ヨセミテ エルキャピタン ザ・ノーズ

2018年9月15日~26日
河合(記)、他1名

憧れのルートに挑戦してきました。

挑戦にあたり、多くのウェブ上の記録を参考にさせて頂きました。次に挑戦する方の参考になるよう、なるべく詳細な記録を本音とともに残すことで、お礼とさせていただきます。

なお、記録に記したピッチ数は多くの方が持っているスーパートポのYOSEMITE BIG WALLs Third Edition 2011をベースにしていますが、グレードは、より自分の感覚に近い、ヨセミテビッグウォールズドットコムのYOSEMITE BIG WALLS The Complete Guide 2014(現地で入手した)を記しています。

【きっかけ】
クライミングを始めた時から、エルキャピタンを登ることは夢であり、目標だった。そろそろ練習して挑戦したいと思っていたのが昨年10月。でもパートナーは会内では見つからず。そんなある日、カサメリ沢のトップガンをトライしていた時、同じ思いを持った今回の山行のパートナー、櫻田さんに出会った。
櫻田さんは私より遥かに山の経験が豊か。何度か組むうち、この人となら行ける!と思い、頑張ってみることにした。

【練習】
問題は、私も櫻田さんも、ビッグウォール技術はほとんど持ち合わせていないことだった。日本語の技術本もない。そこで、スーパートポのHow to Big Wall Climbを解読することから開始。近くの公園で人生初のユマールをしてみたり、エルキャプ南東壁ゾディアック経験者の向畑会長に、二子山でセルフロアーダウンを教えてもらったり、ノーズ経験者のTさんに話伺ったり。本格的な練習は4月から開始。
平行して、今まで真面目に取り組んでこなかったクラックに取り組んだ。既に11月に入っていて瑞牆山や小川山はシーズンオフだったので、湯川、城ヶ崎に通って練習。クラックが奥深面白過ぎて、途中からクラック登ること自体が目的になっていた気が・・・
4月に入ってから月2回ペースでシステム練習などを開始。阿寺で荷上げ・ユマール、湯川でエイド・フォローのクリーニング、日和田でトラバースのフォロー・振り子・セルフロアーダウン等を練習。真夏灼熱の阿寺で熱中症寸前になりながら、計量ミスって50kg近い荷物を上げたのは忘れない。
5月に入ってからは平行して、瑞牆山のマルチに通って、マルチ筋トレ。調和の幻想、錦秋カナトコ、山河微笑、ベルジュエール、蒼天攀路、大面岩左稜線などメジャールート(一部違う?)を登った。
そんな感じで準備を進めていたけれど、8月上旬の例会時の居酒屋でノロウィルスの集団食中毒を食らい激痩せ、今まで作ってきた体力がゼロに戻ってしまう。その後1月で何とか体調を戻したけど、追い込みできなかった結果はエルキャプの2日目以降のバテバテで露呈。

【準備】
食料は、行動食のクリフバーを除き、アルファ米など大体日本から持参。1日1,500kcal計算で4日分持ち上げたが、実際は1日1,000kcalも摂れず。クリフバーは死んでいる胃が受け付けず、行動食食べる暇もほとんどなし、昼間のカロリーはほとんど溶かしたポカリスエット粉位。カロリーよりも喉通りを重視すべきで、ジュースとかゼリー飲料が欲しかった。なお、火器はジェットボイル一式を持ち上げた。疲れた体に暖かいスープはしみたので、あってよかった。
水は1人2.5l×2人×4日+予備2.3lで、22.3l持ち上げた。途中0.5l落とし、5.3l余ったので、大体1日2l消費。下山や、渋滞でもう1泊増えるリスクを考えれば、適量だった。
ペットボトルは日本製がアメリカで調達するより丈夫なようなので、丈夫そうな2lペットボトルを選んでダクトテープを巻いて持参。ホールバックは、リリースロープ17m位でもトラバースピッチで容赦なくぶっ飛んでいきましたが、全く漏れず問題なし。
ホールバックは多分36kg位。私の体重(51kg)では2日目までスペースホーリング、でも最後はボディーホーリング。ビッグウォールは荷物もガチャも重いので、体格良い方が有利と感じた。なお、ノーズで出会ったクライマーで私は最もチビだった。

