天竜川水系 水窪川支流・戸中川

2018年11月2日~11月5日
中和(単独、記)

この時期にノコノコ沢登りに行くと奇異の目で見られるが、温暖寡雪な南ア深南部は意外と快適である。吸血生物と釣り師がおらず、紅葉が盛りというメリットも捨てがたい。そんな訳で天竜川水系の水窪川支流・戸中川に行くことにした。目的は悪いゴルジュを有するという西俣と、多くの滝を持つ東俣の遡行である。

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概要:
2018/11/02(金)~2018/11/05(月)
天竜川水系 水窪川支流・戸中川西俣(遡行)
天竜川水系 水窪川支流・戸中川中俣(下降)
天竜川水系 水窪川支流・戸中川東俣(遡行)

コースタイム:
11/2(金) 仮設ゲート(06:03)-戸中山林道ゲート(06:30)- 第1ゴルジュ(07:00) – 第2ゴルジュ(09:14) – 二俣(12:58) – 崩落地末端(13:38) – 宿泊地(13:57)
11/3(土) 宿泊地(06:09) – 稜線(08:49) – ロクロバ峠(11:12) – 堰止湖(14:03) – 中俣出合(15:26) – 宿泊地(16:01)
11/4(日) 宿泊地(06:10) – メラドの滝(06:40) – 連瀑帯(10:19) – 戸中山林道(13:45) – 宿泊地(15:37)
11/5(月) 宿泊地(06:06) – 鹿の平(07:44) – 戸中山林道(10:04) – 戸中山林道ゲート(11:36) – 仮設ゲート(11:58)

行動記録:

11/2(金) 晴れ
戸中山林道はゲートの2km手前で通行止め。ゲート手前の崩落地は落石の巣なので妥当な措置だろう。仮設ゲートから30分程度歩いて西俣出合にかかる奈良代橋の横から入渓。
当初は穏やかな河原が続くが、次第に両岸が立ち始める。やがて黒光りした側壁に囲まれ、薄暗い第1ゴルジュとなる。ゴルジュ内は沢が屈曲するたびに滝を掛けているので、どんな滝が出てくるのかワクワクが止まらない。一本だけ10m超のハング気味の滝があるが、これを右岸から巻く以外は、全て水流通しに遡行可能。

10mハング滝

第一ゴルジュの先は、しばらく平凡な河原となるが、右岸からの大きな滝を見送ると第2ゴルジュが始まる。こちらも両岸が激しく立った薄暗い渓相だが、水流通しにフリーで遡行できる。ちょっと渋かったのが、途中にある6m滝と、出口にある5m滝。6m滝は、右壁のバンドを空身で登って荷揚げするが、荷揚げロープを全力で引っ張っても水流に負けてしまう。「ヴォルガの船曳き」のような体勢で必死にやっても上げられなかったが、落口に移動するとあっさり荷揚げ出来た。沢の荷揚げは、水流を読まないと体力の無駄である。ゴルジュ出口に掛かる5m滝は、フリクションは良いので突っ張りで這い上がってから右壁に飛びつき、細かいホールドを拾って越える。

6m滝

第2ゴルジュを抜けると、両岸も寝始め、堰堤と河原が交互に現れる退屈な渓相。地図では1170m付近で三俣のようになっているが、右俣、中俣は水量に乏しい。左俣は水量を保ったまま、3~6m程度の滝を連続させるが、ガバだらけで楽しく越える。その先の二俣で左俣を採ると、薄暗いゴルジュのような渓相となり、またも5m程度の滝が連続する。そう難しいものはない。崩壊した堰堤を二個続けて越えると、崩落地の末端部に出る。

崩落地末端

崩落地最初の10m滝は、岩がボロボロなので迷わず巻きを選択。その先も小滝を越えていくと、沢は崩落壁となって消えていくのが見える。これより先に進むのは諦めてビバーク場所を探すと、一段高い場所に落石が無さそうな場所をゲット。沢に向かって外傾しており快適とは言えないが、崩落地の中なので贅沢は言えない。薪は左岸の尾根まで上がると大量の倒木があり、燃料には困らなかった。

