前穂高岳 屏風岩雲稜ルート

1998年12月30日~1999年1月3日
向畑(記、♂37歳)、富安(♂25歳)、倉田(♀25歳)

~最初に感想~

雲稜ルートは、当初比較的軽く考えていたが、T4尾根を含めて部分的に悪く、結構登りがいがあった。

積雪状況は、いろいろな人の話を総合すると、平年よりは少なく、寡雪であった昨年よりはかなり多いという感じだが、入山前夜の29日夜から30日、31日夜から1日未明、2日とかなりの量の降雪があり、割と充実した冬壁登りとなった。

年齢が1回り離れた若手2名は、次々と浴びせ掛けられる小言にもいやな顔一つせず、重荷にもめげすよくがんばっていた。

おかげで、良い正月山行になったと思う。

12月29日

夜行で松本へ。

12月30日

タクシーで釜トンネルゲートへ、途中から小雪がちらつき、釜トンネルでは本格的な降雪となり、上高地では吹雪。

横尾の冬季小屋には13:00過ぎに付いたが、やることもないので、明るいうちからさっさと寝てしまった。

12月31日

3:00起床、4:30出発。

天気は曇り、たまに晴れるが一時雪。

1ルンゼをつめ、7:00頃にはT4尾根取付きに到着。

順番待ちの場合は、ディレッテシマルート経由でT4まで登るつもりだったが、先行は1パーティのみ、しかも2人パーティなので、そんなに時間はかからないだろうと思い待つことにした。

結果はかなりの時間を待つことになってしまったが、スラブには氷はなく、ホールドには氷雪の付着が激しく、登ってみるとかなり悪かった。

1ピッチ目、アブミからダブルアックスでビレイポイントへ、一気に2ピッチ目の終了点までロープを伸ばしたかったが、上がつかえているので細かく切って行くことにする。

2ピッチ目はさらに悪く、先行パーティはセカンドまではまっている。

おまけにアブミが1台と、プレート1枚だけの簡易アブミがヌンチャクとともに残置されている。

残置アブミ最上段から、さらに支点にかかっているカラビナにアイゼンの前爪をねじ込んで立ち込み、フリーからダブルアックスで潅木帯に抜ける。

アブミは後続のユマーリング隊に回収してきてもらう。

さらに潅木帯と尾根上を2ピッチ、ルンゼ状の岩場1ピッチでT4へ。

時間は既に14:00を回っている。

しかも、別パーティが雲稜ルートを登っている。

蒼稜ルートを登っているパーティもいるため、大テラスをあきらめT4泊りとし、荷物を置いてフィックス工作を開始。

せめて2ピッチはフィックスしておきたかったが、上に人がいるため、1ピッチ目終了点から下降、16:00ごろ終了。

1月1日

夜から降雪が激しくなり、何度か除雪を考えたがそのまま朝まで寝てしまった。

4:00に起きるが、ツェルトが埋まって身動きが取れない。

1人ずつ靴を履き除雪、ツェルトをはり直し、再び潜り込んで朝食。

快晴のなか、登り始めたのは8:00近かった。

フィックスをユマーリングし、2ピッチ目へ。

5mほど登ったところで、フリーを1ポイント省略しようと思いアングルピトンを打ったが、カラビナにアングルがたくさん通るよう携帯用に付けてあった4mmスリングに、不用意にアブミをかけたらスリングが切れて墜落、せっかく登ったのにビレイヤーのすぐ上まで戻ってしまった。

再び登り直し、ピナクルを回り込んで3ピッチ目のビレイポイントへ。

3ピッチ目は最初ピンが全然見当たらなかったが、雪を払うと次々と現れ、ほぼ人工でピナクルへ。

さらに雪の詰まったバンドをダブルアックスで扇岩テラスへ。

時間は既に14:00、この時点で当初計画していた屏風の頭経由での下山をあきらめ、テラスに不要な荷物をデポする。

4ピッチ目はA1の人工、5ピッチ目は後続のユマーリングを考え、オリジナルの直上ルートを登ろうと思っていたが、気が付いたら既に右トラバースルートに入っていた。

ハング下をトラバースし、東壁ルンゼに回り込んだところでピッチを切る。

後続2名は、斜上のユマーリングにかなり苦労しながら上がってきた。

17:00を回っていたので本日はここまでとし、50m目いっぱいの懸垂で扇岩テラスへ戻る。

後続2名は、今度は斜め懸垂のランナーの架け替えで苦労している。

さらに大テラスに下り、19:00ごろビバークに入った。

1月2日

寝たのが22:00と遅かったため、5:00起きにした。

今日は朝から雪が降っている。

扇岩テラスに登り返し、50mのユマーリングで昨日の到達点へ。

6ピッチ目、東壁ルンゼ内の1ポイントのフリーが悪く、エイリアンの人工でテラス状のビレイポイントに這い上がる。

続く最後の2ピッチが核心となった。

7ピッチ目、ルンゼ状スラブに氷がびっしりと張り付いている。

傾斜は約60度、アイスグレードで4級程度だと思うが、何分氷が薄い。

多分使えないと思うが、アイスハーケンのたぐいは1本も持参しておらず、残置地支点も下から見る限り1本も見当たらない。

何よりも、満月のような前爪の岩専用のアイゼンが心もとない。

ビレイポイントは浅打ちボルト3本だが、周辺にハーケン、ボルトが数本乱れ打ちされているうえ、テラスの下部には立派な立ち木まである。

一応ロングフォールに備え、立ち木にテンションが掛かるように上のビレイポイントと分散荷重にしてもらい、周辺のハーケン、ボルトを連結し、最初の衝撃はそこにかかるようにロープをセットして出発。