【作戦】
櫻田さんは登攀スピード速くて外人に引けを取らず手足長いリーチ魔人、体重も河合より重い。河合は多少クラック慣れしている、ということで、お互いの長所を活かすべく3泊4日で以下の作戦を立てた。
Fix:C2など難し目のエイドピッチが連続するので河合メインでSickle Ledgeまで
1日目:荷物が重くスピード重視なので、櫻田さんメインでDolt Towerまで
2日目:King Swingは河合がやりたかったので、河合メインでCamp4まで
3日目:櫻田さんメインでCampⅥまで。エイドの難しいGlowering Spotは河合
4日目:Changing Cornersは河合、後は元気な方がリード

9/15 羽田→サンフランシスコ→ミッドパインズ
荷物は2人合わせて80kg超える。初日はミッドパインズのドミトリーまで。出国手続きで2時間半待たされ、空港を脱出したら午後4時。運転は櫻田さんに終始任せっきり。すみません。右側通行怖い。

9/16 Camp4
朝3時に起きてCamp4へ。人生初のヨセミテ、わーい!キオスク前には既にシュラフにくるまった人々の姿。我々は9・10番目で、今日は51人オッケーだから、問題なしだ。

シュラフの列

夜が明けると絶景が広がる。言葉にならない。受付は8時からで、係が1人しかいないので全然列が進まない。係のおばさんが気を利かせてくれて、日本人のKさん一行の張っているテントサイトNo.29にしてくれた。なお、テントサイトの確保は1週間までしかできず、延長の場合は前々日~前日に手続の必要あり。結局我々はノーズアタックで手続できず、最後は追い出された。
残りの時間は、世界で一番有名なボルダー課題、Midnight LightingV8/V9を触ってみたり(もちろん登れず、ライトニングホールドまでも行けなかった)、エルキャプメドウで、ノーズのサイズ感に圧倒されたり、ノーズの取り付きを確認したり、ノーズ後にやろうと思っていたSeparate Reality 5.11dの取り付きを確認したり(結局登る元気なかった。ミーハーですね)、ガチャの整理をしたり、日本に忘れたガチャを買い足したり(ヨセミテ内は日本と値段あまり変わらない。つまり、安くない)。

ミッドナイトライトニング。登られ過ぎて石灰岩のようにツルツル

9/17 0~4p目Fix
朝8時50分に0ピッチ目となるPine LineからFix開始。荷上げも同時に行った。

0ピッチ目:Pine Line 5.7 or C1(リード:河合)
荷物の引っかかりを考えて、0ピッチ目は引っかかりの少ないPine Lineを使用。時間短縮のためA0。以降、フリーで登ったピッチは1つもなし。20m位にある松の木でピッチを切った。

出発進行!

1ピッチ目:5.11d or C2(リード:河合)
松の木の右側に荷物を回してから、1ピッチ目開始。本来の取り付きより15m位低いようで、ボルトとカムを併用しつつ本来の取り付きへ。Pine Lineからだと、Not recommendedの5.11aのラインの方が自然になるが、トポ通り5.11dのラインに入る。ボルト直後のピトンスカーにカムを決めたら吹っ飛び、早速フォールしてしまった。ピトンスカーには今後もずっと悩まされることになる。途中、60mロープでも終了点まで足りなくなりそうなことが判明したのでカムを残置して振り子し、5.11aのラインの途中にある正規でない終了点へ(トポには出てない)。最初から5.11aのライン選べばロープ足りたかも。そんなに悪いようにも見えないのだけど。荷上げはズリズリ重いけど練習の甲斐あってかスムーズ。1パーティ、5.11aのラインを来た軽量パーティに抜かれる。2ピッチ目:5.11d or C2(リード:河合)
7m位登って正規1ピッチ目の終了点にクリップし、ロアーダウンして残置カムを回収し登り返す。初めての振り子トラバースが出現、壁を走る。爽快だ!

