剱岳 小窓尾根~剱尾根R4~早月尾根

2001年5月3日から4日間
森広、大滝(記)


R4に昔から憧れていた。

ガイドブックで見るその姿は、急峻で陰惨な印象だ。

幾ら「実際に取り付いてみると見た目ほどの傾斜はなく、、、、」

と書かれていても怖い写真を見せられては、恐怖心は拭えない。

去年、登ったことのある人から話を聞く機会があり、技術的には難しい所はないとの事。

これでR4が一気に射程距離に入った。

2日 23:54 急行能登

3日 上市駅よりタクシー(6,790円) 7:40 馬場島 曇り 9:30小窓尾根取り付き 尾根に上がる最後の草付が怖かった。

のそのそ歩いて11:45 1614m台地 昼前からテントを張っているパーティがいた。

ここからは池ノ谷と剱尾根方面が一望の元に見渡す事が出来る。

初めてなので興奮する。

12時のトランシ-バ-交信で、櫻井、柴田組が1日、2日で八峰を登って、今日は天気が悪い為、雪洞の中で休養するとの事。

登り続けていたら、雨が降り出し、身体を濡らし始めた。

暫く我慢していたが、1900m辺りの台地に他のパ-ティが幾つもテントを張っていたので、ここに泊まることにした。

13:40 台地の奥に窪みがあったので、そこに張ったら風も当たらず快適だった。

水も雪の雫で取れた。

小雨降り続く。

4日 6:05出発 無風 快晴

森広さんはここが二度目なので、「アイゼンは必要ですか。」

と聞くと「要りません。直ぐに雪が腐るでしょう。」

トレースもしっかりしているし、そのまま登って行く。

高度が上がるに従い、赤谷尾根の向こうから猫又山がその威容を現して来る。

どっしり落ち着いた大いなる山塊だ。

やがて岩場になって先行パーティがロープを出しているが、森広さんが「ロープを出した覚えはない。」

と言うので、隙間を行かせてもらう。

岩の痩せ尾根だが落ちる気はしない。

渡り終えると7、8m懸垂し、一旦コルに降りる。

正面の雪の無いブッシュ壁を何人もロープを使って登っているが、前のパーティが左の雪壁を巻いて行った。

のこのこついて行ったら、問題なく尾根に出られた。

ラッキー。

暫くすると、また、雪なし壁に何人も張り付いている。

しかも動きが遅い。

右を観察すると雪線どうしで行ける気がしてきた。

前のパーティも同じ事を考え、右から行ったのでついていく。

急なブッシュ壁を15m程ぐいぐい登ると雪上に出た。

後は容易な露岩とハイマツ帯を行く。

他のパーティはロープを使っている。

マッチ箱と言う所に来たらしい。

らしい、と言うのは、今山行はR4の事ばかり調べていて、小窓尾根については、森広さんが経験者なのでほとんど調べていない。

多くの人がロープとアイゼンで越えていくが、我々は何も無し。問題もない。

マッチ箱を終えた地点で12時の交信。

櫻井PはR4に行くべく谷を降りたが、その谷は池ノ谷ではなく、行きづまってしまって、下山することにし、早月尾根にいるそうだ。

向畑、倉田、浅野Pは4日入山し池ノ谷の二俣まで行くそうだ。

三好、木下、榎並Pは黒部横断、八峰、そして、今、早月を下山中。

一緒になった人から、「R4はびしょびしょと水が流れていると馬場島の掲示板に書かれていました。」と聞かされた。

そうだろうか、そうだとしても高い所だから、冷え込めばまた氷が出来るのじゃないか。

駄目でも取り付きまで行ってみよう、と考えた。

疲れた体に鞭打って歩き、R4と正対する所でじっくり観察する。

確かに薄いが氷は着いているように見える。

取り付きにロープを巻いている人が見える。

三人位だ。

と言う事は途中まで行けると言うことだ。

少し、希望が出てきた。