10mほど登り、傾斜が一段と強まる手前でアックスにテンションを取り休憩、ぶら下がりながら右側壁の氷雪を叩き落としたら残置ハーケンを発見。

ついでにクラックにエイリアンをねじ込み、固め取りする。

使える氷の幅は狭く、流心をはずれると、アックスが岩をたたき火花が散る。

このころから降雪が一段と激しくなり、ものすごい量のスノーシャワーを一発食らった。

さらに10mほど登ったところで右側壁にボルトを発見、さらにロープを伸ばし、左露岩の雪を払ったらボルトが出てきたところで「あと5m」のコール。

ハーケン2枚をねじ込んだが、1枚の効きがあまい。

しかたなく、生涯使わないと心に決めていたボルトを1本打ち足した。

8ピッチ目、ルートは氷から雪交じりになってくる。

傾斜は幾分落ちてきたが、氷雪は安定しておらず、だましながらの登はんが続く。

残置支点も発見できなくなり、あまりにも頼りないブッシュを掘り出し、一応ランナーをセットする。

25mほど登ったところで金属物のようなものを発見。

待望の支点かと思って雪を払ったら、バイルが氷雪壁に刺さっていた。

リストループにはカラビナがかけてあり、ここまで来て行き詰まり、バイルを支点にして下降したらしい。

有り難く回収させていただき、さらにロープを伸ばす。

「あと10m」のコールがかかったころ、雪壁のどん詰まりにある最初の潅木に到着。

掘り返して見ると、下からハーケン、ボルトが連打された岩も出てきた。

正確な終了点はどうもよくわからないが、この辺で多分終わりだろうと思い、ここから下降開始、13:30。

東壁ルンゼ沿いに2ピッチ、そこからルンゼを離れ、オリジナル直上ルートどおしに2ピッチの懸垂で、ほぼダイレクトに扇岩テラスに到着、15:00。

かなりの降雪量で、朝登り始めた時よりテラスが一段上がっている。

テラスで上の2人を待っている時、朝から気になっていた1ルンゼの雪崩の一発目が出た。

大テラスに下って大急ぎで装備を撤収。

大テラス下側の支点からだと1回の懸垂でT4に届くが、埋まっていて使えないため、通常の支点から目いっぱいスリングを伸ばし、その末端から懸垂したら下まで届いた。

T4の支点は埋まっているので、1本目の立ち木までクライムダウンし、そこから懸垂。

さらにブッシュを支点に1ピッチ下るが、尾根の形状が変わるほどの雪で、途中から左に寄り過ぎたため、腰までの深雪にあえぎながら軌道修正、40mほど伸ばしたらロープが引けなくなってしまった。

富安君に途中まで降りてもらいロープを掛け直したら、今度は引きロープと反対側のロープがブッシュにからまって来なくなった。

仕方がないので富安君に尾根を少し登り返してもらい、できるだけ上の方でロープを切ってもらったら40m以上回収できた。

もたもたしているうちに真っ暗となり、ヘッドライトを付けての下降となる。

50mロープシングルでT4尾根2ピッチ目の終了点へ。

1ピッチ目上の支点に行くには、かなり左に寄った斜め懸垂となるため、回収できた40数mのロープをフィックス、末端に八の字を作り、そこからさらに懸垂するという荒業を敢行。

しかし、降雪と尾根上からのスノーシャワーで、2日前に登り始めた時より取付きが2m近く上がっており、1回目のフィックスロープの懸垂で、あっけなく下まで届いてしまった。

続いて倉田さんが降り立った時に、1ルンゼ上部から轟音が聞こえてきた。

2人で側壁に張り付いていると、約30秒間程度、暗闇と風雪で何も見えないが、背後を雪崩の音が通り過ぎて行った。

規模の大きなものはしばらく出ないとは思うが、降雪は続いており危険な状態に変わりはない。

デブリの跡を下るのが最も早いが、恐ろしいので、左側の樹林帯沿いに下降する。

途中からトップを代わってもらった富安君が、腰までのラッセルを物ともせず、ものすごい勢いで駆け下って行く。

「1分1秒を争うから急げ。」

と言っていた本人は、最も荷物が軽いのにもかかわらず、2人から遠く遅れながらよたよたと付いて行く。

樹林帯に入ると、2人の姿は完全に見えなくなった。

もう大丈夫かと思ったが、5年ほど前、当時はまだあった樹林帯の岩小屋の中で休んでいたら、上を雪崩が通過していったことや、出合いの川原に達する規模の雪崩も出る事を聞いていたので、休まないで下降を続けた。

ふらふらになって川原を渡り、対岸の登山道についたら、2人はずいぶんと長い間、荷物も置かずに待っていてくれた。

横尾の小屋に入ったのは、20:00近かった。

1月3日

8:00ごろ起きたが、なかなか誰も寝袋から出ようとしない。

ゆっくりと朝食をとり、装備を整理して10:30ごろ出発。

天気は晴れたり曇ったりで、たまに雪もぱらついていた。

途中、徳沢、明神、上高地、大正池ホテルと、各お休みポイントごとにのんびり休憩しながら帰路についた。

釜トンネルゲート着15:00ごろ。

~最後に~

収穫:
バイル = 1本(ブラックダイヤモンド製)
アブミ+簡易アブミ = それぞれ1台
ヌンチャク = 1本
カラビナ = 7~8枚(どういう訳かいっぱい残置されており、あちこちにぶら下がっていた)

損失:
ロープ = 1本(50m)
カラビナ = 2枚(落とした)
アングルピトン = 1本(前進用、「抜いてきてくれー」と主張するのを忘れた)
ナイフブレード = 1本(懸垂支点用)
リングボルト = 1本(アンカー用)
スリング = 多数

 

 

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