手前のテラスが本来の1ピッチ目終了点

3ピッチ目:5.10c or C2(リード:櫻田)
櫻田さん初リード。ピトンスカーとボルトのミックス。中間部でフォール!やっぱりピトンスカーで抜けたらしい。4ピッチ目:5.11c or C2(リード:櫻田→河合)
最初7m位のボルト、C2のセクションが出てきて、何もプロテクションを受け付けない。櫻田さんギブアップでリードチェンジ。浅効きハイブリッドエイリアンに乗り込んでみたけど角度変わったら抜けそうで怖かったので、手前に良いプロテクションを固め取りしてフリー(5.9)でランナウト突破。その後は振り子が連続するも、1つ振ってからが悪く、赤い次の残置スリングに手が届かない。エイリアンを決めてアブミに乗り込んだら吹っ飛んで振り子バック、肘を擦りむいた。ここも結局魂のフリーで突破。その後はロープをフレークに食われないよう捌きながら、Sickle Ledgeに15:40到着。大分時間かかってしまった。こんなスピードで大丈夫か、不安が募る。  その後60mを2本Fixし、最後はなぜかあった固定ロープを懸垂して取り付きへ。Fix用に担ぎ上げたロープ4本のうち、50mシングルは不要となった。

9/18 レスト、観光
当初はFixの翌日突っ込む案もあったけど、疲れたのと、天気予報上はずっと晴れだったので、この日はグレイシャーポイントへ行き1日観光。櫻田さんからミッドナイトライトニング禁止令が出るも、それどころではない。

9/19 DAY1。5~14p、15p目Texas Flake Fix、El Cap Tower泊
勝負の1日目。この日、日没までにDolt Towerまで行けなかったら敗退と決め、午前3時起床、4:40にワンデイを狙う先行のチリ人パーティ(ガイドと15歳の子供!Fix時に会ってロープを共用している。先行することも打ち合わせ済。もっと早く出ると聞いていたけど、外人の時間はあてにならない)が先行したのを見送ってユマール開始。Sickle Ledgeで泊まっていたガイドパーティ(後で追いつかれ、疫病神となるとは、この時知る由もなかった)に「明日また来いよ」と言われるも当然シカトし、5:55登攀開始!

5、6ピッチ目:Ⅳ、5.9 or C1(リード:櫻田)
トポ上の5、6ピッチ目をリンクするようにFixロープが垂れていた。自分達のロープと交錯しそうだったこともあり、ユマールでセルフを取りつつ櫻田さんリード。さくっとリンク成功。Fixロープが邪魔だったとのこと。

疫病神のポータレッジを越える

7ピッチ目:5.12a or C1(リード:櫻田)
7m位登ってから残置を使ってトラバース、振り子3回であっという間にStoveleg Crackへ入り、一気に後続パーティを突き放す。ナイスクライミング!恐らくStoveleg一番下の終了点でピッチを切る。河合は初の本番セルフロアーダウンでロープが引っかかって戻ることに。トホホ。以降セルフロアーダウンではほとんど捨て縄をする必要がなかった。(結局トータルで3mmスリングを2本捨てたのみ)8ピッチ目:5.9 or C1(リード:櫻田)【Stoveleg Crack下部】
トポにはハンドと書いてあるけどフィストだよ!9ピッチ目:5.9 or C1(リード:櫻田)【Stoveleg Crack上部】
ワイド部分が出てきて、櫻田さんが奮闘している。隣のクラックを男女パーティが登ってきたが、ルート間違えたらしく戻っていった。(後で抜かされるケリーパーティ)10、11ピッチ目:5.10c or C1(リード:櫻田)
櫻田さんがまた怒涛のリンクで、Dolt Towerまで行ってしまった。すげぇ。ロープが足りなくなって、メインロープ解いてスペースホーリングしていると言う。危ないから勘弁して下さい。さすがにバテたそうで、ホーリング途中から河合と交代。13:20位にホーリング完了。順調だ!12ピッチ目:5.8 or C1(リード:河合)
まずはロアーダウンしてから、スクイーズチムニーを登り返す。アブミは出さずA0とフリーでスピードアップ。櫻田さんは残置スリングにスリングを2つ折りしてセルフロアーダウン省略を試みるも、うっかりタイオフになってしまい120cmスリングを残置することに。セルフロアーダウンでは、アンダーフレークにロープ食われやすいとのことで、要注意(現地で会った慶應大の学生情報)。13ピッチ目:5.9 or C1(リード:河合)
トポにはフィストと書いてあるけどスカスカだよ!A0バッククリーン祭り。14ピッチ目:5.7 or C1(リード:河合)
簡単なフェースと少しクラック。問題なし。15:50 El Cap Tower到着。順調!でも飛ばしすぎたせいか、かなり疲れた。 El Cap Towerにはドイツ人2名パーティが。荷物がやたらデカい。聞けば今日はDolt Towerからここまでしか進めなかったとか。これは先行されるとヤバイなぁ。Texas FlakeへのFixを試みていたが、最後のワイドチムニーがどうしても突破できず、暫くしたら憔悴し切って戻ってきた。そこで、「Fixしてあげるから、明日先行させろ」と交換条件を持ち掛ける。渡りに船だったようで、あっさり交渉成立。途中のボルトまではFixしてきたので使ってよいと言う。時間が遅くなってきたので急いでFixすべく、Fixラインの使用を妥協することにする。