11/3(土) 晴れ時々曇り、一時小雨
視界が無い時に崩落地に入るのは非常に危険なので、天候が不安だったが幸い晴天。崩落地の突破にかかる。
本谷ルンゼは急傾斜のガレとなっており、上部はかなり苦しそう。右側のルンゼは水流があるが、崩落壁に詰め上げており抜けられない。さらに一本右のルンゼは下部は急峻だが、上の方は傾斜が緩い。そんな訳で、水のあるルンゼを登ってから、右端のルンゼへの引っ越しを狙う。
水のあるルンゼは、4m程の滝を持つが、垂直のボロ滝で登りたくない。右壁を巻くが、ほぼ全てのホールドが動いて心臓に悪い。滝上から、リッジに向かって急なザレ斜面を登る。
乗り越すリッジは、下から見ると簡単にそうに見えたが、ガレとザレを練って固めたようなボロリッジな上、靴幅しかなくビビリが入る。馬乗りになったり、四つん這いになったりと無様な格好だが、恥も外聞もない。ジリジリ前進すると、右側のルンゼとの標高差が5mくらいまで接近するが、ボロ岩なのでクライムダウンなど不可能。ハーケンかワードホッグを打って懸垂したいが、ハンマーで叩くと簡単に崩れてしまう岩ばかり。リッジを進みながら、あちこち叩きまくって、一応はハーケンが効くリスを拾えたので、長めのナイフブレード2枚でルンゼに懸垂。このルンゼも相当ボロいが、リッジに比べれば遥かに快適で、崩落地頂点まで詰めあげる。崩落地の頂点は、笹やら土やらがオーバーハングしており、フリーでは越えられない。適当な根っこにスリングを掛けてA0で乗り越した。

崩落地

乗り越した場所は黒沢山南側の笹原で、ここから二時間程、軽く笹藪をこぎつつ稜線を歩き、中俣の下降点であるロクロバ峠に移動。
下降する中俣は、登山大系でボロクソ言われていたので、何も無いと思っていたが、立派な堰止湖が出来ていた。左岸の尾根が大崩落して作られたようで、南ア最大の湖沼ではないだろうか。湖岸を歩いて通過しようとしたが、かなり悪い。技術的なものではない。へつれない場所で池の中を歩くのだが、泥が堆積して「グチャ」、「ズボッ」っという感じの沼を、胸まで水に浸って歩くため、非常に気持ち悪いのである。心なしかドブ臭までしてくる。
装備が泥だらけになりそうなので、高巻きに変更したところ、釣り師と思しき巻道があり、これを使うと簡単にダム本体に行けた。このダム湖を抜ければ、下流には何もない。ゴルジュのような場所もあるが、歩くだけで戸中川本流に合流。

堰止め湖

本流を遡行し、大きめの堰堤を越えると広大な河原となり、泊まり場は無尽蔵。「フルフラット」、「薪豊富」、「柔らかい砂地」など強気の条件を出しても、希望通りの好物件がザックザク。数百人は寝れそうな明るい砂地を1人で独占し、焚き火を相手に楽しい夜を過ごす。

宿泊地

11/4(日) 曇りのち雨
西俣が予想以上に容易だったので、東俣も簡単に抜けられると思っていたが、最初のゴルジュでその考えは打ち砕かれる。登山大系にある「メラドの滝」と呼ばれる滝から始まるのだが、両岸立った薄暗いゴルジュに2つの沢から大きな滝が落ちこんでおり、沢からのプレッシャーが凄い。水流左にバンドが有るが、とても登る気にならず、右岸を巻きにかかる。この巻きも中々悪く、ロープ1ピッチ、懸垂1回で落ち口に立つ。(写真は最下段しか写っていないが、右側の滝は3段30m以上ある)

メラドの滝

メラドの上は、直登できる5m以下の滝を連続して掛け、「このままゴルジュを抜けられるか・・・?」と、またも甘い考えが生まれ始めたが、ゴルジュ出口に10m直瀑が待っており絶望。右壁を斜上するバンドから直登できる可能性もあるが、落口への数メートルが悪い。取り付く気にならず、2つ下の滝まで降りてから右岸を巻く。第1ゴルジュを抜け、一旦平穏になった後、第2ゴルジュとなるが、全て水流付近を突破できるので、特記することはない。

