大菩薩連嶺・小金沢本谷

2018年8月4日~5日
中和(単独、記)

■はじめに
小金沢本谷で滝からフォールして負傷する事故を起こした。
幸い、自力下山できたので騒ぎにはならなかったが、事故を起こしたのは事実なので、簡単に経過を報告する。

■概要
・ルート:大菩薩連嶺・小金沢本谷 (沢登り)
・日程:2018/08/04~2018/08/05
・天候:両日ともに晴れ。水位も平水と思われる。
・事故場所:小金沢本谷F4
・事故内容:F4(6m)からの墜落。
・事故後の対応:自力下山

■主要装備
・沢靴(フェルト)
・ヘルメット
・軍手
・ハーネス
・8.5mm * 60m (未使用)
・フローティングロープ10m (未使用)
・ハーケン8枚 (未使用)
・アブミ (未使用)

■時系列
08/04(土)
13:00 小金沢本谷入渓
16:30 F4で墜落
17:00 F4上の河原でビバーク
08/05(日)
06:00 F4河原を出発
07:00 沢に並走する林道に復帰
09:30 小金沢公園着 (通報等は行わなかった)

■事故状況
静岡の某沢の遡行を予定していたが、沢靴を忘れたため敗退。家に戻った頃には9時過ぎだったため、近場の大菩薩の小金沢本谷に転進することにした。計画書作成などもあり、入渓は午後になったが、小金沢本谷は右岸を林道が並走しているため、いつでも撤退できるゲレンデ沢という安心感があった。

F1/F2はどちらも容易で特に問題にならない。F3(御茶ノ水の滝)は取り付いたものの、大水量に加えて上部がカブり気味で、かなり厳しい。おまけに落ちると釜に引きずり込まれそうで、突っ込む気にはなれず、戻って左岸を巻く。

事故を起こしたF4は、F3のすぐ上にある6m強の滝で、大きな倒木が引っかかっている。上部が悪そうであるがホールドが拾えれば直登可能と判断して取り付いた。まず、倒木に馬乗りになってズリ上がりで倒木の頂点に移動。そこに立ちあがってホールドを探った。水流によってツルツルに磨かれており、ハーケンを打てるリスが無い。2m程上にガバと思われるものが見えるが、そこまでが細かいので、悪いと感じる。水流の近くに細かいホールド・スタンスが拾えそうなので、スタンスが決まるか探っていたところ、水流が強まり右手・右足を剥がされフォール。登ってきた倒木と、釜の中の倒木に足を引っ掛けたり、ぶつけたりしながら釜に落ちる。釜は深く若干水流に揉まれたが、ザックの浮力も手伝って簡単に抜け出すことができた。
釜で全身を洗濯されたせいで軽い目眩がしたが、すぐ収まり、水から上がって大きな外傷は無いことを確認。左足が痛いが、辛うじて歩けたため、F4を左岸から巻いて、滝上の小さな河原で休む。まだ明るかったが、この足で日没までに車に戻れるか微妙だったので、水も薪もある、この河原で一晩過ごすことを決める。湿った薪で着火に苦労したが、どうにか安定した火になり濡れた体も乾かす事ができた。

翌朝になっても、歩くと痛みがひどく、渡渉は四つん這いにならないと不可能なくらいである。遡行を継続できる状況ではないので、撤退を決める。痛みの主原因である左足首にテーピングを厳重に施し、痛み止めを服用。ノコを使って杖を作り、F4河原を後にする。杖を使ったり、這いつくばったりして、斜面を上がると一時間弱で林道に復帰。あとは、2時間以上歩いて車を停めた場所に戻った。

■事故の結果
事故翌日に通院。骨折は無く、左足首・左膝の捻挫。
夏休みの山行はすべて流れ、約束してパートナーに迷惑をかけてしまった。

■事故の原因
ロープを出せない状況で、滑落の可能性がある滝に取り付いたこと。
F4は支点が取れない滝だったが「それ程高さが無く、下が釜なので落ちても大丈夫」と思い、安易に取り付いてしまった。
以下のようなケースでは墜落そのものが非常に危険なので、安易に取り付かず高巻くべきだった。
(a) サラシ場になっており、水中から浮上できない
(b) 大水量の沢で下流まで流される
(c) 倒木や岩などの障害物がある (今回のケース)

■所感
事故を起こしたのが、林道が平行している特殊な沢だったので、容易に下山できた。
山奥の沢だと無理は避けるが、丹沢、大菩薩、秩父といった近郊の沢は、可能な限り直登を試みる傾向があるので、登れるかどうかの判断には慎重さが必要だと思う。

F4登攀時にロープは出せなかったが、今回のような落ち方をした場合、墜落を止めると却って危険な状況に陥る場合もある。
水流に引き込まれて墜落した場合、ソロシステムではロックを解除できないと溺死する可能性があるためである。二人以上であれば、ビレイヤーに流してもらうことも出来るが、ソロシステムの場合、落ちた後に水流を浴びながらのロック解除または登り返し、はたまたロープを切断しての脱出という状況に陥る。支点の位置や滝の形状によっては、墜落を止める事が安全を担保することにはならない事は意識しておく必要があるだろう。

当たり前だが、単独遡行は、墜落しないのが大前提の遊びである。沢登りは水に近いラインの遡行が一番綺麗だと思うが、墜落しない安全マージンをかなり残した上で、高巻きの判断を行う必要があった。