1999年7月20日~7月31日
畠中(記)
慣れない就職活動で傷ついた心を癒しに、一人南アルプスへ向かった。
長い長い稜線をのんびりと歩きたかった。
「そのまま居付いて仙人になってしまおうかな。
職業仙人っていうのも悪くないな。
それとも鳥になるかな。
荒川岳あたりからなら飛べそうな気がする。
職業鳥っていうのも良いな。
でも、自分の子供が『おまえの父さん鳥なんだろ。クェー・クェーって鳴いてみろよ。』なんていじめられでもしたら困るな。」という思いと共に。
7月19日(出発日)
八王子に関さん、三好さん、水柿ちゃんが見送りに来てくれた。
酒を飲んで楽しくしゃべった。
はじめは山の話だったが、いつのまにか水柿ちゃんの得意の話になっていた。
まあ、関さんも私も嫌いではないが。
差し入れも戴き、本当に嬉しかった。
深夜0:29に急行アルプスに乗り、すぐに寝てしまった。
7月20日(1日目) 雨
ぐーすか寝ていて危うく乗り過ごすところだったが、何とか甲府で下り、バスを乗り継ぎ8:15に北沢峠着。
長衛小屋にテントを張り、甲斐駒をピストンした。
今日は雨で展望もなかったが、空気がおいしく、「やっぱり山最高」
と初日から感じた。
14:05テント場着。
7月21日(2日目) 風雨
ラジオで、午前中は天気が良くて午後から崩れると言っていたので、気合いを入れて5:00に出発。
しかし、歩き始めて1時間で雨となり、悲しい気持ちとなる。
風も出てきて、視界は50m。
8:50に仙丈岳に着き、寒いのですぐに大仙丈に向かう。
3年前に同じような天気で、山頂直下より小仙丈沢の源頭の方へ迷い込んだことがあったので、慎重に行く。
雨風が強いので、メガネが曇ってしょうがない。
こんな日は稜線を歩きたくないものだ。
大仙丈を越えて少しの二重山稜になっているところでテントを2張発見。
この先はルートが結構分かりずらかった記憶があるので、隣にテントを張ることにした。
まだ9:30だ。
のんびりとラジオを聞きながら過ごす。
今日は全国的に暑いらしい。
八王子は30度以上あるそうだ。
羨ましい。
7月22日(3日目) 曇
夜中に寒くて目が覚めた。
シュラフカバーだけなのでしょうがないが、やっぱり寒いね夏の夜。
6:30に出発し、長い長い仙塩尾根を行く。
山の大きさを感じるすばらしい尾根だと思う。
しかし、ペースは上がらず13:20に三峰岳手前2710mに幕営。
夕方ご飯を作っていたら、一瞬空に青空が見え、何と三日月が。
ありがとう神様。
小鳥のさえずりも聞こえ、幸せな時を過ごした。
7月23日(4日目) 晴
今日は風が強いが良い天気。
三峰岳直下にザックを置いてのんびりと北岳をピストンし、熊ノ平小屋へ。
北岳の高山植物は言葉にならないほど美しかった。
近づいてじーっと見ていると、思わず話しかけていた。
7月24日(5日目) 晴
朝、ご飯を食べながらラジオ深夜便を聴くと、梅雨明けを告げていた。
祝梅雨明け。
待ってました。
というわけで、今日はものすごく良い天気。
仙塩尾根を進み、コウモリ岳をピストンしてから塩見岳を越えて三伏峠へ。
よく歩いた。
コウモリ岳には行くつもりはなかったのだが、近そうに見えたので何気なく行ってみたら遠かった。
人生とはこういうものか。
しかし、行ってみると展望がすばらしかった。
あんな風に富士山が見えるとは。
人生とはこういうものか。
塩見小屋からは、熊ノ平から一緒のおじちゃんと三伏から塩見岳往復のお姉さん2人と一緒に行動した。
全く知らない人どうしが山で出会い、同じ時を過ごす。
山での旅の徒然。
何の損得もない関係。
いや、得得の関係だろう。
私は、このことを含んだ山登りが好きだ。
特に夏山の縦走はこのためにやっていると言っても過言ではない。
出会いはすばらしい。
そして山ってステキ。
三伏峠では、おばちゃん達からたくさんの差し入れを戴いた。
それはもうモテモテだった。
以前、我が会のT島さんが「畠中はおばさんにモテそうだよ。俺も昔はよー……」
と言っていたのを思い出した。
人生には一度すごくモテる時期があると聞く。
まさか今じゃないよね。
まさか今じゃないよね。
夜は戴いたビールと梅酒を飲み、気持ち良く床についたが、テント場にいびきのうるさい人がいてなかなか寝付けなかった。
もし夢で私が大岡越前になったら、絶対島流しにしようと心に誓った。
7月25日(6日目)霧時々雨
今日は荒川小屋まで行きたいので早起きしたが、雨が降っていたので二度寝した。
結局6時に出発。
ガスっていて風が強く寒い。
途中、小河内の避難小屋が新しくなっていた。
今日は黙々と歩く。
荒川のカールは今回で三度目の通過であるが、相変わらずでかい。
また、稜線に出てからも長かった。
山の大きさがよく分かる。
南アルプスはいい。
大好きだ。
荒川前岳からお花畑を楽しみながらのんびりと下ると、こちらも新しくなり、登山客で大賑わいの荒川小屋に着いた(15:15)。
7月26日(7日目) 晴
またまた夜中の24時に目が覚めた。
ほぼ毎日のように寒くて目が覚める。
