大分/宮崎/鹿児島の沢

2019年4月27日~5月5日
中和(単独、記)

今年は雪が少ないので、連休に雪稜に行く気分が盛り上がらない。沢でも行こうかと思って情報収集していると、九州本土三大ゴルジュなるパワーワードが目に入った。由布川、祝子川、石並川を指しているらしく、いずれも面白そうであったので、調べた翌日には九州行きの航空券をポチっていた。
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概要:大分/宮崎/鹿児島の沢

・石並川水系 本流ゴルジュ前半部/丸木谷
・五ヶ瀬川水系 祝子川 (大崩山荘より上流)
・大分川水系 由布川 (敗退)
・天降川水系 霧島川左俣

行動記録:

4/26(金) 晴れ
移動日。飛行機とレンタカーで石並川の入渓点に移動。

4/27(土) 晴れ
毛谷橋(07:10) – 丸木谷出合(09:55) – H200mコンクリート橋(11:55) – H450m林道(14:29) – H600林道(15:15) – 毛谷橋(17:34)

最初の遡行は、宮崎市から近い石並川を選択。泳ぎの沢として知られるが、逆に言うと泳ぐ事に終始して、滝が殆ど無いそうな。そのため、本流ゴルジュの中間部から、滝を多数持つ丸木谷へ継続することにした。

橋が2本連なる入渓点は、青黒い淵となっており薄気味悪い。河川名の由来である柱状節理の川岸を歩いて行くと、すぐに淵が連続して泳ぎが始まる。水勢は弱いので、ライフジャケットを着ていれば遡行は難しくないが、淵の一つ一つが長い。50m以上あるものが幾つもあり、丸木谷出合までのゴルジュ前半部だけでも普通の沢登りの数十倍の水泳量になる。水温も高いとはいえ、ウェットスーツ無しで遡行するのは、かなり消耗すると思われる。

石並川は泳ぎまくる

丸木谷は4mの直瀑で出合うので惑うことない。出合のF1は難しくないが、直上のF2は柱状節理の岩壁に囲まれ、大水量を巨大な釜に叩き落としている。登れる訳もなく左岸を巻くと道路に出てしまったので、適当な所から沢に復帰した。丸木谷は石並川本流のように長い淵こそ少ないが、釜や淵を泳がないと滝に取り付けないため、支流とは思えない水泳量だ。

丸木谷F1とF2
泳がないと取り付けない滝が続く

標高200mでコンクリート橋が上を横切ると、滝が増えてくるが、やはり釜は大きく泳ぎは避けられない。小さな滝であっても、釜からの這い上がりが出来ないと高巻きに追い込まれることもあり侮れない。中流域に入っても、衰えない水の豊富さに驚き入る。

水から這い上がれず高巻き

標高450m程で林道と交わると、さすがに水量も減って泳ぐような釜は無くなってくる。標高600mでコンクリート橋が横切り、源流までの標高差が100mを切ると渓相も落ち着いてきた。当初は沢泊の予定だったが、中途半端な時間と場所なので、林道と舗装路を歩いて下山した。

4/28(日) 晴れ
大崩橋(07:08) – 大崩山荘(07:30) – 8m滝(10:10) – ゴルジュ終了点(13:45) – 宿泊地(15:15)

続いてやってきたのは祝子川。大崩山には、出張の空き時間にハイキングに来たことがあるが、小積ダキ、広タキスラブのスケールに圧倒され、地元のクライマーが「瑞牆は本州の大崩」とまで言うのは、身びいきではないと思い知らされた記憶がある。

祝子川は、大崩橋から入渓しようと息巻いていたが、橋のすぐ上にF1からF3が連続しており、F2は到底登れる気がしない。おとなしく登山道を歩く。
このままゴルジュ入口まで登山道を進むのが定石のようだが、下流部の巨岩帯を含めて遡行したかったので、大崩山荘から入渓したが、すぐに一軒家サイズの巨岩にぶち当たる。入渓早々に登山道に戻っての高巻き。この上も巨岩がゴロゴロしており、迷路のような渓相をボルダーで越えていくので意外と遡行に時間がかかる。