小窓ノ王の岩場の下から、雫が沢山落ちていた。

4リッターも汲んでしまった。

長い時間、順番待ちをしたので、三ノ窓には、15:15着 テントは10張位。

5日 4:17 起床 薄曇り いよいよ本番だ。

アイゼンを着け5:30出発 良く締まった池ノ谷をとことこ降る。

5:45取り付き 上がハングでバンド状になっているので直ぐ判る。

天気は快晴になった。

取り付きにハーケンが一本だけだったので、森広さんが一本打ち足し、 6:00登攀開始。

大滝が行く。

森広さんが調子悪かったので、結果的には、大滝が殆どリード。

右にトラバースして行くと、ボルト、すぐ近くにハーケンがある。

4級位のせり出した岩を、よいしょっと乗り越し更にトラバース、ベルグラが張り、バンド幅が狭くなり微妙な動きを強いられる。

ハーケン2本にランニングを採り、氷壁に突入。

最中氷と言う感じで表面は堅いが中は雪だ。

ピッケルのピックが岩に当たらないか気になる。

1P目終了点に3人Pがいた。

信州大の人達。

ボルト一本で確保。

先行はがんがん行く。

2P目 氷をトラバースし狭まった滝の下の残置ハーケンで採る。

シュリンゲが束になっているので、下降点になっているらしい。

1P目をここまで伸ばしてもいい。

もう一回残置ハーケンから出ているシュリンゲで採る。

入口は容易だが5mほど立っている氷が出てくる。

でも、でこぼこしているし、両側の岩に足を突っ張れば、疲れずに登れる。

傾斜が落ちどんどん登る。

ロープが一杯になったので、少しでも厚い場所を探してスクリュー2本とピッケルでビレー点を作る。

心許ないが森広さんなら落ちないだろう。

3P目 森広さんがハング下まで伸ばす。

傾斜は緩い。

4P目 右開きのチムニー。

氷は薄いが、有る。

先行はスクリュー2本で「楽しい、面白い」と叫びながら登っている。

傾斜が緩いので、落ちる感じがしない。

先行が穿った窪みに弱い力でアックスを打ち込み、幸せに登っていく。

チムニーを抜けると広くなる。

途中、左にあるボルトで採り、ロープ一杯でボルトとスクリューで切る。

5P目 広く、浅いルンゼを行く。

氷と言うより堅雪。

陽光を浴びて幸せだ。

また右開きチムニーがある。

スクリュー2本で楽しく登る。

このチムニーもさっきのチムニーも3級程度に感じる。

楽しいだけだ。

雪面に出てぐいぐい歩いて、スタンディングアックスビレーで切る。

6P目 森広さんが行くが、先行Pが草付壁で難渋している。

時間が掛かりそうだ。

昨日、小窓尾根から観察していたら、右巻きの雪ラインで行ける気がした。

トップ交替し大滝が行く。

ドーム裏を回り込んで適度な間隔のブッシュでランニングを採りながら、6P、7P、8Pで終了。

11:30先行と一緒になる。

コルB 12:00 一回懸垂した後、壁向きで歩いて降りる。

池ノ谷を気だるく登り返して、2時前、三ノ窓。

時間があるので早月尾根の途中まで行くことにした。

16:40 誰も居ない夕前の剱岳山頂。

何と贅沢な時間。

荒井さんの冥福を祈った。

2800m辺りで泊まり、6日 無事に下山。

(装備)

スクリューハーケンを5本持参したが、3本しか使用しなかった。

5本以上は要らない気がした。

(今回のポイント)

ルートを直ぐに諦めない。

最後の泊まり場で、テント設営の為に繋いだポールを不用意に雪面に置いたら、急な斜面を滑って行った。

運良く5 – 6m下で見つかった。

気をつけましょう。

R4 長く夢見てやって来た 此処には氷が有ーる ほう

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