15ピッチ目:5.9(リード:河合)【Texas Flake】
エイドの効かないチムニーピッチだ。本当は手足の長くてチムニーの上手な櫻田さんにお願いしたかったけど、今日の獅子奮迅の登りで屍状態だったので、河合がリード。途中まではユマールとミックス。出だしは簡単なクラック、まずはTexas Flakeに入るまでが大変。残置あり。ユマールではろくに進めないので結局半分フリーで突破。フレーク内も狭くてユマールし辛いので、結局フリー交えて中間部のボルトまで。さて、ここから核心、恐怖の「広がるチムニー」だ。アブミをボルトに残置して高度を稼ぎ、背中を壁側、う○こ座り体制へ。試しにツルツルしている所に足を置いたらズルっといきかけたので、ざらざらしている所を選んで足を効かせて登っていく。怖いけど落ち着いていけば難しくはなく、あっさりてっぺんへ。でも落ちられないクライミングなので、思わず叫んじまった。Fo!

テキサスフレークに吸い込まれるロープ

日没直前にケリーパーティが追い付いてきて、結局El Cap Towerは6人泊となったが、それでも余裕だった。さすがの広さだ。でも小便臭い。あぁ、スプライト飲みたい。以降毎日、スプライトのことばかりが頭に浮かぶ。
例のドイツ人パーティに、「キングスウィングも出来ないからFixしてくれ」と頼まれるも、ペース合わない気がしたので、曖昧に返事を濁す。結局ケリーパーティがFixしてあげたらしい。出来ないって分かっていながら、何で来たのだろうか。フリーラインから行けばいいのに。

エルキャプタワーにて。なぜか正座。

9/20 DAY2。 16~20p Camp 4泊
5:30行動開始。まずは荷上げロープをフレークの外に回そうと試みるも、櫻田さんの介助なしには無理だった。ユマールの櫻田さんも苦戦していて、荷物はフレーク下部残置の引っ張り上げで突破してきた。でも、腰に付けていた500mlの水を落としてしまったそうな。

16ピッチ目:C1+(リード:河合)【Boot Flake】
まずはボルトラダー。徐々に間隔が遠くなる。ブーツフレークに入る最初のピトンスカーにナッツを決めたらぶっ飛んで、さかさまフォールしてしまった。げんなり。エイリアンはしっかり決まった。その後もプロテクションはいまいちで緊張していたら、残置の後でやっと快適なハンドになった。ケリーパーティもドイツ人パーティのFix使って登ってきたらしく、すぐ追いつかれた。17ピッチ目:5.10b or C1(リード:河合)【King Swing】
遂にKing Swingだ!事前の慶應の学生情報を元に、右側の支点から振ってみるも、うっかり右寄り過ぎて全然届かず、すぐユマールバック。疲れた。次に、左端のボルト2つの終了点のうち右側を使って振ってみるも、中々届かない。一回惜しくて体制崩した時に、腰を強打してしまった。痛ぇ。結局ロープがフレーク左側に移行し、回転半径が小さくなり、左端ボルト使っているのと同じになってしまった。その状態で振って辛うじてキャッチ。30分位は格闘しただろうか。トポでは20 feetブーツフレークの下と書いてあったが、私はさらに降りてブーツフレークから数えて3つ目のボルトに足が来る位で振った。降り過ぎたかなと思ったが、後で追いつかれるガイド曰く、3つ目のボルトが胸元位だといいらしいとのことで、よくわからない。

ブーツフレークを見下ろす

Eagle Ledgeにセルフを取り、♯0.2~♯4カム1セット、水、ホールラインを送ってもらい、絶対に落ちられないC1を超慎重にこなして、終了点へ。あぁ、めっちゃ疲れた。
櫻田さんはセルフロアーダウンでトラブルあるも、何とか通過してきたのでよかった。