第一ゴルジュ出口の滝

標高1050m辺りで沢が東に90度曲がると、傾斜が急激に増し始めて滝が連続。最初のスライダー状の滝はツルツルで突破不能なので、左側を巻き気味に登る。続くヒョングリ滝はやや細かいが右壁から登る。これを越えると登山体系にある全6段の連瀑帯である。核心である5段目は、細かい上にヌメリがあり、ホールドに立ち込む踏ん切りがつかない。「タワシを持ってこなかったからな!」と捨て台詞を残して、倒木で懸垂して3段目の落口に撤退。

連瀑帯4・5段目の滝

3段目の落口から左岸の30m弱のルンゼを小さく巻きにかかるが、人の頭より大きい岩でも抜け落ちるボロルンゼな上、掴めると思っていた木もポキポキ折れる頼りない代物で、心もへし折られる。ナイフブレード2枚と親指位の太さの木にスリングをかけ、懸垂20mで3段目の落口に後退。さらに倒木でもう1回懸垂して最下段まで戻った後、右岸の大高巻きと懸垂1回で連瀑帯の上に出る。
ここを越えると、堰堤と河原が続き、この渓谷では珍しい明るく平穏な場所となる。崩壊した林道を見送って、堰堤を越えていくと、再びゴルジュ状の滝場。10mを越える滝は無いが、ヌメる滝が多く消耗。CSの乗り越しだったり、手がかりの無い斜瀑だったり、手強いものもあり、登りきれず左岸を巻く。
標高1600m付近で3畳ほどの流木が転がったスペースを見つけたので、ここに沈殿。雨で湿気た薪で火力は貧弱だったが、ダラダラと焚き火をしていると、体も概ね乾いて寝られる状況になった。

11/5(月) 晴れ
宿泊地の上は、既に源流も近いと言うのに滝場がしぶとく続く。難しい滝は無いが、相変わらずヌメるので階段状の滝でも慎重にならざるを得ない。二俣を左に入ると、まもなく水が枯れたガレ沢となり、崩落地へと突き上げる。当初は崩落地を詰めようと思ったが、アリジゴクのようなガレで標高は上がらず、体力ゲージだけが減っていくのが自分でもわかる。妥協して木が生えた右岸の尾根に逃げると、獣道があり、これを辿れば鹿の平の一角に飛び出す。

鹿の平

4つの平といえば「信濃の国」だが、南ア深南部にも4つの平がある。ここ鹿の平と、黒バラ平、カモシカ平、笹の平と呼ばれる笹原である。カモシカ平以外は水場も至近の別天地で幕営にも最適である。さすがに鹿の平で一泊は出来ないので、せめて昼寝でもとガチャを外して草地に寝転んでいると、往復一時間かけて不動岳に行くのが面倒になってきた。寝過ごすと笑えないので15分くらいで切り上げ、不動岳は寄らず、鎌崩尾根から戸中山林道を経て下山。昼前には仮設ゲートに戻った。

遡行図:

・戸中川西俣
下流部の2つのゴルジュを含めて殆どの滝が登れ、楽しい遡行が出来る。詰めの大崩落地は悪いので、適当な所で左右いずれかの尾根に逃げるのが安牌。

・戸中川中俣
釣り師が逆河内にアクセスする際に使われる沢なので難しい場所はない。堰止湖というユニークなものがあるが、大正池やオンネトーのような、観光用の小奇麗な堰止湖を想像して行くと後悔する。

・戸中川東俣
崩落地を除けば、滝/ゴルジュ/高巻きのいずれも西俣より悪い。おまけにゴルジュ以外は、大菩薩や丹沢のような微妙なヌメリがあるため遡行しずらい。

主要装備:
ハーケン 11枚、カム#0.5~1.0 (1番のみ使用)、ワードホッグ2本(未使用)、沢ハンマー、60mロープ、15mフローティングロープ、アブミ(未使用)、スカイフック(未使用)、沢靴(ラバーソール)、軍手、ツェルト、シュラフ、のこぎり