巨岩帯

湧塚コースが横切ったあとは、岩は小さく、ナメの川床になり、核心のゴルジュが近いことを感じさせる。簡単に巻けるところも、なるべく水流通しに行きたいので泳いで越えていく。核心とされる8m滝も水流沿いに行きたいところだが、水流右側にリングボルトはあるものの、ピンが抜けているのか1ピン目に全く届かない。フリーで登れる代物ではないので、右岸スラブから巻きにかかる。

8m滝

右岸の高巻きは、一段高い場所にエイド用のボルトが残置されているが、ショルダーしないボルトまで上がるのが難しい。リングボルトは無視し、少し手前にあるクラックとスラブを登る。カムとトライカムでビレイ点を作り、アブミを使ってクラックを乗り越せば、あとは灌木帯まで8m程度の草付スラブ。足が豊富で簡単だが、クラックから灌木までは支点が取りずらくランナウトする。

クラックとスラブを巻く。右奥上に残置ボルト

灌木帯から懸垂して沢に復帰すれば、ハイライトである最狭部。釜を泳いで巨岩をフリーで超えていくと幅40cmのゴルジュ。間違いなく今まで遡行した沢で最狭。ここまで狭いと逆に通過が容易なので、ステミングで楽しく超えていく。

40cmゴルジュ

さらに進むと両岸立ったスラブに挟まれた、2m強のヌメヌメCS滝。左側から登ろうとしたがヌメって立ち込めず釜ポチャ。右側をハンマー投げとエイドで突破しようとしたら、ハンマーが外れて再度フォール。後続パーティに追いつかれたため、先を譲ると左側をフリーで超えていったので、ムーブをパクらせて貰い突破。ありがとうございます!

2m滝

ここを超えれば平穏な渓相となり、後から来た地元パーティはここで遡行終了するようだ。自分は鹿納谷へ継続したかったので三里河原を進み、適当な場所でツェルト泊。ゴルジュの上は、基本的にどこでも寝られる感じで薪も潤沢にある。

4/29(月) 雨
宿泊地(06:56) – 大崩山(08:21) – 二枚ダキ登山口(09:52) – 大崩橋(11:02)

鹿納谷・宇土内谷へと継続する予定だったが、天気が悪く、夜半から本降りの雨になってきた。花崗岩の沢は増水も早いので撤退を決める。三里河原を詰め上がり、大崩山から二枚ダキ登山道で下山した。この登山道は荒廃気味でヘッデン下山には不適。

4/30(火) ~ 5/2(木)
天気が悪かったり、寝坊したりでハイキングしたり観光して過ごす。

5/3(金) 晴れ
田代橋(08:02) – 宗津川出合(09:49) – 2m滝(10:56) – 脱渓点(13:15)

この日は、最難と思われる由布川ゴルジュに入る。6時に起床し、谷ヶ淵(朴の木)探勝路に脱出用のロープをフィックス。ウエットスーツに身を包み、田代橋から入渓。
下流の来鉢橋は、水流が茶色で泡も浮いており非常に汚かったので、田代橋に入渓点を変更したのだが、ここも相変わらず小汚い。膝程度の水深でも水底が見えない上に、10分に1本くらいのペースで甲類焼酎のワンカップが流れてくる。ほぼ全てがメルシャンの三楽なのは地域性なのだろうか。著しく気が乗らないが、泳ぎを交えて遡行していく。

水は非常に汚い

渓谷は両岸から竹や樹木が覆いかぶさって陰鬱だが、側壁は20m以下でそこまで圧迫感はない。途中、苔むした日本庭園のようなナメや、人工的に作られた水路のトンネルがあり、中々癒やしの雰囲気だと思う。

日本庭園
水路トンネル

渓相が激変するのは、宗津川出合の手前あたりからで、両岸が極端に立ち始めて薄暗くなる。淵は深く・長くなり、全く足がつかない200mを超える長大な淵まで出てくる。暗く屈曲した廊下で長距離の泳ぎなので、ライフジャケット無しでの遡行は考えたくない。幸い水流は弱いのでラッコ泳ぎでも容易に進めるが、この泳法は前が見えないのが欠点。何か臭いと思って体を反転すると、上流から猫だか狸だかの死骸が流れてきた。トロ場には三楽のワンカップも大量に浮いており、本当に汚い川だ。