18ピッチ目:5.10b or C1(リード:河合)
ブーツフレークとキングスイングであまりに疲れたのでリード交代を打診するも、櫻田さんも体調不良だったので、引き続き河合リード。イモ虫ペースとなる。出だしのフレークは取れそうで怖い。しかも途中でハンドジャムをきめようとしたら横にいたミツバチに右手親指を刺される。文字通り泣きっ面にハチで、泣きながら終了点へ。指痛ぇ。Camp4で櫻田さんに虫刺されの塗り薬を恵んでもらう。助かった。19ピッチ目前半:5.10d or C1(リード:河合)
フリーラインのリン・ヒルトラバースは、A0でも5.10dのフリーを要求されるので、オリジナルラインへ。ケリーパーティがフリーラインで追い越しをかけてきた。ケリーパーティがいたので、正規19ピッチ目手前の終了点でピッチを切る。ユマールの櫻田さんは、最後、登り切った振り子支点から、河合ビレイのロアーダウンでフォローしてきた。ナイスアイディア!19ピッチ目後半:5.7(リード:櫻田)
ここで長らく順番待ち。なんとドイツ人パーティが、全てケリーパーティにFixしてもらって追い越しをかけてきた。げんなり。河合は完全に終わってしまったので、リードチェンジ。落ちられない5.7の下降をこなし、正規19ピッチ目終了点へ。岩もルースだし、これはフォローも怖いよ~ユマールじゃなくて、フォロー確保の方が安全かも。20ピッチ目:5.11a or C1(リード:櫻田)
クラックに入るまでが悪いようで、櫻田さんが極小カチを保持している。その後、薄いフレークにカムを決めて乗り込んたら、フレークごと吹っ飛んでフォール。この周辺は岩が安定していなくて浮石もあり、要注意だ。このフォールで櫻田さん携帯の液晶にヒビが入ってしまった模様。Camp4に16:30頃到着。今日はこれ以上進む体力も時間もないので、Camp4泊を決断する。 次のピッチをFixしようとしたら、ガイドパーティが来てがちゃがちゃポーターレッジ設置などを始め、交錯するのでFix不能となる。しかも「お前らを見てたが、遅い。明日俺より先行して遅かったらぶち切れるから、先に行かせろ、朝6時には俺らは出発する」と脅してきた。遅かったのは事実だし、壁でのトラブルは面倒なので、おとなしく従うことにする。この判断が翌日以降に大きく影響することとなる。先行を了承したら途端に機嫌がよくなったので、暇つぶしに色々情報をもらう。
元Yosemite Search and Rescueの人で、「El Capで最も良いルートは?」「そりゃMescalitoさ!でもShieldもいいな。Salatheも素晴らしいぜ」。ガイド料金は6000ドルだそうな。(客は全ピッチユマールだけで荷上げなし。練習は2日間。クライマー感覚だと、そこまでして登りたいのかなという感じ。)ホールバック2つとポータレッジをボディーホーリングで上げていた。クレイジーだ。
寝床は斜めでずり落ちてきて寝心地悪かった。しかも漏れなく小便臭い。朝、櫻田さんの手が滑り河合の寝袋がグランドフォール。ダウン上下とシュラフカバー、河合の使ってないダウンがあったので問題はなかったが、転がり落ちていった瞬間は目に焼き付いて離れない。後日探しに行ったけど見つからなかった。ガイドに「敗退したら?」と煽られるも、笑顔で拒否。

キャンプ4

9/21 DAY3。 21~24p、25p目Glowing Spot Fix、Camp5泊
ガイドパーティが中々出発しない。お前ら6時に出発すると言ったよな!何で6時に起床なんだよ!結局7:50にやっとこ出発、我々がスタートしたのは8:40となった。まったく冗談じゃないぞ!

