチ目:5.13d or C2F(リード:櫻田)【Great Roof】
Great Roofだ!当然ガイドパーティが詰まっており無限待ち。リードのガイドも別に早くないじゃないか。櫻田さんはテンション高めで好調のようだ。すいすい登っていく。ユマールしようと思ったらワンデイパーティが追い越しをかけてきて、また40分位待たされる。うぅ、進まない。フォローはガンガン音楽かけている。音楽は軽量化には含まないってことか。聞けば、15回目のノーズで、うち12回はワンデイだそうな。
Great Roof自体は残置が豊富で、抜け口のカム決める所以外問題なさそうな感じ。ユマールの私はセルフロアーダウン2回と若干のエイドトラバースとなった。23ピッチ目:5.11c or C1+(リード:櫻田)【Pancake Flake】
Pancake Flakeだ!でもエイドでガシガシ。フレーク終わってからのC1+のセクションで櫻田さんのスピードがぐっと落ちる。悪いみたいだ。うっかり櫻田さんのホーリング準備完了前に、ホーリングラインのテンション来たのでホールバックのリリースをしてしまった。すんません。強風でビレイヤーはロープを飛ばされないよう必死でマネジメント。24ピッチ目:5.11a or C1+(リード:櫻田)
出だしのクラックが奥まっていて大変そうだ。途中で左に移り、Camp5まで。でも、ホールバックが途中までしか上がらない!仕方なく一度降ろして仕切りなおす。リードロープとホールラインが見えない位置で交錯していて、何とかしたが時間食う。後ろから素早い陽気な3人パーティに追いつかれかける。櫻田さん最後に60cmスリング落とす。ほんとお疲れ様でした。
26ピッチ目:5.11b or C1(リード:河合)
5:20スタート。Glowering Spot終了点からボディーホーリングしてから、長いエイドのピッチ。コーナークラックでリーチが稼ぎ辛い。幅が広くなってからはフリーを交えつつ、終了点のキャンプⅥへ。今回の疫病神のガイドパーティがChanging Cornersをノロノロとリードしていて、1時間以上待たされる。キャンプⅥ付近は特に小便臭い。多分ジャミング決めているクラックも小便まみれと思われる。おぇ~27ピッチ目:5.14a or C2(リード:河合)【Changing Corners】
恐らく最後の核心となる、Changing Cornersだ。絶対抜けるとの固い意志で臨む。最初は長いC1セクション、その後ボルト3つをスリング掴んで登り、件のコーナーに入る。出だしはナッツ効かずオフセットエイリアン極小、次にナッツ♯3、さらにオフセットナッツ♯3辺りを順に決めて、残置を掴む。コーナーに入るエッジが立っていて、ロープ切断が怖いので落ちたくないところ。C1セクションに入ってカムを決めてからバッククリーンしていたら、指がコーナーと挟まって流血してしまった。なお、コーナーのロープ擦れるところはダクトテープが一応貼ってある。その後終わらないC1をこなして終了点へ。とても長いピッチで、リードに1時間半以上かかった。ユマール時にもロープが痛まないよう、コーナーチェンジの所のロープの流れには要注意だ。
28ピッチ目:5.10d or C1(リード:櫻田)
Changing Cornersで絞り出して憔悴していたらしく、櫻田さんがリードを交代してくれるという。頼りにしてます。左右クラックどちらでも登れそうで、櫻田さんは直上を選択。さくさく進むけど、早く1ピン目クリップして下さい(泣(忘れていたそうな)。
29ピッチ目:5.10d or C2F(リード:櫻田)
まだいけるというので、櫻田さんにもう1ピッチお願いする。ほんと頼りにしてます。C2Fとなっていたが、櫻田さん曰くあっさり抜けられたそうだ。でも、ホールラインとメインロープが交錯してしまい、また荷上げを途中で止めてもらうことになった。Wild Stanceまで。×印のあるデカい岩があったので触らないよう注意。
30ピッチ目:5.10c or C1(リード:河合)
河合が復活してきたのでリードチェンジ。もう終わりは見えている。櫻田さんは既にグシュグシュしている。頂上はまだっすよ?
御褒美の超快適な5.10cの短いクラックを登って、さあ終了点と思ったら、「ないじゃねーか!」トポに記された終了点が見当たらず、櫻田さん得意の外人サイズのボルトラダーをチビの河合が頑張ることに。ろくにヌンチャク持ってきておらずランナウト、何とか最後の右巻き手前の終了点に辿り着く。