長大な淵
長大な淵が続く

淵を泳ぎ切ると、過去には倒木が引っかかっていたという2m滝だが、倒木は既に失われている。倒木にカムやハーケンを決めて突破していたようだが、無いものは仕方ない。
滝の左側をトライするが、水流強すぎて這い上がるどころの話ではない。滝の右側は、水中の岩に足が付くのでショルダーなら突破できそうだが、一人ではホールドのないヌルヌルの岩に歯が立たない。右側にカムを打ってエイドしたいが、#3のカムでも決まらず、これも不可。前進用にジャンピングするのは避けたいので、ハンマー投げをするが、全く引っ掛からない。15分以上トライしたが、ハンマーはかからないので撤退を決めた。

汚水のような長い淵を流れ下り、田代大橋の数百メートル上流から、木の根を頼りに無理やり脱渓。這い上がった場所は、鯉のぼりが泳ぐ民家の横。不潔で陰鬱な空間から、一転してのどかな風景となる事に現実感が湧かなかった。

5/4(土)
新湯温泉(07:12) – 新燃橋(07:40) – 両滝(07:58) – 韓国岳避難小屋(10:49) – 韓国岳(11:23) – 大浪登山口(12:48)

当初は霧島のゴルジュ沢を遡行する予定だったが、由布川に完敗したので、ウェットスーツ着て遡行するような沢をやる気分にならない。もう少しお手軽な沢ということで、霧島川左俣を選んだ。登山道に詰め上がるので、帰るのが楽ちんなのもポイントだ。

入渓点は新湯温泉から林道を30分弱歩いた新燃橋から。橋の銘板と温泉の取水パイプがあるので間違えようがない。ミルキーブルーの特徴的な沢水の色だが、由布川のような排水による濁りではないので不快感はない。序盤はちょっとした滝や釜があるが特に難しいものはない。取水パイプや作業道があるため沢中を進む必要はないが、折角なので水流沿いを遡行していく。

ミルキーブルーの渓谷

地図にも載っている両滝は、見るからにボロくヌメリそうだ。最初から登る気もなかったので、右岸を簡単に巻く。ここから上流は、源流部まで延々と風倒木が埋め尽くすアスレチック会場になっている。ひたすら倒木を越える作業が続き、とにかくストレスが溜まる。ナメ床になって快適に歩ける所も数百メートルくらいはあるが、あとは倒木だらけの谷なので、遡行価値は見いだせない。

春の倒木まつり

水が枯れると倒木も消え、安山岩のナメ床、小石の河原へと変化する渓を淡々と歩くだけで韓国岳避難小屋に出る。このまま下山しても良かったが、貧相な沢で消化不良なので、韓国岳まで足を伸ばしてみた。
もっと静かな山なのかと勝手に思っていたが、登山道も山頂も人だらけ。何でこんなに人がいるんじゃいと思って、下山後に調べてみたところ、何でも霧島連峰は日本百名山であり、韓国岳がその最高峰だそうな。山自体は素晴らしいが、さすがに人が多すぎる。石氷川や霧島川などの沢から韓国岳にダイレクトに詰めれば、静かな登山が楽しめそうだ。

九州最後の沢が、とんでもないスカ沢に当たってしまったが、霧島にはハードなゴルジュが幾つかあるようだし、本土以外に目を転じれば屋久島もある。九州南部は再訪したいエリアだ。

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由布川、祝子川、石並川のいずれも山深さはなく、入脱渓は容易なのでゲレンデ的に遊べる。だけど由布川は遡行難度が高い。ショルダーが使えない単独の場合、田代橋から谷ヶ淵探勝路にたどり着くだけでも、相応の遡行能力が必要になりそうだ。この沢の核心は、谷ヶ淵探勝路より上流の「みこやしき」「めがね」「めくら」の各滝なので、まだまだ実力不足だったか。