21ピッチ目:5.9+ or C1(リード:櫻田)
一箇所トラバースあるも、概ね易しそう。櫻田さんも先の件でブチ切れ、猛烈な勢いで登ってガイドに目に見える圧力をかける。ガイドに「お前は早いな」と言わせたそうな。さすがっす。22ピッチ目:5.13d or C2F(リード:櫻田)【Great Roof】
Great Roofだ!当然ガイドパーティが詰まっており無限待ち。リードのガイドも別に早くないじゃないか。櫻田さんはテンション高めで好調のようだ。すいすい登っていく。ユマールしようと思ったらワンデイパーティが追い越しをかけてきて、また40分位待たされる。うぅ、進まない。フォローはガンガン音楽かけている。音楽は軽量化には含まないってことか。聞けば、15回目のノーズで、うち12回はワンデイだそうな。
Great Roof自体は残置が豊富で、抜け口のカム決める所以外問題なさそうな感じ。ユマールの私はセルフロアーダウン2回と若干のエイドトラバースとなった。23ピッチ目:5.11c or C1+(リード:櫻田)【Pancake Flake】
Pancake Flakeだ!でもエイドでガシガシ。フレーク終わってからのC1+のセクションで櫻田さんのスピードがぐっと落ちる。悪いみたいだ。うっかり櫻田さんのホーリング準備完了前に、ホーリングラインのテンション来たのでホールバックのリリースをしてしまった。すんません。強風でビレイヤーはロープを飛ばされないよう必死でマネジメント。24ピッチ目:5.11a or C1+(リード:櫻田)
出だしのクラックが奥まっていて大変そうだ。途中で左に移り、Camp5まで。でも、ホールバックが途中までしか上がらない!仕方なく一度降ろして仕切りなおす。リードロープとホールラインが見えない位置で交錯していて、何とかしたが時間食う。後ろから素早い陽気な3人パーティに追いつかれかける。櫻田さん最後に60cmスリング落とす。ほんとお疲れ様でした。

ピンボケ!

25ピッチ目:5.12d or C2(リード:河合)【Glowering Spot】
上にいるガイドのクライアント情報では、既に4人いて、満杯らしい。(後で追いついて聞けば、ガイドパーティの2人しかいなかったとのこと。嘘じゃねーか怒。)ということでCampⅤ泊まりとし、後続パーティへの先行意志を示すため、上側のGlowering Spotの取付で河合、その下で櫻田さんが寝ることにし、Glowering SpotのFixをやってしまうことにする。
Glowering Spotは俺に任せろ!ということで河合出撃。悪いと噂で聞いていたので緊張。ところどころ残置のナッツがあるが、基本はピトンスカーにオフセットナッツやマイクロカムを決める作業が永遠と続く。今回自分がリードしたピッチの中で、最も嫌らしいピッチだった。右側のクラックに移ってからは楽になった。ぎりぎりヘッデン残業を回避しFix完了。 Glowering Spot取り付きの寝心地は悪く、何度も落ちそうになったが意外と寝られた。職場のデスクやら床やらカビ臭い書庫やら、ブラックかつ劣悪な環境で寝泊まりしていた経験が思わぬ所で役に立つ。
夜中は、陽気な3人パーティが下界のファンキーな人たちとFo!と鳴き交わしていた。ホエザルかと。私も混じって吠えていたので同類か。Fo!!

9/22 DAY4。 26~31p、ヨセミテ滝経由で下山
今日はヘッデン残業してでも、何が何でも山頂に抜ける計画だ。気合が入る。

26ピッチ目:5.11b or C1(リード:河合)
5:20スタート。Glowering Spot終了点からボディーホーリングしてから、長いエイドのピッチ。コーナークラックでリーチが稼ぎ辛い。幅が広くなってからはフリーを交えつつ、終了点のキャンプⅥへ。今回の疫病神のガイドパーティがChanging Cornersをノロノロとリードしていて、1時間以上待たされる。キャンプⅥ付近は特に小便臭い。多分ジャミング決めているクラックも小便まみれと思われる。おぇ~27ピッチ目:5.14a or C2(リード:河合)【Changing Corners】
恐らく最後の核心となる、Changing Cornersだ。絶対抜けるとの固い意志で臨む。最初は長いC1セクション、その後ボルト3つをスリング掴んで登り、件のコーナーに入る。出だしはナッツ効かずオフセットエイリアン極小、次にナッツ♯3、さらにオフセットナッツ♯3辺りを順に決めて、残置を掴む。コーナーに入るエッジが立っていて、ロープ切断が怖いので落ちたくないところ。C1セクションに入ってカムを決めてからバッククリーンしていたら、指がコーナーと挟まって流血してしまった。なお、コーナーのロープ擦れるところはダクトテープが一応貼ってある。その後終わらないC1をこなして終了点へ。とても長いピッチで、リードに1時間半以上かかった。ユマール時にもロープが痛まないよう、コーナーチェンジの所のロープの流れには要注意だ。