その度にお湯を沸かし紅茶を飲む。
一人だから許されることだろう。
一人は気楽でいい。
今日はがんばって聖平まで行こうと思っていたが、天気も良いし、もう少し長く山にいたいので百間洞までとする。
コースタイムで4時間。
昼に着いてビールでも飲もうという魂胆だ。
赤石岳では雷鳥の親子もおり、ボーと見ていたり昼寝をしたりした。
極楽だった。
ただ、雷鳥の親子を必死にカメラに収めようとしているおじさんが、追いかけて高山植物を踏みつけていたのには悲しく、呆れて何も言えなかった。
のんびりのんびりして、百間洞山の家には13:00着。
急いで1000円もするビール(500ml)を買って飲み干した。
もう麦芽のない生活は考えられない。
7月27日(8日目)晴のち雨
5:10に出発。
朝は晴れていたが、すぐに雨となる。
風も強くいわゆる悪天だ。
兎岳のピークではほとんど視界もなく、コンパスを頼りに行く。
せっかく聖岳を越えるのにこんな天気では嫌なので、9時前に早々と兎岳避難小屋の前にテントを張った。
兎岳避難小屋はボロボロの小屋だ。
コンクリでできている小屋なのだが、入り口の辺りはコンクリがはがれ傾いている。
夏は全く使う気はしないが、冬は迷わず中に入るだろう。
今日は雨がかなり降っているみたいだ。
井川でも記録的だそうだ。
しかし、今の私はテントの中でTシャツとパンツ一枚で、ガスを炊いてTOKYO FMを聴きながらくつろいでいる。
のんびり濡れたものでも乾かしたい。
あー極楽。
7月28日(9日目) 風雨
いつものように寒くて目が覚めたが、どうも体の調子がおかしい。
喉が痛い。
どうやら風邪を引いてしまったようだ。
この世に生を受けて22年。
最近ようやく自分の体の風邪の引き始めが分かるようになった。
大人になったものだ。
しかし、思い返してみると、原因はシャツとパンツ一枚でくつろいでいたこと意外には考えにくい。
寒い山の上で大人がそんなことをするだろうか。
冷静に考えればしないだろう。
まだまだ大人への道は遠そうだ。
結局、まだ1時だがご飯を食べて風邪薬を飲んだ。
6時に出発し、聖岳には7:50に着いた。
歩いていても頭がポワーンとして力が入らない。
しかし、何としても光岳まで行きたい。
いまさらながら健康管理の甘さに腹が立つ。
相変わらず天気は悪いが、がんばって茶臼小屋まで歩いた。
しかし、こうも天気が悪いと本当に梅雨が明けているのだろうかと疑いたくなる。
今日は人生2度目のお金を払っての小屋泊り(素泊まり)とした。
しかも寝袋まで借りてしまった。
しめて4500円。
寝袋の久しぶりのぬくもりに包まれすぐに眠りについた。
きっと寝顔はにやけていたことだろう。
7月30日(10日目) 雨
今日も雨。
6時に出発し光岳に10:20着。
今山行最後のピークは樹林に囲まれた静かなピークだ。
さあ後は下るだけだ。
光岳からは伊那側に下りようと思っていたが、寸又峡に下りることにした。
寸又峡へは林道歩き40kmが待っているので歩くことなど考えていなかった。
しかし、荒川小屋から聖平まで一緒だったおじちゃんが、
「寸又林道は一生に一度は歩かないとだめでしょう。男のロマンだよね。」と言ったので、その時から自分の中で勝手に盛り上がってしまい、
「ロマン。ロマンだよやっぱり。男にロマンがなくなったらおしまいだー。男はロマンだー。絶対寸又峡に下りてやる。下りてやるぞー。」
となったわけである。
光岳からはひたすら急な樹林帯を下る。
適度に赤布が付いているので迷うことはないだろう。
途中で2回の休憩をはさみ、そろそろ本当に膝が砕けるんじゃないかなという頃に林道に着いた(13:10)。
寸又左岸林道の光岳登山口は山奥の山奥といった感じのするところだ。
その登山口に「寸又峡温泉まで39.9km」という標識が会った。
私にはこれがおかしくてしょうがなく笑ってしまった。
そんな歩いて39.9kmなんて。
八王子から横浜までじゃないか。
最後の締めくくりがこれか。
ハハハ。
歩かないと帰れないのでしょうがなく歩き始めたが、突然土砂降りの雨。
トホホという気持ちで日暮れまで歩き、林道の脇にテントを張り、ご飯を食べたらあまりの疲れに気を失った。
7月31日(11日目) 曇のち晴
歩きに歩いた40km。
途中、展望台より千頭ダムに下りる道を見逃し(何も考えずに歩いていたので)左岸林道をひたすら歩き、気力も足もボロボロになる頃、寸又峡に着いた。
疲れたー。
今回の山行は冬の偵察も兼ねていた。
南アルプスを歩いてみて、山登りの良さを再確認した。
そして、冬に一人でこの果てしなく続く山稜を歩きたい。
ただひたすら黙々とラッセルしたい。
この山にどっぷりと浸かりたい。
自分の山登りができると思う。
でも、私は臆病なので実現しないかもしれない。
まあ、それはそれで良いか。
どっちにしてもこの山行は楽しかった。
でも、まあとりあえずゆっくりと布団で眠りたいな。
それで、コーラ飲んでポテトチップス食べてマンガ読んで・・・あー楽しかった。
またやろうかな。