コーナーチェンジの直前

28ピッチ目:5.10d or C1(リード:櫻田)
Changing Cornersで絞り出して憔悴していたらしく、櫻田さんがリードを交代してくれるという。頼りにしてます。左右クラックどちらでも登れそうで、櫻田さんは直上を選択。さくさく進むけど、早く1ピン目クリップして下さい(泣(忘れていたそうな)。

終了点直前

29ピッチ目:5.10d or C2F(リード:櫻田)
まだいけるというので、櫻田さんにもう1ピッチお願いする。ほんと頼りにしてます。C2Fとなっていたが、櫻田さん曰くあっさり抜けられたそうだ。でも、ホールラインとメインロープが交錯してしまい、また荷上げを途中で止めてもらうことになった。Wild Stanceまで。×印のあるデカい岩があったので触らないよう注意。

ワイルドスタンスから見下ろす

30ピッチ目:5.10c or C1(リード:河合)
河合が復活してきたのでリードチェンジ。もう終わりは見えている。櫻田さんは既にグシュグシュしている。頂上はまだっすよ?
御褒美の超快適な5.10cの短いクラックを登って、さあ終了点と思ったら、「ないじゃねーか!」トポに記された終了点が見当たらず、櫻田さん得意の外人サイズのボルトラダーをチビの河合が頑張ることに。ろくにヌンチャク持ってきておらずランナウト、何とか最後の右巻き手前の終了点に辿り着く。

ご褒美クラック。超快適。

31ピッチ目:5.5(リード:櫻田)
フォローの櫻田さんが呻いている。なんでも、ハングのユマールでハーネスと肉が挟まって激痛で発狂しそうだったとか。落ち着いてから、フィニッシュは櫻田さんにきめてもらう。
右からハングを巻いて登っていったがいつまで経っても声が聞こえない。ロープが上がり始めたので、どうやら着いたようだ。ここで問題発生。①メインロープとホールラインがまた交錯。②1ピン目に河合のリーチでは届かないが、ロープ巻きあげ切っており、セルフロアーダウンできない。①はメインロープをほどき、②は60cmスリングを捨てることで解決した。最後まで油断できない。 岩の上にある終了点を過ぎると、夢にまで見た終了点の松の木と櫻田さんが見えた。でも、足元のフレークでロープがスタックする。仕方ないのでロープやアブミを巻いて被って進む。土の上に足が乗った瞬間、視界がぼやけた。松の木にタッチした。泣いた。櫻田さんと抱擁。櫻田さんも泣いている。何度も無理かも、と思ったけど、諦めないで頑張ってきてよかった。
16:51、ザ・ノーズ完登。

ロープゾンビ出現
例の松の木にて

落ち着いてから記念撮影、17:40下降開始。指がボロボロで痛い。時間が遅いのでイーストレッジは却下、明るいうちにヨセミテ滝トレイルへ合流すべく、El Capitan山頂を目指す。

ホールバック重い!泣きそう

その後は明瞭なトレイルを、途中夕食摂ったり、水汲んだりしながら、櫻田さんのGPSナビゲーションで23:10 Camp4帰着。借り物ホールバックのショルダーがブチ切れたり、足元がツルツルで滑ったりで、とても疲れた。リンゴ食べて爆睡。

9/23 レスト
朝起きて、予備で持っていた50ドル札を握りしめ、朝食を食べに向かう。途中で横浜から来た日本人パーティに出会い、情報交換。同じくノーズを狙っているそうな。ご好意で車回収の車を出してもらった。ヨレヨレだったので助かった。代わりに知りうる限りのノーズ情報をお渡しする。うまくいっているといいなぁ。
朝食で念願のスプライトをガブ飲みしていると、一足先にゴールしていたケリーパーティと再会!なんでも、最後までドイツパーティのFixをさせられたそうな。お疲れ様でした。El Cap ReportのTom Evansが明日来るから写真もらえるよと教えてもらう。
その後はギアの整理。河合のヌンチャク2つ、ナッツ4つ消失していて、なぜかオフセットカム1つ、カラビナ2枚増えていた。どこで落としてどこで増えたのだろうか、謎だ。河合はトポも1枚落としていた。

ギアの皆さん、お疲れ様でした

エルキャプメドウに記念写真も撮りに行った。出発前に見たよりエルキャピタンが低く感じた。今日もノーズにはたくさんのパーティが取り付いている。他の得体のしれないルートにも点々と。
その後ノーズ取り付きに寝袋を探しに行ったが、見つからなかった。さらば私の♯5よ、永遠に。Camp4の延長はできなかったので、ベッドで寝たいとの櫻田さんの希望を叶えるべく、空きのあったHouse Keepingに移動。シャワーを浴びて、ビールで乾杯!

9/24 Cookie Cliff、Church Bowl Treeフリー
この日は、朝Tom Evansを訪ねた。黄色いダウンパーカー着ていて、パソコン出しているのですぐわかった。「お前らは派手な服着ていて進みがゆっくりだったので、写真撮り易かったぜ」と褒められるも、素直に喜んではいけない気がした。ルートの話も色々教わり、写真をSDカードに入れてもらい、1人20ドルを支払う。苦労を考えれば安いもんだ!
その後は現地で知り合った日本人のIさんとショートピッチで遊ぶことに。
まずはCookie Cliffに向かい、Pringles 5.11a(ボルトルート)をトライ。取付が山火事の後で灰だらけだ。Iさんにヌンチャクかけてもらったけど、ボルト遠くて悪くて恐怖。5.11c位に感じた。足指痛くて、2便出せず、RPもできず。

Pringles5.11a。激辛。外人サイズか

その後Cookie Monster 5.12aやOuter Limits 5.10cを見学するもやる気力なし、お気軽エリアのChurch Bowlに移動。
Churh Bowl Lieback 5.8、Church Bowl Tree 5.10bをフラッシュした所で力尽きた。

Churh Bowl Lieback5.8。快適。
Church Bowl Tree 5.10b。渋い。

足指痛い、手指も痛い。Church Bowl Treeはまたピトンスカーでプロテクションセットが悪かった。

9/25 ヨセミテ→サンフランシスコ→飛行機
早朝にヨセミテを出発し、サンフランシスコまで。4時間ちょっとで着いた。

9/26 帰国
帰りの飛行機で喉腫らした。明らかに過労だ。

【総括】
今回、一部他パーティのFixを使うなど、完璧なスタイルではないですが、無事The Noseを3泊4日で完登することができました。スタイルについては残置の使用、初日のFixなど、言い出したらきりがないですが、自分達の実力、現場の混雑を鑑みてこれが限界でした。
反省点はたくさんあり、次の機会があればもっとうまくやれるんじゃないかと思います。でも、正直、しばらくビッグウォールは勘弁願いたいところ。次はフリークライミングを楽しみに、ヨセミテにまた行きたいな!

私が感じた、ノーズを登るのに必要なもの
・フリークライミング力より、体力!
(荷上げ、重いガチャ、長い日数。冬山を登る体力に近いかもしれない。)
・トラブルに動じない落ち着いた心と、対処の引き出し
(大体想定外のことが起きるので、落ち着いて対処しましょう。)
・そして何より、思いを同じくする、グッドパートナー!
(櫻田さん、一緒に頑張っていただき、本当にありがとうございました。)

日本や現地で御世話になった皆様、どうもありがとうございました。現地では特に慶應大学の皆様や、サイト29を共有した皆様にとてもお世話になりました。Iさんも、フリー付き合ってくれてありがとう。

もしノーズに挑戦したいと思っていて、技術やルート情報など諸々、疑問に思われることがありましたら、当ホームページの連絡先から、遠慮なく河合までお問合せください。私自身も経験者からアドバイスを頂きました。同様に夢を追いかける皆様のお力になれればと思っています。今後トライされる皆様の幸運を祈ります。

【おまけ1、道具リスト】
・カム:♯00~♯4 ×3、♯5×1、オフセット小さい方から1セット(4つ)
・ナッツ:オフセット、ノーマル 各極小~大まで1セットずつ+ブラスナッツ1セット
・ロープ:60mシングル、60mセミスタティック、60mハーフ(リリース兼予備)
・ジャミングプーリー×4
・クイックドロー×20
・ホールバック120lスイベル付き
・サブザック25l
・その他カラビナたくさん、グリグリなどロックデバイス、チューブデバイス、ユマール、エイダー、デイジーチェーン、スリング、捨て縄等。持って行き過ぎた気が。

【おまけ2、ヨセミテの図々しい輩たち】

リス
アライグマ